認知症のタイプの中で一番多いと言われている「アルツハイマー型認知症」。名前は聞いたことがあっても、発症する原因や治療法など、具体的なことはよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
「アルツハイマー型認知症」は、遺伝だけではなく、日頃の生活習慣や環境など、本人を取り巻く複数の因子によって、認知症のリスクが高まるため、どなたでも発症する可能性があります。
今回は、アルツハイマー型認知症の具体的な症状や進行例などについてご説明したいと思います。

目次

アルツハイマー型認知症とは

脳や身体の疾患等が原因で、一度獲得した知的機能全般が持続的に低下し、日常生活や社会生活に制限を受ける状態のことを、「認知症」といいます。
認知症のタイプはいくつかありますが、その中でも「アルツハイマー型認知症」は、現在、認知症患者の中で最も多いと言われています。

原因

異常タンパクである「アミロイドβ」などが、時間をかけ脳内に少しずつ蓄積され、脳の神経細胞が徐々に死滅していくことにより発症するといわれています。脳委縮が進むにつれ、症状が増えたり悪化したりする、不可逆的な進行性の疾患です。しかし、なぜ「アミロイドβ」が脳内に蓄積されてしまうのかといった詳しい原因は、今のところ解明されておりません。

また、アルツハイマー型認知症では、脳内にアミロイドβが沈着することにより、大脳皮質にシミのようなものがみられる「老人班」や、神経細胞の中に、細い繊維状のタンパク質の塊が蓄積する「神経原線維変化」など、特有の病的変化がみられます。これは、1906年に、ドイツの精神医学者であるアロイス・アルツハイマーが、精神疾患が原因で死亡した女性の脳の病的変化が起こっている部分を調べたことにより発見されました。
現在では、「アミロイドβ仮説」と呼ばれ、アルツハイマー型認知症の原因として、有力な仮説とされています。
(脳の病的変化に「アミロイドβ(アミロイドβ(Aβ)ペプチド)」という異常なタンパク質の沈着がみられたことから、このような仮説が提唱されている)

「アミロイドβ(アミロイドβ(Aβ)ペプチド)」はタンパク質の一種で、脳が活動した際に生まれる老廃物であることから、通称、〝脳のゴミ〟ともいわれています。この〝脳のゴミ〟は、年齢に関係なく、健康な人の脳にも存在する物質で、通常は短期間で分解され、脳内から排出されるようになっています。しかし、加齢などで老廃物の排出機能が低下してくると、それに伴い、アミロイドβが脳内で蓄積されやすくなります。アミロイドβは互いにくっつきやすい性質を持っているため、アミロイドβ同士で塊をつくり、異常なタンパク質となります。神経細胞毒性の強いアミロイドβは、神経細胞を死滅させていき、徐々に脳が委縮していきます。
これが、アルツハイマー型認知症が発症する原因と言われています。

特徴

アルツハイマー型認知症は、「記憶」を司る『海馬』を中心に脳全体が委縮していくことから、「物忘れ」などの記憶障害が目立つのが特徴です。アルツハイマー型認知症を発症したほとんどの方は、初期の頃に「物忘れ」の症状が表れるようになります。ただし、数分前や数日前の記憶(短期記憶)はすぐ失っても、昔あった出来事など、古い記憶(長期記憶)は比較的保たれている傾向にあります。(具体的な症状や進行例については、後程ご説明します。)

また、男性より女性の発病率が高く、その理由としては、女性の方が男性より平均寿命が長いため、高齢者人口に占める割合が相対的に高いことや、その分アルツハイマー型認知症になるリスクが高くなることなどが考えられています。
女性のアルツハイマー型認知症の発症率が高いのは女性ホルモンが関係しているという説もありますが、これについては、賛否両論あるため、いずれにしても男性よりも長生きする女性は、兆候に気を配っていく必要があります。

治療法について

アルツハイマー型認知症の発症原因は、異常なタンパク質の蓄積によるものだと考えられていますが、「アミロイドβ」が蓄積されてしまう理由や、そもそもアミロイドβ仮説が本当に正しいのかどうかといった点も、まだはっきりと解明されておりません。そのため、アルツハイマー型認知症の根治療法は確立されていないのが現状です。治療は認知症の進行抑制がメインとなるため、進行を穏やかにしたり、症状の一部を抑えたりすることを目的として、抗認知症薬と向精神薬による薬物療法が行われています。

遺伝との関わりについて

「遺伝」は、アルツハイマー型認知症発症のリスク因子の一つとして考えられています。
アルツハイマー型認知症の患者の中には、40歳~50歳の比較的若い年齢で発症する方もいますが、若年で発症するアルツハイマーの中には、遺伝性が疑われるものもあります。遺伝性がはっきりしているアルツハイマー型認知症は、「家族性アルツハイマー病」と呼ばれており、ごく近い家族にアルツハイマー型認知症の患者が何人もいることや、若い時期に発症するといった特徴があります。

アルツハイマー型認知症を発症しやすい家系は、アルツハイマー型認知症になりやすい因子を持つ体質を受け継いでいることが原因として考えられています。この〝因子〟というのは、「アポリポタンパクE4(ApoE4)」のことを指します。
「アポリポタンパク質E(ApoE)」は、アミロイドβの蓄積や凝集に関わっている物質の一つであり、脳の中にも多量に存在しています。細胞膜を維持する役割がある一方で、コレステロールを運ぶ役割もあるため、必要以上に増えてしまうと、動脈硬化のリスクを高める原因にもなります。
ApoEの遺伝子型は、主に、ApoE2、ApoE3、ApoE4の3種類あり、その中で、ApoE3は正常型、ApoE4はアルツハイマー病の危険因子といわれています。
そのため、家族性アルツハイマー病を発症した患者さんの遺伝子検査では、この「アポリポタンパクE4(ApoE4)」の遺伝子を持つ方が多くみられるという結果も出ています。
しかし、このように遺伝性の高いアルツハイマー型認知症を発症する患者さんは極めて少なく、ほとんどのアルツハイマー型認知症は、遺伝とは関わりのないところで発症しています。
「アポリポタンパクE4(ApoE4)」を持っているからといって、必ずしも認知症を発症するとは限りません。あくまで、発症しやすい傾向にあると捉えるようにしましょう。どうしても、家族や親戚にアルツハイマー型認知症の人が何人もいて不安だという方は、一度、遺伝子検査を受けて、自分が「アポリポタンパクE4(ApoE4)」であるかどうかを確認してみるのも良いかもしれません。

アルツハイマー型認知症の進行例

アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞のダメージが徐々に広がっていくことから、症状の進行は比較的ゆるやかであることが特徴です。もちろん個人差はありますが、特に初期の頃は基本的に、半年単位で悪化していくくらいの進行速度となります。

初期の頃は、「物忘れ」の症状が目立ちます。(記憶障害)物を置いた場所や最近会った出来事など、数分前や数日前など直前の記憶が失われていきます。
認知症による「物忘れ」は、〝体験した内容、あるいは体験の一部を忘れる〟のではなく、〝体験したこと自体を覚えていない〟というのが特徴になります。しかし、認知症を発症する一歩手前の状態である「軽度認知障害」の時期や、発症してすぐの頃は、まだ本人に「忘れている」という自覚があり、単なる老化現象と間違われ、気づかないケースも多くあります。

「物忘れ」の症状が少しずつ進行していく過程で、現在や過去の区別がつかなくなってしまったり、記憶障害からくる「物盗られ妄想」が起こったりするようになります。
また、現在いる場所や時間、人物が分からなくなる「見当識障害」も加わります。

脳は、知的機能以外にも、司令塔として身体全体のあらゆる機能をコントロールする役割も担っています。症状の悪化が進んで後期になると、身体の動きが不自由になってくるなど、身体機能の衰えが目立つようになります。

アルツハイマー型認知症の進行例

【発症前】

軽度認知症と呼ばれる期間です。この頃はまだ、物忘れをしているという自覚があります。認知症でも住み慣れた環境での生活であれば、普段と変わらない生活を送ることが可能です。
うつ状態になったり、不安感を抱いたりすることもあります。認知症の発症を遅らせる、あるいは進行を抑制するには、この時期での早期発見・早期治療が望ましいとされます。

【初期】

少し前の出来事を忘れる、思い出せないなどの「記憶障害」と、時間の感覚がつかめなくなる「見当識障害」が目立つようになります。
最初の頃は、「老化現象による物忘れ」と区別がつかず、本人も〝忘れている〟という自覚がありますが、症状が進行するにつれ、その自覚も徐々に薄れていきます。
住み慣れた環境での生活であれば、問題なく日常生活を送ることが可能です。
このような時期が、早い人だと2~3年、遅い人だと5~6年かけて、ゆっくり進行していきます。

【中期】

記憶障害や見当識障害の悪化により、「物盗られ妄想」や「徘徊」など、典型的な症状が目立つようになります。介護者の身体的な負担が最も大きくなる時期です。
また、今まで使用できていた家電製品が扱えなくなる、買い物や金銭の管理が難しくなる、衣服の前後が分からなくなる、家事の手順が分からなくなる、トイレ以外の場所で排泄してしまう、入浴ができなくなるなど、さまざま日常の動作に問題が出てきます。
感情のコントロールも難しくなってくるため、すぐに不安がったり、怒りっぽくなったりすることもあります。介護者の身体的負担が最もかかる時期で、この時期は約2~3年続きます。

【後期~末期】

脳の萎縮がさらに進み、記憶のほとんどが失われ、会話も困難となります。身体機能も衰え、歩行や立位・座位の維持、食事、入浴、排泄など、日常生活のすべてに介助が必要な状態となります。
飲食を飲み込むことも困難となってくるため、嚥下障害による誤嚥性肺炎や栄養不良は、死亡原因のひとつとなります。

進行の過程や速度は個人によって異なるため、上記はあくまで進行例の一つになります。

アルツハイマー型認知症患者の平均余命は、発症してから約8年、長くても十数年で死亡するという結果が出ています。合併症の発見が遅れることも多く、混合型認知症(2つ以上の疾患の合併しており、そのうち少なくとも1つが認知症をおこす疾患)になると、病気をかかえていないアルツハイマー型認知症患者に比べ、進行が早く、余命が短い傾向にあります。

アルツハイマー型認知症の薬

現在使用されている薬剤には、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬である「ドネペジル」、「ガランタミン」、「リバスチグミン」の3種類と、NMDA受容体拮抗薬である「メマンチン」があります。いずれも、認知症の進行を抑制するという効果が認められているものであり、抗認知症薬として処方されています。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

脳の細胞間の情報伝達を担う神経伝達物質「アセチルコリン」を分解してしまう酵素「コリンエステラーゼ」の働きを抑制するとともに、アセチルコリンを増やすことで、神経の情報伝達を促進し、一時的な認知機能の改善を図ります。

・ドネペジル
軽度~重度のアルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症における認知症症状の進行抑制に用いられます。意欲の低下が著明の場合などに選択されます。

・ガランタミン
軽度~中程度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制に用いられます。焦燥性興奮・妄想を認める場合、血管性認知症を合併している場合などに選択されます。

・リバスチグミン
軽度~中程度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制に用いられます。背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に1日1枚のみ貼付します。DLBやパーキンソニズムを認める場合や、内服が難しい場合などに選択されます。

NMDA受容体拮抗薬

脳内の神経伝達物質のひとつである「グルタミン酸」の受容体(NMDA受容体)への刺激をコントロールすることで、細胞毒性を示す大量のCa2⁺の流入を適度に防ぎ、神経細胞が傷つくのを防ぎます。

・メマンチン
中等度及び高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制に用いられます。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬と作用機序が異なることから、併用が可能となっています。

以上の抗認知症薬は、認知症の症状そのものに働きかける薬となりますが、それ以外に、「向精神薬」が処方される場合もあります。

脳が正常に機能しなくなることで起こる直接的な症状(記憶障害や見当識障害など)を中核症状といいますが、 この中核症状によって起こる二次的な症状を周辺症状といいます。周辺症状には、「妄想」や「徘徊」、「暴力・暴言」などがありますが、人により、表れる症状は異なります。それまでできていたことができなくなったり、記憶があいまいになったりする不安や苛立ちから、「うつ状態」に陥ることもあります。

これらの症状を緩和することを目的として処方されるのが「向精神薬」になります。向精神薬は、その人に表れている周辺症状によって必要なものが処方されます。

(例)抗うつ薬、抗精神病薬、気分安定薬、睡眠導入剤

同じ話をする認知症の家族にイライラしてしまう方へ

「同じ話や質問を何度も繰り返してしまう」というのは、アルツハイマー型認知症のよくある症状の一つですが、介護をする家族にとっては、認知症の症状であると頭では理解していても、同じ話や同じ質問を何度も繰り返されることで、イライラして、つい、怒ってしまうと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

このような同じ話や質問を繰り返すのは、認知症の中核症状である「記憶障害」や「見当識障害」から起きるものとされています。
「記憶障害」では、最近の記憶から徐々に失われていくため、昔の記憶(子供の頃や若かった頃の思い出など)が残りやすく、若い頃の自慢話や武勇伝などを繰り返し話す認知症の方も多くいます。これに対し、冷たくあしらってしまったり、「また同じ話をしている」と指摘したりすることは、認知症の方にネガティブな感情が残ったり、それにより問題行動を起こしてしまったりする原因となります。

また、「見当識障害」により、日付や時間が分からなくなることから、自分が置かれている状況に不安を感じ、何度も確認してしまう=同じ質問を繰り返すということに繋がります。

何回も同じ話や質問を聞かされるからといって、話を聞く側がイライラした態度をとってしまうと、本人も同じようにイライラしてしまい、悪循環に陥ります。

聞き飽きた話でも、話を聞く側は、はじめて聞いたようにふるまい、適度に相槌をうつことが大切です。テレビをつけて興味をそらしたり、違う話題を振ったりして話を変えてみる方法もあります。
また、ヘルパーさんを何人か呼んだり、デイサービスを利用したりして話し相手を増やしてみるのもおすすめです。介護者の負担を少しでも分散させるために、親せきや知人を家に呼ぶのも良いでしょう。

まとめ

今回は、「アルツハイマー型認知症」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
アルツハイマー型認知症の症状や原因を知ることで、万が一自分や家族がアルツハイマー型認知症を発症した場合でも、早期発見や進行の予防に生かすことができます。実際に、認知症を発症した方のご家族には、ご本人との関係を今後どのように築いていくか、考えるきっかけにもなると思います。
アルツハイマー型認知症だけに関わらず、認知症を発症すれば、発症した方だけではなく、そのご家族も認知症への理解が必要となります。しかし、認知症の症状であると頭ではわかっていても、実際に、すべての症状を甘受することは、かなりの忍耐と精神が必要とする場合があるでしょう。治る病気ではないため、ゴールが見えない分、家族としてつらいことも耐えていかなければいけない場面も多々ある事と思います。
そのため、認知症を発症した方のご家族は、無理をして頑張り過ぎないことも大事です。時には、専門医の方に相談したり、専門のスタッフなど周りの力を借りたりするなど、認知症ご本人だけでなく、自身のことも大切にするようにしましょう。

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