高齢者やその家族の生活に関わる相談や悩みを受け止める窓口の役割を担っている「地域包括支援センター」。住み慣れた地域で高齢者が自分らしい暮らしを続けていくため、市町村ごとに設置されています。センターには専門職の配置が義務付けられており、それぞれの知識を生かしながら、連携してさまざまな悩みに対応します。

今回は、「地域包括支援センター」の業務の内容や期待される機能などについてご紹介させていただきます。

目次

地域包括支援センターとは

地域で高齢者を支える「地域包括ケアシステム」

日本は、要介護者や認知症高齢者の増加、少子高齢化による高齢者の単独世帯や高齢者夫婦世帯の増加など、介護に関するさまざまな問題を抱えています。今まで介護を支える立場にあった専門職や家族の高齢化も進んできているため、若い世代の介護や医療ケアの担い手が不足しているのが現状です。

これらの背景から、家族の介護力だけに頼らず、地域全体でも高齢者の暮らしを支えていける仕組みが必要だと考え、厚生労働省は、地域の包括的な支援・サービス提供体制構築に向けての取り組みを2025(平成37)年を目途に、全国的に推進しています。

「地域包括ケアシステム」とは、高齢者が、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けていけるよう、介護・医療・予防・住まい・生活支援が一体的かつ継続的に提供される仕組み(システム)のことをいいます。この「地域包括ケアシステム」を実現するためには、地域住民や自治体、介護事業者、医療機関などが一体となり、地域全体で支える活動が重要となります。

※ここでいう〝地域〟とは、自宅からおおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域(概ね中学校区単位)を指す。

高齢者の割合や人口、介護施設や病院の数・位置等は地域によって異なるため、介護保険法だけではカバーしきれない部分については、保険者である市町村が、さまざまな方法で問題解決を図ることが重要とされています。つまり、「地域包括ケアシステム」は、市町村が、地域の実情や特性に応じた連携システムを自主的につくりあげていく必要があるシステムとも言えるのです。

地域包括ケアシステムが具体化されたものが地域支援事業になります。 地域支援事業は、「包括的支援事業」、「任意事業」、「介護予防・日常生活支援総合事業」の大きく3つに分けられます。

■包括的支援事業

地域のケアマネジメントを総合的に行うため、総合相談や支援、権利擁護事業、ケアマネジメント業務などを包括的に行う事業です。

  • 総合相談支援業務
  • 権利擁護業務
  • 介護予防ケアマネジメント
  • 包括的・継続的マネジメント支援業務
■任意事業

地域の実情に応じた事業を、市町村の委託を受けて実施する事業です。

  • 介護給付費適正化事業
  • 家族介護支援事業  など
■介護予防・日常生活支援総合事業

地域の実情に応じながら、サービスを多様化することで高齢者を総合的に支援し、要介護状態にならないよう地域全体で支援していく事業です。
具体的には、要支援1・2の認定を受けた方・基本チェックリストで事業対象者と判定された方を対象とする「介護予防・生活支援サービス事業」と、65歳以上のすべての高齢者を対象とする「一般介護予防事業」の2つの事業で構成されています。

○介護予防・生活支援サービス事業

  • 訪問型サービス
  • 通所型サービス
  • 生活支援サービス
  • 介護予防支援事業(ケアマネジメント)

○一般介護予防事業

  • 介護予防把握事業
  • 介護予防普及啓発事業
  • 地域介護予防活動支援事業
  • 一般介護予防事業評価事業
  • 地域リハビリテーション活動支援事業

地域包括ケアシステム実現に向けて各市町村が設置する「地域包括支援センター」

地域包括ケアシステムの構築実現のため、中心的役割を果たす機関として、原則、市町村単位で設置される拠点(施設)を、「地域包括支援センター」といいます。高齢者が住み慣れた地域での生活を続けられるよう、高齢者本人やその家族、地域住民、地域で働くケアマネジャーなどが気軽に相談できる、〝総合相談窓口〟の役割をもっています。

「市町村」または「地域支援事業(包括的支援事業)の実施を市町村から委託を受けた者」が設置することができ、在宅介護支援センターの運営法人や社会福祉法人、医療法人、民間企業などが、市町村から委託を受けて運営します。 各センターには、保健師(または看護師)・社会福祉士・主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)の3つの専門職、またはこれらに準ずる者が各1名ずつ配置されることになっています。これら3つの職種が連携し、介護保険サービスや暮らしなどに関する相談窓口、高齢者の虐待防止への取り組み、地域のケアマネジャーのサポート、要支援者が要介護状態になるのを防ぐための介護予防事業等が実施されています。

地域包括支援センターの業務内容

地域包括支援センターの主な業務は、以下の4つになります。

【介護予防支援及び包括的支援事業】

①総合相談支援業務
生活上困っていることや、在宅介護の悩み、介護保険サービスの利用方法など、地域に住む高齢者やその家族からのさまざまな相談を受け、地域包括支援センターの職員が、課題解決に向けての具体的な提案をしていきます。必要であれば、行政機関や医療機関、介護関係機関とつないだり、利用できる介護サービスやボランティアを紹介したりするなど、地域内にあるさまざまな社会資源を活用して、それぞれのニーズに対応していきます。

▶主な社会資源

  • 介護サービス
  • 家族介護教室
  • 紙おむつ支給
  • 成年後見制度
  • 民生委員制度
  • ボランティア
  • 介護相談員 など

②権利擁護業務
高齢者虐待の早期発見や対応・対策、認知症高齢者の権利・財産を悪徳商法などから守るための「成年後見制度」の支援などを行い、高齢者の権利を守るための相談対応・支援活動等を行います。

③介護予防ケアマネジメント
要介護認定により「要支援1、2」と認定された方を対象に、その人の心身の状態等を把握したうえで、「介護予防ケアプラン」の作成や管理などを行います。
また、要介護認定で「非該当」と判定された方や、要介護認定を受けていない方でも、介護予防に取り組みたいという高齢者を対象に、さまざまな介護予防サービスの情報を提供したり、介護予防教室などを行ったりします。

④包括的・継続的ケアマネジメント
高齢者が、適切なサービスを継続的に利用できるよう、「地域ケア会議」などを通じて、地域の介護・医療・福祉・行政と地域住民との連携を図ったり、地域で働くケアマネジャーを支援するための個別指導や助言等を行います。

地域包括支援センターの期待される機能

地域包括支援センターには、以下の機能を果たすことが期待されています。

  1. 地域のネットワーク構築機能
    地域の利用者やサービス事業者、関係団体、民生委員、ボランティアやNPOなどのインフォーマルサービス関係者、一般住民などによって構成される地域のネットワーク構築により、地域包括ケアシステム実現を図ります。これにより、高齢者のさまざまなニーズに応じた適切なサービスを提供することができます。
  2. ワンストップサービス窓口機能
    〝ワンストップ〟とは、「1ヶ所で用事が足りる」、「1ヶ所で何でも揃う」という意味です。介護サービスの利用方法が分からない、どのようなサービスを利用するべきか分からないといった介護に関する相談等に、ワンストップで対応します。
  3. 権利擁護機能
    高齢者の権利を理解してもらうだけでなく、詐欺等の予防・発見や対応を行います。
  4. 介護支援専門員支援機能
    ケアマネジャー(介護支援相談員)が包括的・継続的ケアマネジメントを勧められるよう、支援を行います。

また、平成27年度の介護法改正では新たに6つの機能が追加されました。

  1. 在宅医療介護連携の相談窓口
    医療と介護の両方を必要とする高齢者が、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けていけるよう、在宅医療と介護との連携を推進するため、地域の医療機関や介護の関係機関(介護保険施設や事業所等)のための相談窓口を設けています。
  2. 地域リハビリテーション活動支援事業
    地域の通いの場や訪問介護事業所、通所介護事業所等の介護サービス事業所にリハビリテーションの専門職を派遣し、高齢者の運動機能の維持・向上のための支援を行うことで、介護予防や要介護状態の改善を図ります。
  3. 認知症初期集中支援チームの設置
    認知症の早期発見・早期対応のため、保健師や看護師、作業療法士、専門医など、複数の専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人、その家族を訪問し、アセスメントや家族支援などの初期支援によって、自立生活のサポートを行うチームを配置します
  4. 認知症地域支援推進員の配置
    地域住民からの認知症に関する相談に応じたり、認知症の人の医療・介護等の支援ネットワークづくりに関わったりするなど、専門知識を持ち、地域の特性や課題に応じた活動を展開する、認知症地域支援推進員を配置します。
  5. 生活支援コーディネーターの配置
    高齢者の生活支援・介護予防の基盤整備を進めていくことを目的とし、地域の助け合い・支え合いの仕組み作りの調整役を担う生活支援コーディネーターを配置します。高齢者支援の活動等に関する情報を集めたり、サポートが必要な方や社会貢献活動に興味がある方に、さまざまな社会資源を紹介したりします
  6. 地域ケア会議の開催(努力義務)
    地域ケア会議は、「行政職員をはじめ、地域の関係者から構成される会議(介護保険法第115条の48)」のことです。高齢者の個別課題の解決を図るとともに、それを支える社会基盤の整備を同時に進めていくことで、地域包括ケアシステムの実現を図ります。

地域包括支援センターで働く専門家

各センターに配置が義務付けられている、保健師(または看護師)・社会福祉士・主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)は、それぞれの専門性を活かした役割が与えられています。

保健師(または看護師)

地域住民の健康管理を主な役割とする、保健指導の知識を持つ国家資格保有者です。健康や医療、介護予防など、主に地域住民の健康に関する内容や、虐待問題にも対応したりします。

社会福祉士

社会福祉全般の知識を持ち、高齢者や障害を持つ方の日常生活支援等を行う国家資格保有者です。主に、高齢者の介護や暮らしに関する相談対応や生活支援、消費者被害や虐待問題への対応、成年後見制度の利用援助等を行います。

※「ソーシャルワーカー」とも呼ばれています。

主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)

国家資格保持者である介護支援専門員(ケアマネージャー)の中でも、特別な研修を修了した者に対して与えられる上位資格です。介護分野の知識に精通しており、主に、介護全般に関する取り組みや、地域の介護支援専門員(ケアマネージャー)のサポート、サービス提供事業者との連絡調整、高齢者の虐待問題などに対応します。

地域包括支援センターのメリット・デメリット

メリット

  • 介護に関する相談をワンストップで対応してもらえる。
  • 専門職からのアドバイスがもらえる。

デメリット

  • 高齢者や家族の相談ニーズが高まるなか、職員の力量不足が課題となっている。

地域包括支援センターには、保健師(または看護師)・社会福祉士・主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)などの専門職が配置され、お互い連携しながら、地域住民の困りごとや相談などに対応しています。必要に応じて、行政機関や医療機関、介護関係機関にもつなぐことができます。

このように、地域包括支援センターは、介護や暮らしに関する相談をワンステップで対応できる機能があり、また、各専門職からの専門的なアドバイスや支援を受けることができるというメリットがあります。

ただし、少子高齢化による老老介護や介護離職、単身高齢者の孤立化など、高齢者やその家族の相談ニーズが高まり、地域包括支援センターの抱える業務はどんどん増え、「業務量に対する職員数の不足」が問題となっています。 センターの運営側が、保健師(または看護師)・社会福祉士・主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)の確保が難しい場合、それに準ずる者を配置して良いことになっているため、「職員の力不足」も課題となっています。

介護保険適用外のサービスには、介護保険サービスでは提供できない部分を補助する役割があります。介護保険サービスと介護保険外サービスを組み合わせて使うことにより、介護の質をより高めることができます。お泊りデイサービス以外の介護保険外サービスには、例として、以下のようなものがあります。

まとめ

今回は、「地域包括支援センター」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

「地域包括支援センター」は、介護や暮らしなどに関するさまざまな悩みに対応しており、市町村単位で設置されているため、地域住民にとっても身近で、相談しやすい機関であるといえます。特に、在宅介護を行っている家族はもちろんのこと、高齢の親と離れて暮らしている家族も、何かあれば、親が住んでいる地域のセンターに相談することもできるため、家族にとっても安心できる要素となります。 どんな介護サービスを利用すれば良いか分からないという方、また、初めての介護に戸惑っている方も、まずは「地域包括支援センター」に一度相談してみてはいかがでしょうか。

facebook
twitter
line