「通い」「訪問」「宿泊」のサービスを一つの事業所で一体的に提供されている「小規模多機能型居宅介護」。利用者は、顔なじみのスタッフから、希望や状況に合わせた組み合わせでサービスを受けることができるため、24時間365日安心して自宅での生活を継続することができます。
今回は、「小規模多機能型居宅介護」のサービス内容や、利用方法などについてご紹介させていただきます。
小規模多機能型居宅介護とは
小規模多機能型居宅介護の特徴
「小規模多機能型居宅介護」では、1つの事業所で、通所介護、訪問介護、短期入所生活介護にあたる3つのサービスを、一体的に提供しています。
【通いサービス(デイサービス)】
施設に通い、日帰りで介護サービスを受ける。1日の定員枠を越えなければ、利用できる曜日や時間帯は特に決まっておらず、お昼だけ食べに行くといった利用方法でも○。緊急時の対応も可能となっている。
【訪問サービス(ホームヘルプ)】
専門のスタッフが自宅に訪問。回数や時間帯、内容に制限はなくサービスを受けられる。夜間の利用も可能。
【宿泊サービス(ショートステイ)】
サービスを提供する事業所に短期間宿泊し、介護サービスを受ける。「通い」や「訪問」でなじみのあるスタッフと過ごすことができる。利用者数に空きがあれば、突然でも利用が可能。
利用者は、これら3つのサービスを24時間365日切れ目なく、臨機応変に組み合わせることが可能です。居宅、またはサービスの拠点に通う、もしくは短期間施設に宿泊し、食事、入浴、排泄等の介護や、その他日常生活上の支援、生活に関する相談・助言、健康管理、機能訓練等のサービスを受けることになります。
例えば、「通いサービス」を中心に、本人の体調が優れなければ「訪問サービス」、家族が家を留守にする時は「宿泊サービス」を利用するなど、「小規模多機能型居宅介護」では、利用者の希望や状況に合わせて可能な限り在宅での生活を続けられます。
また、同じ敷地内に、小規模な有料老人ホームや特別養護老人ホーム、グループホーム、介護療養型医療施設などが併設されている場合には、利用者の状況に応じてそれらの施設に入居することも可能です。
「小規模多機能型居宅介護」は、地域包括ケアを進めるサービスとして、2006年4月に創設されたものです。それまでは、「通所介護」、「訪問介護」、「短期入所生活介護」を利用する場合は、それぞれ異なる事業所で契約し、必要なサービスを受けていました。
しかし、事業所が異なることで、各サービスを利用するごとに担当のスタッフや周囲の環境が変わってしまい、継続的なケアが難しいといった問題がありました。
「小規模多機能型居宅介護」では、一つの事業所で3つのサービスを受けることができ、また、名称の通り〝小規模〟であることから、スタッフや他の利用者となじみの関係を作ることができ、個人の状況や要望等に合わせた細やかな対応も可能となっています。
ただし、1日の利用定員には限りがあるため、事業所に登録している方全員が毎日サービスを利用するということは難しく、また、全員が希望の日時でサービスを利用することができるというわけではありません。
小規模多機能型居宅介護は、あくまで、「利用者が居宅での生活を可能な限り、続けていけるよう支援する」「家族の居宅介護を支える」ことを目的としたサービスです。毎日「宿泊」サービスを利用するといった利用方法は、本来の目的とは異なることになるため、本当に必要とするサービスを見極める必要はあります。
小規模多機能型居宅介護には、通常の事業所とサテライト型事業所の2つの類型があります。
サテライト型は、本体事業所と密接に連携をとりながら、本体事業所とは別の場所で運営される小規模の事業所です。原則として、本体施設から通常の交通手段を利用し、おおむね20分以内で移動できる距離に設置されていなければならないことになっています。これにより、利用者は、より身近な地域で介護サービスを受けることができるようになっています。通常の事業所と
サテライト型事業所では、どちらも提供されるサービス内容に大きな違いはありませんが、登録定員などが異なります。
職員体制
施設には、以下のように職員が配置されています。
医居宅介護従業者 | 通いサービス提供者は、利用者3人につき1人以上(常勤換算) 訪問サービス提供者は、1人以上(常勤換算) 夜間・深夜の勤務にあたる者は1人以上 上記のうち1人以上は看護師または准看護師で、常勤 |
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介護支援専門員 | 専従の者(支障がなければ兼務可) |
管理者 | 常時・専従の者(支障がなければ兼務可) |
代表者 | 事業所などで認知症ケアに従事した経験を持つ者など |
※看護職員などの人員は、サテライト型では緩和されています。
施設には、居間、食堂、宿泊施設を設けることになっており、家族や地域住民との交流機会が図れる場所に設置されることになっています。
小規模多機能型居宅介護には、利用者の外出機会を増やし、生活リズムをつくるという目的がある他、認知症高齢者への効果も期待されています。認知症の方は、周囲の環境の変化に対応するのが難しく、それにより不安やストレスを抱えることで、認知症の症状悪化の原因にもなります。小規模多機能型居宅介護では、どのサービスを利用しても、一つの事業所で、いつも顔なじみのスタッフが対応してくれるため、認知症の方にとっては利用しやすい環境となっています。
訪問看護が追加された「看護小規模多機能型居宅介護」
小規模多機能型居宅介護は、通所介護、訪問介護、短期入所生活介護にあたる3つのサービスを一体的に提供できるものであるとご説明しましたが、これら3つのサービスに「訪問看護」が追加されたものを「看護小規模多機能型居宅介護」といいます。「看護小規模多機能型居宅介護」では、「訪問看護」を行うことで、小規模多機能型居宅介護では対応が難しかった医療的なケアを必要とする利用者に、適切なサービスを行うことが可能となっています。通いサービスや宿泊サービスの利用時も、医師の指示書のもと、看護職員による医療処置を受けることができます。退院したばかりで、在宅での生活や介護に不安がある利用者や家族の方にとっても安心のサービスです。
予防を目的とした「介護予防小規模多機能型居宅介護」
日常生活において部分的な介助は必要であるものの、ある程度自立した生活を送ることができる方を対象とした「介護予防小規模多機能型居宅介護」もあります。「介護予防小規模多機能型居宅介護」は、要支援状態の方が、要介護状態へ進行するのを防ぐことを目的としたサービスで、提供されるサービスの内容等は、小規模多機能型居宅介護と同様です。
小規模多機能型居宅介護の対象者・利用方法
対象者
小規模多機能型居宅介護は、地域密着型サービスの一つであるため、対象者は以下の通りになります。
・要介護認定により、要介護1~5受けた方
・事業所がある地域に住所がある方
また、介護予防小規模多機能型居宅介護では、
・要介護認定により、要支援1、2を受けた方
・事業所がある地域に住所がある方
が対象となります。
利用方法
小規模多機能型居宅介護あるいは介護予防小規模多機能型居宅介護を利用するためには、事業所への登録が必要となります。複数の事業所に登録する、あるいは他のデイサービスやショートステイ等を利用することはできないため、注意するようにしましょう。
一つの事業所に登録される人数は29人以下で、サテライト型の場合は、登録定員が18人以下となります。
利用を希望する場合には、まず、担当のケアマネジャーに相談するようにしましょう。利用したい事業所がみつかり次第、契約し、サービスの利用開始となります。
小規模多機能型居宅介護の費用
小規模多機能型居宅介護の費用は、一ヶ月ごとに定額の料金を支払う月額定額制です。サービスの利用回数や時間に制限がないため、1日あたりの定員人数に空きがあれば、必要なサービスを必要なだけ利用することができます。
以下は、1ヶ月あたりの基本料金になります。
※ただし、食費、おむつ代などの日常生活費、宿泊費等は別途かかります。
要介護1 | 10,364円 |
要介護2 | 15,232円 |
要介護3 | 22,157円 |
要介護4 | 24,454円 |
要介護5 | 26,964円 |
≪参考≫介護給付費単位数等サービスコード表(令和元年10月施行版)より
上記の費用は、同一建物(※)に居住する者以外の者に対して行う場合の基本料金(1ヶ月)となります。
また、サービス費用は原則1割負担ですが、所得に応じて、2~3割負担になる場合があります。
※同一建物
養護老人ホーム・軽費老人ホーム・有料老人ホーム・サービス付高齢者向け住宅のうち、一階部分に小規模多機能型居宅介護事業所がある、または小規模多機能型居宅介護事業所と渡り廊下等で繋がっている場合
小規模多機能型居宅介護のメリット・デメリット
メリット
▶一つの事業所で、「通所」「訪問」「宿泊」のサービスを利用することができる
一つの事業所に登録すれば、3つのサービスを、利用者の希望や状況に応じた組み合わせで、必要なだけ利用することができます。そのため、それぞれ異なる事業所で契約をする必要がなく、ケアプランを再作成する手間を省くこともできます。
▶どのサービスを利用しても、顔なじみのスタッフが対応する
同じ事業所でサービスが提供されるため、どのサービスを利用しても顔なじみのあるスタッフが対応してくれます。変化に敏感な認知症の方でも、安心して利用できる環境となっています。
また、普段から利用者の状態を把握してもらえている分、小さな変化に気付いてもらいやすいというメリットもあります。
▶小規模のため、細やかな対応が可能
登録定員29人以下の少人数制であるため、利用者一人一人の心身の状態や要望等に合わせた対応をとってもらうことが可能です。
▶「午前中だけ」、「午後だけ」といったスポットでの利用も可能
回数や時間帯に制限がないため、利用定員に問題がなければ、「午前中だけ」、あるいは「午後だけ」といった短時間の利用も可能となっています。
▶費用が定額制のため、サービスの利用回数を気にしなくても良い
1ヶ月ごとの定額制であることから、サービスを利用するたびに費用がかかるわけではないため、必要な分だけサービスを利用することができます。
▶家族の介護の負担軽減
小規模多機能型居宅介護が提供する3つのサービスは、利用定員に空きがあれば緊急時の利用も可能となっています。
家族が、仕事や冠婚葬祭などで急に家を留守にすることになった時や、身体を休めたいという時などに、24時間365日いつでも安心して利用することができます。
デメリット
▶小規模であるため、登録定員と1日の利用定員に制限がある
少人数制であることは、小規模多機能型居宅介護のデメリットであるともいえます。まず、登録定員と1日の利用定員に制限があるため、空きがない場合は、利用したい時に必要なサービスを受けられないということもあります。
また、スタッフや他の利用者と顔なじみになりやすい分、気の合わない方がいる場合、サービスが利用しづらくなることも考えられます。
▶サービスを併用することができない
小規模多機能型居宅介護を提供する施設に登録すると、他の「通所介護(デイサービス)」、「訪問介護(ホームヘルプ)」、「短期入所生活介護(ショートステイ)」などの介護保険サービスを併用することができなくなります。そのため、「「通い」と「訪問」のサービスは良いが、「宿泊」サービスに不満がある」といった場合、不満があるサービスだけ別の事業所で受けるといったことはできません。
▶ケアマネジャーの変更
小規模多機能型居宅介護事業所と契約すると、それまで担当してくれていたケアマネジャーから、事業所に所属しているケアマネジャーへ変更する必要があります。変更することで、また一から信頼関係を築き上げていく必要があります。
まとめ
今回は、「小規模多機能型居宅介護」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
「小規模多機能型居宅介護」は、「通い」「訪問」「泊まり」の3つのサービスを、自宅で生活する利用者の状況に応じて組み合わせ、24時間365日見守っていくことを目的としています。
利用者の外出機会を増やすことや、家族の介護負担を軽減させることにも繋がってくるため、サービスの本来の目的をしっかり踏まえたうえで、3つのサービスを上手に活用していくようにしましょう。