「住所地特例制度」は、住民票がある場所とは別の市町村にある介護施設に入所・入居する際、住民票を移しても、前に住民票があった市町村がそのまま保険者を継続するという制度です。

原則、介護保険給付は、住民票をおく市町村から受けることになっています。この制度は、介護施設が多い市町村ほど介護保険給付費の負担が大きくなってしまうのを防ぐ目的として設けられました。今回は、「住所地特例制度」の必要性や対象者などについてご説明したいと思います。

目次

住所地特例制度とは

介護保険制度では、40歳以上のすべて国民が介護保険の被保険者となり、その被保険者が住んでいる(住民票がある)市町村が保険者となるのが原則です。(住所地主義)

しかし、利用者(被保険者)が介護保険施設や特定施設に入所するために住所を変更した場合、例外として、移転前の市町村が引き続き保険者となります。これを、「住所地特例制度」といいます。住所地特例制度は、要介護認定を受けていない自立の方の場合でも適用されます。

住所地特例制度の対象となる施設の種類

【介護保険施設】
・介護老人福祉施設(入所定員30人以上の特別養護老人ホーム)
・介護老人保健施設(老人保健施設)
・介護療養型医療施設
・介護医療院

【特定施設(入居定員29人以下のものを除く)】
・有料老人ホーム(介護付・住宅型含む)
・軽費老人ホーム
・サービス付高齢者向け住宅※
・養護老人ホーム

※「サービス付高齢者向け住宅」は、平成27年の介護法改正の際に追加された施設です。ただし、有料老人ホームに該当するサービス(介護、食事、洗濯・家事、健康管理の少なくともいずれか)を提供し、地域密着型特定施設に該当しない施設が対象となっています。

「住所地特例制度」等、介護保険の適用除外となる施設は下記の通りになります。

介護保険適用除外施設

① 児童福祉法に規定する医療型障害児入所施設

② 児童福祉法に規定する厚生労働大臣が指定する医療機関(当該指定に係る治療等を行う病床に限る。)

③ 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園法の規定により独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園が設置する施設

④ 国立及び国立以外のハンセン病療養所

⑤ 生活保護法に規定する救護施設

⑥ 労働者災害補償保険法に規定する被災労働者の受ける介護の援護を図るために必要な事業に係る施設(同法に基づく年金たる保険給付を受給しており、かつ、居宅において介護を受けることが困難な者を入所させ、当該者に対し必要な介護を提供するものに限る。)

⑦ 障害者支援施設(生活介護を行うものであって、身体障害者福祉法の規定により入所している身体障害者又は知的障害者福祉法の規定により入所している知的障害者に係るものに限る。)

⑧ 障害者総合支援法に規定する指定障害者支援施設(支給決定(生活介護及び施設入所支援に係るものに限る。)を受けて入所している身体障害者、知的障害者及び精神障害者に係るものに限る。)

⑨ 障害者総合支援法に規定する指定障害福祉サービス事業者である病院(療養介護を行うものに限る。)

≪出典≫厚生労働省 社会保障審議会 介護保険部会(第59回)「介護保険適用除外施設における住所地特例の見直しについて」

法令で定める上記の施設に入所・入院している方は、介護保険の被保険者とならないことになっています。したがって、住所地特例の対象外となります。

住所地特例制度の例

住所地特例制度が必要な理由

介護保険施設等を探している際、今現在住民票がある市町村とは、入居や入所を希望する施設が、別の場所にあるというケースはよくあることです。

先ほどもお伝えしたように、介護保険では、被保険者の住所地となっている市町村が保険者となるのが原則です。

しかし、この『住所地主義』を貫いた場合、介護保険施設等の設置数が多い地域ほど、その市町村の介護保険料負担が増加、その一方で、介護保険施設等が少ない地域の市町村の介護保険料の負担は減少するので、市町村ごとに格差が生じることになります。こうした事態を回避するために設けられた特例措置が、「住所地特例制度」です。

住所地特例対象者

介護保険第1号被保険者(65歳以上の方)または第2号被保険者(40歳から64歳の医療保険加入者)で、住所地特例制度の対象となる施設に入所・入居した方が対象です。

また、要介護認定の有無は関係なく、対象の施設に入所等していれば、住所地特例制度が適用されます。

あくまで、介護施設に入居することが目的で住所を変更する場合のみが対象、一般住宅への引っ越しは住所地特例制度の対象外となります。

住所地特例対象施設の手続きについて

以下のような場合、被保険者は、「介護保険 住所地特例 適用・変更・終了届」を、住所変更前の市町村の担当窓口に直接提出するか、郵送で提出することになります。

  • 住所地特例制度の対象となる施設に入所・入居し、施設所在地に住所を変更した場合
  • 既に住所地特例が適用されているが、他の市町村に設置されている対象施設へ住所を変更した場合
  • 施設を退所する場合
  • 施設内で異動があった場合
  • 死亡した場合   など

「住所地特例 適用・変更・終了届」は各市町村の窓口に用意されていますが、各市町村のホームページからダウンロード・印刷することも可能です 「住所地特例 適用・変更・終了届」には、届出人・被保険者・世帯主や、異動前・異動後の情報等を記入します。

手続きの際に主に必要なもの

  • 住所地特例 適用・変更・終了届
  • 介護保険被保険者証
  • マイナンバー(個人番号)の確認ができるもの
  • 申請者(本人または代理人)の身元確認ができるもの

手続きは、各市町村が定めている期間内に行うようにしてください。(基本的には、住民異動があった日から14日以内) また、市町村によって手続きの方法が異なる場合もあるため、まず、手続きの際は役所の担当窓口等に問い合わせするようにしましょう。

住所地特例制度のメリット・デメリット

メリット

  • 現在住所のある市町村が、転居先の施設が所在する市町村と比べ、介護保険料や国民健康保険が安く済む場合がある

要介護者の人数や介護設備の整備状況等から、介護保険の負担額は自治体によって異なります。そのため、同一のサービスでも、地域ごとで利用料に差があるのが現状です。介護保険料や国民健康保険の負担額が、転居先の市町村の方が高かった場合、利用者は転居前の負担額で済むため、費用が安く抑えられます。

また、負担額を改めて計算し直す必要がないというメリットもあります。

デメリット

  • 住民票がないと、市町村が提供する住民向けのサービス(公共施設の割引や補償等)が利用できなくなる

市町村から提供される地域特有の住民向けサービスは、そこの地域に住民票を置いている方のみが利用することができるサービスです。よって、転居前に受けていたサービスが、転居先の市町村では行われていないということであれば、そのサービスを利用することはできなくなります。

まとめ

今回は、「住所地特例制度」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

「住所地特例制度」は、介護施設に入所・入居することを目的に転居した場合のみ、住所変更前の市町村が引き続き保険者となる特例措置がとられる制度であり、利用者は、今までと同じ保険料を支払うことができます。

この制度を利用するためには、住所変更した際に必要な書類を期限までに提出し、手続きを行わなければなりません。詳しく知りたい方は、市町村の担当の窓口に相談するなどして確認してみましょう

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