「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」は、今後の認知症施策として、厚生労働省が、関係府省庁と共同し、平成27年1月に策定したものです。
世界有数の長寿国である一方、社会問題となる高齢化が進み続ける日本において、認知症高齢者数は今後さらに増加すると考えられており、今や認知症は、誰もがなりうる・誰もが関わる可能性のある身近な存在となりました。
「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」は、認知症の方の意志が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らしを続けることが出来る社会の実現を目的とし、認知症高齢者等にやさしい地域づくりの指標となっています。
今回は、「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」の概要や、策定された背景などについてご説明させていただきます。

目次

新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)について

厚生労働省は、平成24年に認知症施策としてオレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)を策定しました。
その後、認知症の人が認知症とともによりよく生きていくことができるような環境整備が必要だと考えられ、厚生労働省はと関係府省庁(内閣官房、内閣府、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省)が共同し、平成27年1月に「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」がつくられました。
この新オレンジプランは、今の日本において、認知症高齢者の毎日の生活を守る重要な役割を持っています。

新オレンジプランの基本的考え方

認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す

※厚生労働省 「新オレンジプランの基本的考え方」より

七つの柱

「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」の活動内容ですが、具体的には、以下の7つの柱に沿って進めていきます。

Ⅰ 認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
【基本的な考え方】
認知症は誰にとっても身近な症状であることを伝え、社会全体が認知症の正しい理解を深めるための普及・啓発を推進。

①認知症の人の視点に立って認知症への社会の理解を深めるキャンペーンの実施
広告等を通じて、認知症への社会の理解を深めるための全国的なキャンペーンを展開し、認知症の人が自らの言葉で語る姿等を積極的に発信。

②認知症サポーターの養成と活動の支援
地域や職場などで、認知症サポーター(※)の養成を進めるだけでなく、認知症サポーターが様々な場面で活躍してもらうことに重点を置く。
※認知症サポーター…認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職域で認知症の人や家族に対してできる範囲での手助けをする人のこと。

③認知症を含む高齢者への理解を深める教育を推進(学校教育等にて)
学校で高齢社会の現状を学んだり、高齢者との交流活動によって認知症等の理解を深められるような教育を推進。

Ⅱ 認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
【基本的な考え方】
早期診断・早期対応を軸とし、本人主体を基本とする医療・介護等の密な連携により、認知症の容態の変化に応じて、その時の容態にもっとも適した場所で、医療・介護等が提供される循環型の仕組みを実現。
※例えば〝発症初期〟の時点で、早期診断・早期発見によって適した医療・介護等を速やかに受けられるようにするなど。
発症予防→発症初期→急性増悪時→中期→人生の最終段階

①本人主体の医療・介護等の徹底
なじみのある暮らしを継続し、関係性を保っていけるよう支えながら、認知症の人が持っている能力を最大限に活かすことが本人主体の医療・介護の原則。認知症の医療・介護等に携わるすべての者が共有し、医療・介護等の質の向上を目指す。

②発症予防の推進
運動や口腔機能の向上、栄養改善、社会交流、趣味活動など、日常生活における取り組みが、認知機能低下の予防につながる可能性が高いことを踏まえ、住民主体の運営によるサロンや体操教室の開催など、地域の実情に応じた取り組みを進める。

③早期診断・早期対応のための体制整備
▪かかりつけ医の認知症対応力向上のための研修、認知症サポート医(※①)の養成等を推進。
▪地域の歯科医師、薬剤師の認知症対応力向上を目的とした研修の実施。
▪認知症疾患医療センター等の整備。
▪認知症初期集中支援チームの市町村への設置を推進

④行動・心理症状(BPSD)や身体合併症等への適切な対応
▪医療機関、介護施設等での対応が固定化しないよう、適した場所で適切なサービスが提供される仕組みを構築。
▪行動・心理症状(BPSD)の予防や、行動・心理症状(BPSD)がみられた場合の適切な対応(原則、薬を使わない対応を第一選択とする)。
▪医療従事者の認知症対応力向上を図るための研修実施。
▪認知症リハビリテーションの推進

⑤認知症の人の生活を支える介護の提供
▪介護サービス基盤の整備。
▪認知症介護の実践者から、その先へのステップアップ研修。
▪新任の介護職員等向けの「認知症介護基礎研修」の導入。

⑥人生の最終段階を支える医療・介護等の連携
人生の最終段階においても、本人の尊厳が尊重された医療・介護等が提供されるよう、その在り方について検討を進める。

⑦医療・介護等の有機的な連携の推進
▪認知症ケアパス(※②)の確立。そして、認知症の人やその家族、医療・介護関係者等の間で共有され、サービスが途切れることなく、提供されるようにその活用を推進。
▪医療・介護関係者等の間の情報共有の推進を図るため医療・介護連携のマネジメントのための情報連携ツールの例を表示し、連携を推進。
▪市町村ごとに認知症地域支援推進員を配置、認知症ライフサポート研修の積極的活用。
▪地域包括支援センターと認知症疾患医療センターとの連携の推進。

※①認知症サポート医…かかりつけ医へ、認知症診断等に関する助言やその他の支援を行い、 認知症に関わる地域医療の連携の推進役を担う。
※②認知症ケアパス…生活機能障害の進行状況に合わせ、いつ、どこで、どのような医療・介護サービスを受ければよいのか、これらの流れをあらかじめ標準的に示したもの。

Ⅲ 若年性認知症施策の強化
【基本的な考え方】
就労や生活費等の経済的問題がある若年性認知症(65歳未満で発症する認知症)の、居場所づくり等の様々な分野にわたる支援を総合的に行う。

▪初期症状では診断しにくく、受診が遅れることが多いといった点から、若年性認知症についての普及啓発を進め、若年性認知症の早期診断・早期対応へと繋げる。
※若年性認知症と診断された人やその家族に「若年性認知症支援ハンドブック」を配布。
▪都道府県の各相談窓口に支援関係者のネットワークの調整役を配置。
▪若年性認知症の人やその家族が交流できる居場所づくり等、若年性認知症の特性に配慮した就労・社会参加支援等の推進。

Ⅳ 認知症の人の介護者への支援
【基本的な考え方】
介護者への支援を行うこと=認知症の人の生活の質の改善にも繋がる。介護者の精神的・身体的な負担の軽減や、生活と介護の両立を支援する取り組みを推進。

①認知症の人の介護者の負担軽減
▪早期診断・早期対応(認知症初期集中支援チーム等による)。
▪認知症カフェ等の設置推進。

②介護者たる家族等への支援
▪家族向けの認知症介護教室等の普及促進。

③介護者の負担軽減や仕事と介護の両立
▪介護ロボット等の開発支援。
▪職場環境の整備を行い、仕事と介護が両立を目指す。

Ⅴ 認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
【基本的な考え方】
生活支援、生活しやすい環境の整備、就労・社会参加支援及び安全確保を行うことで、認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりを推進。

①生活の支援
家事支援、買物ができない方への宅配等のサービス提供支援、高齢者サロン等の設置推進、高齢者が利用しやすい商品開発の支援、新しい介護食品を高齢者が手軽に活用できる環境整備。

②生活しやすい環境の整備
多様な高齢者向け住まいの確保の支援、公共交通施設や建築物等のさらなるバリアフリー化の推進及び高齢者の移動手段を確保するための公共交通の充実を図る。

③就労・社会参加支援
▪就労、地域活動やボランティア活動等の社会参加の促進。
▪若年性認知症の人が通常の事業所での雇用が困難な場合の就労継続支援。(障害福祉サービス)

④安全確保
▪地域での見守り体制を整備することで、独居高齢者の安全確認や行方不明者の早期発見と保護、詐欺などの消費者被害の防止を図る。
▪認知機能が低下していることによる交通事故を未然に防止するための制度の充実と、交通安全確保の推進。
▪高齢者の尊厳保持のため、高齢者虐待防止と身体拘束ゼロの推進。
▪成年後見制度(特に市民後見人)や法テラスの周知や利用促進。

Ⅵ 認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進
【基本的な考え方】
認知症の原因となる疾患それぞれの病態解明や行動・心理症状(BPSD)等を起こすメカニズムの解明を通じて、認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発を推進。

▪認知症の病態等の解明を進め、早期発見や診断法の確立、そして、根本的治療薬や効果的な症状改善法、有効な予防法の開発に繋げる。
▪認知症の人の自立支援、そして、介護者の負担軽減のため、ロボット技術やICT技術を活用した機器等の開発支援・普及促進。

Ⅶ 認知症の人やその家族の視点の重視
【基本的な考え方】
認知症の人を支える側の視点に偏りがちだったこれまでの認知症施策から変わり、認知症の人やその家族の視点。

①認知症の人の視点で、認知症への社会の理解を深めるキャンペーンの実施
②初期段階の認知症の人のニーズ把握・生きがい支援
▪認知症の人が必要と感じていることについて実態調査を行う。
▪認知症の人の生きがい支援。
③認知症施策の企画・立案や評価への認知症の人やその家族の参画。
認知症の人やその家族の視点を重視。認知症施策の企画・立案や評価に反映させる取組。

新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)が策定された背景

令和7年(2025年)は、75歳以上の高齢者(後期高齢者)が急増する年とされています。これは、戦後すぐの第一次ベビーブームである1947~1949年頃に生まれた、「団塊の世代」と呼ばれる最も人口の多い世代が、75歳の年齢に達するためです。
疾病や要介護状態になるリスクが高まる75歳以上の高齢者が急増する一方、少子高齢化で若い世代の人口は減少しているため、医療や介護を支えている社会保障の財源は圧迫し、受け入れてくれる病院や施設は不足、医療・介護・社会保障費に深刻な影響をもたらすと考えられています。これを「2025年問題」といいます。

厚生労働省は、高齢化が進むに伴い、令和7年(2025年)には認知症高齢者の数は約700万人、65歳以上の高齢者の約5人に1人は認知症または認知症予備軍であるという推計値を発表しています。

認知症高齢者の介護は、特に家族にかかる負担が大きく、地域全体で支えていくことが必要です。地域社会の認知症への理解が不足していると、防げる可能性もあった認知症の人の事故・事件を防止できない可能性も考えられます。
そこで厚生労働省では、「認知症の人を単に支えられる側と考えるのではなく、認知症の人が認知症とともによりよく生きていくことができるような環境整備が必要」と考え、平成27年1月に、「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」を策定しました。策定に当たっては、認知症の人やその家族など、様々な関係者からの幅広い意見の聴取を行いました。認知症の人の意思を尊重しながら、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるための社会の実現を目指すため、具体的な取組や数値目標が定められています。

新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)の〝オレンジ〟とは

新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)の〝オレンジ〟の由来に関しては、厚生労働省から公式に言及したというわけではありません。諸説ありますが、最も有名なのは、陶工柿右衛門の赤絵磁器からきているという説です。
赤絵磁器とは、「濁手」と呼ばれる乳白色の素地に、鮮やかな赤絵が映えた陶磁器で、柿右衛門は、庭にあった柿の木からインスピレーションを受け、当時、発色が難しいとされていた鮮やかな赤絵を作り出し、のちに「柿右衛門様式」を確立させました。
この赤絵磁器は、ヨーロッパなどにも輸出されるようになり、「柿右衛門様式」は世界で大きな人気となります。
また、暖かさや優しさを感じる柿の色(オレンジ)は、「手助けします」という意味も含まれており、赤絵磁器のように、「認知症支援の証として、この施策が日本から世界に広がっていってほしい」という思いを込めて「オレンジプラン」とネーミングしたようです。
認知症サポーターの目印であるリストバンドもオレンジ色となっており、「認知症カフェ」は「オレンジカフェ」と呼ばれることもあります。

新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)とオレンジプランの違い

もともとは、平成25年度から平成29年度までの暫定施策として、平成25年より、「オレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)」による取り組みが実施されていました。これを改めたものが「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」になります。

「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」は、「オレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)」の内容がベースとなっており、新たな項目の追加や目標値の引き上げが行われています。
また、新オレンジプランでは、「認知症の高齢者が自分らしく生活できる環境」を提供することを重要視しているため、オレンジプランの時よりも、「認知症」への理解を深めてもらうための活動がメインとなっています。

オレンジプランは厚生労働省内で策定されましたが、新オレンジプランは、関係省庁が共同して改定に取り組んだため、認知症の人の生活全般を網羅しているのが特徴的です。

新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)の中心施策の1つともいえる〝認知症カフェ〟

「介護者の負担軽減」は、新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)の中心施策であり、「認知症カフェ」はそのうちの一つです。オランダで始まったアルツハイマーカフェが源流となっており、世界各国にさまざまな形で広がっていきました。
日本では、認知症カフェが、平成24年(2012年)のオレンジプランに初めて記載されています。現行の新オレンジプランでは、認知症カフェの全市町村設置を目指すことが示されています。
認知症カフェとは、自治体やNPO法人などが運営する、認知症高齢者とその家族が集える場のことで、「認知症の人の介護者の負担を軽減するため、認知症の人やその家族が、地域の人や専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解し合う」ことを目的としているものです。
お茶やコーヒー、軽食などを楽しみながら、当事者だけでなく、地域の住民や専門家と情報交換をすることで、介護者の心理的な不安を軽減します。

開催頻度や開催場所はさまざまです。週1程度で開催しているところもあれば、月1回で開催しているところもあります。カフェといっても、会場は、公民館だったり、施設の共有スペースだったりと、カフェ以外の場所で開催されることもよくあります。
基本的には途中入退室が可能で、参加者が自由に行動することができますが、場合によってはプログラムが組まれていることもあります。
参加費用は一人につき100円程度のところが多く、これに、自分が注文した飲食費等がプラスされます。そのため、負担する費用もそこまで高くありません。

認知症カフェは定期的に開催されているため、参加を希望している、あるいは興味があるという場合には、まず、市町村から発行されている広報誌や、町内の掲示板などをこまめにチェックしてみると良いでしょう。これから開催予定のものが記載されていることがあります。
満員でない限り、当日参加も可能というところもあるかもしれませんが、基本的には、電話やメール等で事前に連絡をし、予約しておくのがおすすめです。

まとめ

今回は、「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)は、認知症の人が安心して住みやすい環境を作ったり、介護者にかかる負担を軽減したりするためのものです。残念ながら、少子高齢化が進む日本での認知症介護は、家族間だけで解決するのは難しいのが現状です。普段から、認知症の人を社会全体で見守る意識が、今以上に重要となってくるでしょう。

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