介護保険における保険給付には、介護給付によるサービスと予防給付によるサービスがあります。要介護認定で要支援1・2、及び要介護1~5と認定された方は、この給付によるサービスを受けることになります。
本来は、サービスにかかった費用を利用者がいったん全額支払い、あとから保険給付費が利用者に直接支給される「償還払い」方式となっています。しかし、実際は、自己負担分のみの支払いで済む「現物給付」方式がとられており、利用者が介護サービスを利用しやすいようになっています。
今回は、保険給付の種類や限度額などについてご紹介させていただきます。
介護保険の保険給付とは
介護保険法第2条では、保険給付に関しての基本的な理念(方針)が定められています。
■介護保険法第2条 保険給付の基本的な理念
- 被保険者の要介護状態または要支援状態に関し、必要な保険給付を行う。
- 要介護状態・要支援状態の軽減または悪化の防止に資するよう行い、医療との連携に十分配慮する。
- 被保険者の心身の状況や置かれている環境等に応じて、被保険者の選択に基づき、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業者から、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行う。
- 保険給付の水準は、要介護状態になっても、可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう配慮する。
≪参考≫介護保険法 第2条より(平成九年法律第百二十三号)
介護保険法では、「要介護認定を受けた被保険者が介護サービスを受けた際に、被保険者に対し、サービスに要した費用について、介護サービス費を支給する」とあるように、保険給付は、制度上、被保険者(利用者)に直接、サービスにかかった費用を支給することになっています。つまり、利用者は、サービス事業者や施設にいったん全額支払い、申請によって、後から保険給付費を受け取るということです。このような方式を、「償還払い」といいます。
介護保険サービスを利用した際にかかった費用は、原則、利用者(被保険者)が1割(所得に応じて2~3割)負担し、9割(または8割か7割)は市町村(保険者)が補います。
介護保険の保険給付では、本来、サービスにかかった費用の9割(または8割か7割)が、利用者に直接支給されることになります。
しかし、実際の給付では、支払いの負担や便宜を考え、利用者がいったん全額を支払う「償還払い」方式ではなく、〝介護サービス〟という「現物」が給付される「現物給付」の方式がとられています。「現物給付」では、利用者はサービスを受けた際、最初から1~3割の自己負担分のみの支払いで済みます。
この場合、サービス事業者や施設は、後から保険給付分となる7~9割を市町村へ請求します。
保険給付の種類(介護給付、予防給付、市町村特別給付)
介護保険の保険給付は、要介護者(要介護1~5)に認定された方の「介護給付」と、要支援者(要支援1、2)のための「予防給付」、要介護状態・要支援状態の悪化防止を目的に、市町村が独自に行う「市町村特別給付」の3つに分類されています。
●介護給付費
▪居宅介護サービス費
▪地域密着型介護サービス費
▪居宅介護福祉用具購入費
▪居宅介護住宅改修費
▪居宅介護サービス計画費
▪施設介護サービス費
▪高額介護サービス費
▪高額医療合算介護サービス費
▪特定入所者介護サービス費
●予防給付費
▪介護予防サービス費
▪地域密着型介護予防サービス費
▪介護予防福祉用具購入費
▪介護予防住宅改修費
▪介護予防サービス計画費
▪高額介護予防サービス費
▪高額医療合算介護予防サービス費
▪特定入所者介護予防サービス費
●市町村特別給付
(例)
▪移送サービス
▪配食サービス など
※市町村によって異なります
保険給付の限度額
保険給付の金額には上限がある
利用者が自由にサービスを制限なく使えるようになってしまうと、被保険者である利用者が負担する保険料と、市町村からの給付が不公平になり、給付が一部の人に偏ってしまいます。
そのため、介護保険の保険給付の金額には、月ごとに上限が設けられています。これを、「支給限度基準額」といいます。利用者は、この支給限度基準額の範囲内であれば、複数のサービスを自由に組み合わせて利用することができるようになっています。
※支給限度額が適用されないサービスもあります。
4種類ある支給限度基準額のうち、要介護度別で決められている限度額を「区分支給限度基準額」といいます。 区分に含まれているサービスは、要介護度ごとに決められた支給限度額の範囲以内でサービスを利用することができます。
この他、支給限度額には、「福祉用具購入費支給限度基準額」「住宅改修費支給限度基準額」、市町村が条例
によって個別にサービスの限度を決めることができる「種類支給限度基準額」があります。
支給限度基準額を超えてしまった分は、利用者の全額自己負担となります。
■区分支給限度基準額
要介護度 | 区分支給限度基準額(円) | サービスの種類 |
---|---|---|
要支援1 | 50,320円 | 訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所介護、通所リハビリテーション、福祉用具貸与、短期入所生活介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護(短期利用に限る)、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護(短期利用に限る)、地域密着型特定施設入居者生活介護(短期利用に限る)、看護小規模多機能型居宅介護 |
要支援2 | 105,310円 | |
要介護1 | 167,650円 | |
要介護2 | 197,050円 | |
要介護3 | 270,480円 | |
要介護4 | 309,380円 | |
要介護5 | 362,170円 | |
区分に含まれない適用外のサービス | 居宅療養管理指導(介護予防も含む)、特定施設入居者生活介護(利用期間を定めないもの)、認知症対応型共同生活介護(利用期間を定めないもの)、地域密着型特定施設入居者生活介護(利用期間を定めないもの)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護予防特定施設入居者生活介護、介護予防認知症対応型共同生活介護(短期利用を除く) |
※1単位10円として計算
≪参考≫厚生労働省 2019年度介護報酬改定について
■福祉用具購入費支給限度基準額
100,000円
■住宅改修費支給限度基準額
200,000円
サービスを利用するためには手続きが必要
介護保険サービスを利用するには、まず、自分が住んでいる市町村の窓口で、要介護認定申請の手続きを行う必
要があります。
申請を受けた市町村は、調査員を派遣し、利用者の自宅を訪問して、要介護認定の認定調査を行います。基本的に申請してから30日以内に要介護認定の結果が郵送で通知されます。利用者は、要介護度が分かり次第、ケアマネジャーにケアプラン(介護サービス計画書)の作成を依頼します。利用者の承諾によりケアプランの内容が決
まると、事業者や施設から、ケアプランの内容に基づいた介護保険サービスを利用することができます。
利用者負担分以外のサービス費用は、事業者や施設が申請
実際の保険給付は、原則として「現物給付」の方式となっているため、サービスを提供する事業者や施設は、利用者に1割(所得に応じて2~3割)を負担してもらいます。残りの9割(または8割か7割)は、事業者や施設側が、国民健康保険団体連合会(国保連)に介護給付費の請求を行います。
申請前でも認定前でも保険給付の対象になるのか
介護保険サービスは、原則として、要介護認定(要支援認定含む)を受けなければ利用することができません。しかし、実際は、認定前や申請前に介護保険サービスを利用しても、保険給付の対象となる場合があります。
介護保険法では、要介護認定を受けると、その効力は要介護認定を申請した日までさかのぼります。要介護または要支援と認定されれば、申請日以降に利用した介護サービスは、保険給付の対象となります。
実際に、認定を申請した時からサービスを利用する際は、サービス提供する事業者や施設に、要介護認定を申請すると発行される「介護保険資格者証」を提示し、「暫定ケアプラン(利用者の要介護度あるいは要支援度がどの程度であるか予想して作成されたケアプラン)」に基づいてサービスを受けることになります。
また、要介護認定の申請前に、やむを得ない事情で介護サービスを利用した場合でも、後日、要介護認定を受け、要介護または要支援と認定され、市町村から認められれば、保険給付の対象となります。
ただし、認定前に暫定ケアプランを作成せず、介護サービスを利用した場合、あるいは申請前に介護サービスを利用した場合は、「償還払い」方式となるため、利用者は、サービスにかかった費用をいったん全額支払わなければなりません。
どちらにしても、結果的に、要介護または要支援と認定されなければ、利用したサービスはすべて全額自己負担となります。
さらに、前の項目でもお伝えしたように、介護度によって給付の限度額が異なるため、後日通知された認定結果が、予想していた介護度よりも低いと、限度額を超えてしまっている可能性があります。この場合も、残念ながら超えてしまった分は全額自己負担となります。
高齢化に伴い、介護保険サービスの利用者も増加傾向にあるため、最近は、認定調査や要介護度の判定をするまでに時間がかかってしまうケースも増えてきています。ただし、認定結果が出るまで介護サービスを利用することができないというわけではないため、認定が出る前に介護サービスを希望する方は、認定前に利用する際の注意点を考慮しながらサービスを受けるようにしましょう。
医療保険と介護保険はどちらが優先されるのか
病気やケガで医療機関を受診、あるいは入院などでかかった医療費の一部をカバーする制度として、「医療保険(公的医療保険)」があります。「医療保険(公的医療保険)」は全ての国民が加入しなければならず、私たちは、この制度によって、病院を受診した際に支払う受診料や治療費の負担が軽減されます。
介護保険の被保険者は、医療保険の被保険者でもありますが、介護保険と医療保険の給付が重なる場合は、原則、介護保険の給付が優先されることになります。医療保険からは、介護サービス以外の医療(疾病の治療に関する指導・検査・投薬、訪問診療等)を受けた場合に給付となります。
下記サービスは、介護保険が実施される前、老人保健制度(※)を含む医療保険制度から給付が行われていたも
のです。現在は、介護保険からの給付に変わっています。
※「老人保健制度」は、現在廃止されています。
▪介護療養型医療施設(療養病床)
医療の必要な要介護高齢者の長期療養施設である「介護療養型医療施設」ですが、経過が早い急性期の治療が必要となり、急性期病棟に移った場合には、医療保険からの給付を受けることになります。
現在、「介護療養型医療施設」は廃止されています。新しい受け皿となっている「介護医療院」へ、既存施設転換の移行期間中になります。
▪老人保健施設
もともとは、老人保健制度から給付されていました。現在は、介護保険施設へと変わり、介護保険からの給付になっています。
ただし、施設に入所した方が、施設以外の医療機関を受診した場合は、医療保険あるいは後期高齢者医療制度から給付されます。
▪在宅医療サービス
訪問看護、訪問リハビリテーション、短期入所療養介護等は、介護保険からの給付となります。
ただし、例外として、症状が急激に悪化した場合、医師の特別指示書により、医療保険から訪問看護が受けることが可能です。(14日間)
まとめ
今回は、介護保険の「保険給付」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
利用者は好きな介護サービスを保険給付によって、永続的に利用し続けられるという訳ではありません。保険給付は、要介護度などによって支給限度基準額が決まっています。上限内での利用が理想ではありますが、万が一、この金額を超えてしまった場合は、全額自己負担となります。
もちろん、身体の状態によって要介護度が変われば、上限も変わります。
〝介護〟と上手く付き合っていくためにも、利用者の状況に応じて支給限度基準額内でサービスを組み合わせ、介護保険を賢く使っていきましょう。