厚生労働省の調査によると、介護保険料滞納者は、年々増加傾向にあるといわれており、社会問題になりつつあることをご存知でしょうか。介護保険料の滞納は、将来、介護が必要になった時、介護サービスの利用が難しくなります。
滞納によって保険給付の制限措置を受けてしまった場合、高額な自己負担は、家族にまで及ぶ可能性があるため、滞納者本人だけの問題で済むことばかりではありません。
そこで今回は、介護保険料を滞納した場合の措置や、介護サービス利用時の影響などについてご紹介したいと思います。

目次

介護保険料の徴収について

高齢化が進む日本では、老老介護や介護離職など介護にまつわる社会問題が深刻化してきています。そんな中、40歳以上の国民全員が保険料を支払い、介護を社会全体で支えることを目的に作られた仕組みが「介護保険制度」です。
介護保険制度によるサービスを利用できるのは、保険料を支払っている、要介護認定を受けた被保険者(加入者)のみです。
介護保険サービスを利用する場合、かかった費用の1~3割が自己負担で、残りの7~9割は、介護保険制度の負担(介護給付費)となります。
この介護給付費のうち、50%は、被保険者から徴収された介護保険料で賄われています。

被保険者は、「第1号被保険者(65歳以上の方)」と、「第2号被保険者(40歳~65歳未満の医療保険加入者)に分類されます。この分類により、それぞれ保険料の納付方法は異なります。

■第1号被保険者(65歳以上)の場合
第1号被保険者の場合、保険料の支払い方法は、年金から天引きされる「特別徴収」と、市町村から発行される納付書で直接納める、あるいは口座振替で納める「普通徴収」があります。対象となる年金(老齢・退職年金、遺族年金、障害年金)の支払額が、年額18万円を超える場合は、「特別徴収」の対象となります。

■第2号被保険者(40歳~64歳)の場合
第2号被保険者の場合、介護保険料は、医療保険分と一緒に支払います。加入している医療保険ごとに金額は異なります。納付方法は、職場の「健康保険」に加入している場合、給料からの天引きとなりますが、自営業などで国民健康保険に加入している場合は、振込票や口座振替などで納付となります。

介護保険料を滞納した場合の措置

介護保険料の支払いは義務であるため、保険料を滞納している被保険者に対しては、行政から、郵便や電話、訪問するなどの方法で通知をし、一定期間催促を行います。それでも滞納者の自主的な納付が期待できない場合は、滞納となっている保険料を強制的に徴収する権限が、保険者である市町村に与えられます。この権限を「徴収債権」と言います。
「徴収債権」の期限は、保険料の納期限の翌日から2年間です。2年が経過すると、時効により、滞納者は保険料を納めることができなくなります。時効消滅した保険料がある場合、滞納した期間に応じ、保険給付が制限され、高額サービス費の支給はなくなります。

また、滞納している間も、保険給付を制限する措置が取られます。延滞金が発生する他、滞納者の被保険者証には、「給付額減額」・「代理受領不適合」・「高額サービス費不支給」などが記載されます。

●保険料未払いのまま要介護認定を受け、サービスを利用する場合
保険料の滞納期間中に、要介護認定を受け、介護サービスを利用する場合、費用の支払い方法は、「現物給付」から「償還払い」に切り替わります。
「償還払い」方式は、利用者が一旦費用を全額支払い、あとから申請して、自己負担分を除いた給付費が払い戻されます。納期限の翌日から1年経過した場合は、申請をすることで、自己負担分を除く給付費が返還されることになります。
しかし、納期限の翌日から1年6ヶ月を経過すると、「償還払い」方式により返還されるはずの保険給付費の一部、または全額が、一時的に差し止めになります。その分を、滞納している保険料の支払いに充てる場合もあります。
保険給付支払いの一時差し止めを受けている人がさらに滞納を続け、納期限の翌日から2年経過すると、滞納者は、時効により保険料を納めることができなくなります。
未払い分の保険料は、差し止められた保険給付で相殺します(滞納保険料の金額関係なく)。

●第1号被保険者で、要介護認定前の保険料滞納分が時効により消滅し徴収できない場合
要介護(要支援)状態となり保険給付を受けることになった場合、過去に時効消滅した保険料があると、その未納期間分の保険給付の給付率が、「9割(または8割か7割)」から、「7割(または6割)」に下がります。
さらに、高額介護サービス費(自己負担額が高額になった場合に支給される保険給付)の支給もなくなります。

●主に国民健康保険に加入している第2号被保険者で国民健康保険料の滞納がある場合
被保険証に記載され、支払方法の変更と併せて、保険給付が一時差し止めされます。

このように、介護保険料を滞納してしまうと、延滞期間が長くなるほど負担額が大きくなりますし、いざ介護が必要になった時も、十分なサービスが受けられなくなります。

介護保険料は、第2号被保険者の場合、給与から天引き、あるいは国民健康保険と一緒に徴収となり、第1号被保険者の場合、年金から天引きされる「特別徴収」であれば、滞納が生じることはほとんどありません。
しかし、年金受給額が年額18万円未満の方は「普通徴収」の対象となりますので、特に納付書による支払い方法を選択している場合、コンビニエンスストアや金融機関の窓口などに自ら出向く必要があります。支払い忘れが起きやすいこともあるため、支払期日を確認し、前もって支払予定を立てておくようにしましょう。

低所得者などへの介護保険料の減免や猶予

高齢者世帯の経済状況はさまざまです。収入によって、保険料の支払いや、サービスを利用した際の利用者負担分の支払いが問題なくできる方もいれば、困難な方もいます。
介護保険制度には、所得等の理由で制度が思うように利用できないということがないように、低所得者などへ配慮した仕組みがとられています。
災害等の特別な理由がある場合も同じです。

●特定入所者介護サービス費
介護保険サービスを利用した際、原則、費用の1割が利用者の自己負担となりますが、その自己負担分の1ヶ月の合計が上限を超えてしまった場合、申請をすると、超過分の金額が「高額介護サービス費」として利用者に払い戻されます。

●利用料を支払うと生活保護の対象となる場合
介護保険サービスの利用料を支払うことで生活保護の基準を下回る場合は、負担額軽減の対象となります。

●旧措置入所者の負担軽減
介護保険制度が施行される(平成12年4月1日)前に特別養護老人ホームに入所している方は、経過措置により負担軽減が図られます。

●災害等の特別な理由がある場合の措置
災害等の特別な理由がある場合、保険料やサービス利用料の減免措置、あるいは徴収猶予が認められます。

また、第1号被保険者の保険料に関しては、本人や世帯の所得に応じた金額になるよう、段階的に設定されています。
標準の所得段階は9段階ですが、9段階以上に設定してある市町村も多くあり、所得段階が多いほど、負担能力に応じた保険料となっています。
保険料の基準額も市町村ごとで異なります。

介護保険料の滞納によって資産差し押さえが増加しつつある

厚生労働省が、令和元年9月17日に公表した、「平成30年度介護保険事務調査の集計結果について」によると、介護保険料の滞納により、市町村(保険者)に資産を差し押さえられた人は、2017年度(平成29年度)の1年間で1万5,998人であったことが分かりました。「平成29年度介護保険事務調査の集計結果について」の訂正後の数字と比較すると、前年度と比べ、滞納者が1,183人増加したことが分かります。調査が始まった2013年以降、最も多い数字となります。
さらに、資産を差し押さえられた1万5,998人のうち、滞納保険料充当人数は1万1,193人であることから、保険料の支払いを1年6ヶ月以上滞納している人が約7割もいるとも考えられます。
※調査は全国の1741市町村が対象。回答率は100%。

介護保険料の滞納者増加は、介護保険料が年々上昇していることが背景にあるとみられています。今後も、高齢化の進展に伴い、介護ニーズはますます増大するため、保険料はさらに引き上げられる見込みです。経済的に余裕のない高齢者も増加し、結果的に、滞納者や、サービス利用を控える方が急増するおそれがあります。

2番目の項目でもご説明した通り、保険料を滞納すると、「給付制限」等の制限措置を講じられます。保険給付の制限を受けた滞納者1万3,981人のうち、「給付減額」が1万1,253人、保険料の「償還払い化」が2,696人、「保険給付の支払の一時差止」が32人でした。
滞納者が保険給付の制限を受けるのは、滞納期間が1年を超えた人が対象であるため、トータルで見た場合、1年以上滞納している人は、前年度より593人増加したことが分かります。

滞納している場合は相談に行きましょう

介護サービス利用の有無にかかわらず、介護保険料を滞納していれば、滞納期間が長くなるほど延滞金は高くなり、最終的には財産を差し押さえられてしまいます。
3番目の項目でもお伝えしたように、収入が少ない方や災害など、やむをえない事情で支払いが困難な場合には、保険料の徴収猶予や減免措置(減額や免除)が適用されることがあります。支払いが難しいからといっていつまでも放置していると、本来なら支払わずに済んだ延滞金が発生し続けるだけで、ますます負担が重くなるだけです。
介護保険金を滞納していたり、支払いが難しかったりする場合は、まず、各市町村の保険の窓口に早めに相談にするようにしましょう。先ほどお伝えしたとおり、一定の要件に該当すれば、保険料の減免措置を受けられる可能性があります。
また、保険料や介護サービスの自己負担分の支払いだけでなく、生活すること自体が経済的に難しいという場合には、生活保護の申請という手段もあります。生活保護費のうちの「生活扶助」の部分に、介護保険料の金額分が加算され支給されることになります。

まとめ

今回は、介護保険料の「滞納」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

介護保険料を滞納すると、最終的には自分に返ってくることになります。
しかし、介護保険料は年々上がってきているため、支払いをしたくても経済的理由で支払えない方が増えてきているのも事実です。
介護保険制度は、それぞれの負担能力に応じた適切な保険料の設定や、自己負担額が高額になった場合に超過分の金額が払い戻される制度など、低所得者などへ配慮した仕組みがとられています。
保険料を滞納すると、延長した分だけ負担が大きくなり、ますます支払いが困難となります。悪循環に陥らないためにも、支払いが難しいと感じたら、各市町村の介護保険の窓口に相談するようにしましょう。

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