「介護保険サービス」を利用した場合、介護が必要となった利用者本人は、費用の1~3割の自己負担分のみで介護サービスを受けることができます。しかし、この介護サービスを受けるためには、要介護認定を申請するなど、いくつかの手順を踏まなければなりません。
そこで今回は、「介護保険サービス」の内容や、申請から実際にサービスを利用できるまでの流れなどについてご紹介したいと思います。

目次

介護保険サービスとは

「介護保険制度」は、介護が必要になった高齢者とその家族を社会全体で支える仕組みとして、2000年4月にスタートしました。40歳以上のすべての国民が加入しなければならない強制保険であり、介護保険料を支払っている人であれば、介護が必要となった場合に、通所サービスや訪問サービスなど「介護保険サービス」を受けることができます。
この介護保険サービスを利用する際の費用は、費用全体の1~3割が自己負担、残りの9割~7割は、介護保険から給付されます。負担額の割合は、利用者の所得に応じて変わるため、原則は1割負担ですが、一定以上の所得がある場合は、2~3割負担となります。

介護保険サービスを利用する前の準備

介護保険サービスを利用するためには、まず、要介護認定を受けなければなりません。要介護認定では、利用者がどの程度の介護を必要とするのかを把握するため、聞き取り調査や主治医意見書を元に、介護の必要度合いを判定します。
要介護認定の申請から介護度が決まるまでの流れは、以下の通りになります。

 ■要介護認定の申請から介護度が決まるまで

【要介護認定の申請】
まずは、市区町村(以下市町村)に要介護認定の申請を行います。要介護・要支援認定申請書は、市町村の窓口やWEBサイトなどで入手することができます。

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【訪問調査の実施】
申請書を受理した市町村から、自宅や入院先に介護認定調査員が派遣され、本人と家族などに下記の聞き取り調査を行います。
「基本調査」
認知機能や身体機能などを調べるチェック式のもの
「特記事項」
基本調査項目のチェックだけでは把握できない症状や行動などを自由に記入するもの

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【認定通知】
市町村は、要介護認定を申請日から30日以内に行います。「要介護認定・要支援認定等結果通知書」と、要介護度の区分や有効期間等が記載された「被保険者証」は、本人に郵送されます。
要介護認定の結果が「非該当(自立)」だった場合は、介護保険を利用することができません。

要介護度について

要介護度は、「要支援1~2」、「要介護1~5」の7段階に区分されます。この区分によって、利用できるサービスの種類や頻度は異なります。
※【状態】はあくまで目安です。

 ■要支援状態
「要支援」とは、「日常生活において、ある程度自立した生活を送ることができるが、部分的に介助が必要で、将来、要介護状態になる可能性がある状態」のことをいいます。
要支援状態は、2段階に区分されます。

区分 状態
要支援1 日常生活において、食事や入浴といった基本動作はほとんど一人で行うことができるが、一部支援が必要。
要支援2 要支援1よりもわずかに能力が低下し、日常生活の一部に何らかの支援が必要。

 ■要介護状態
「要介護」とは、「日常的に介護が必要で、自立した生活を営むのが困難な状態」のことをいいます。数字が大きくなるほど、自立度は低くなります。
要介護状態は、5段階に区分されます。

区分 状態
要介護1 日常生活や身の回りの動作で、一部、介助が必要な場面がある。
要介護2 日常生活や身の回りの動作全般において、部分的に介助が必要となる。
要介護3 日常生活や身の回りの動作全般において、全面的に介助が必要となる。
要介護4 介護なしで生活を送ることは困難な状態である。
要介護5 ほぼ寝たきりの状態で、最重度の介護が必要である。

介護保険で受けられるサービス

介護保険の保険給付は、「予防給付」と「介護給付」の大きく2つに分かれています。要介護認定で「要支援」と認定された場合は「予防給付」によるサービス、「要介護」と認定された場合は、「介護給付」によってサービスを受けることができます。
また、「予防給付」や「介護給付」は、利用者の居住地によっても分類もされています。
自宅でサービスを受けることができる「居宅サービス」(予防給付の場合は「介護予防サービス」)・「地域密着型サービス」
(予防給付の場合は「地域密着型介護予防サービス」)と、施設に入所してサービスを受ける「施設サービス」(介護給付のみ)に分けられます。

 ■予防給付のサービス一覧

●介護予防サービス
【訪問サービス】
・介護予防訪問入浴介護
介護予防を目的として、簡易浴槽を積んだ巡回入浴車などで利用者の自宅を訪問し、入浴の介助を行う。

・介護予防訪問看護
介護予防を目的として、看護師等が利用者宅を訪問し、看護などを行う。

・介護予防訪問リハビリテーション
介護予防を目的として、理学療法士等の専門スタッフが利用者宅を訪問し、リハビリテーションを行う。

・介護予防居宅療養管理指導
介護予防を目的として、医師等が利用者宅を訪問し、療養上の管理・指導・助言等を行う。

【通所サービス】
・介護予防通所リハビリテーション
介護予防を目的として、老人保健施設等に通い、専門スタッフによるリハビリテーションを行う。

【短期入所サービス】
・介護予防短期入所生活介護
介護予防を目的として、特別養護老人ホーム等に短期間入所し、介護や機能訓練を受ける。

・介護予防短期入所療養介護
介護予防を目的として、老人保健施設等に短期間入所し、看護・医学的管理の下、介護や機能訓練を受ける。

【その他】
・介護予防特定施設入居者生活介護
介護予防を目的として、有料老人ホーム等の特定施設に入居者に対し、「特定施設サービス計画」に基づいた介護や機能訓練等を行う。

・介護予防福祉用具貸与
利用者の自立(介護予防)や介護者の負担を軽減するために利用される「福祉用具」の貸与。

・特定介護予防福祉用具販売
貸与に向かない福祉用具(腰掛便座等)の購入費の支給。

・介護予防住宅改修費
介護予防を目的とする、小規模な住宅改修の費用の支給(手すりの取り付け等)。

・共生型介護予防短期入所生活介護
介護予防を目的として、高齢者や障害者(児)が短期入所施設に入所し、介護や機能訓練等を受ける。

●地域密着型介護予防サービス
・介護予防認知症対応型通所介護
介護予防を目的として、軽度の認知症の方がデイサービスセンター等に通い、介護や機能訓練を受ける

・介護予防小規模多機能型居宅介護
通い、もしくは短期間宿泊により、家庭的な環境と地域住民との交流のもとで、介護や機能訓練を行う。

・介護予防認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
介護予防を目的として、認知症高齢者が少人数(5~9人)の共同生活を営み、家庭的な環境の中で、介護や機能訓練等を受ける。

●介護予防居宅支援
・介護予防サービスを適切に利用するため、「介護予防サービス計画(介護予防ケアプラン)」の作成とサービスの調整をしてもらう。

 ■介護給付のサービス一覧

●居宅サービス
【訪問サービス】
・訪問介護(ホームヘルプサービス)
ホームヘルパー(訪問介護員)が利用者宅を訪問し、身体介助や生活援助等のサポートを行う。

・訪問入浴介護
簡易浴槽を積んだ巡回入浴車などで利用者自宅を訪問し、入浴の介助を行う。

・訪問看護
看護師等が利用者宅を訪問し、看護などを行う。

・訪問リハビリテーション
医師等が利用者宅を訪問し、療養上の管理・指導を行う。

・居宅療養管理指導
医師等が利用者宅を訪問し、療養上の管理・指導を行う。

【通所サービス】
・通所介護(デイサービス)
デイサービスセンター等に通い、介護や機能訓練を受けたり、趣味活動を行ったりする。

・通所リハビリテーション(デイケア)
医療機関や介護老人保健施設等へ通い、リハビリテーションを行う。

【短期入所サービス】
・短期入所生活介護(ショートステイ)
特別養護老人ホーム等に短期間入所し、介護や機能訓練を受ける。

・短期入所療養介護(医療系ショートステイ)
介護老人保健施設等に短期間入所し、看護・医学的管理の下、介護や機能訓練を受ける。

【その他】
・特定施設入居者生活介護
有料老人ホーム等に入居し、日常生活上・療養上の世話、機能訓練を受ける。

・福祉用具貸与
日常生活の自立を援助する福祉用具の貸与

・特定福祉用具販売
貸与に向いていない福祉用具の購入費の支給。

・居宅介護住宅改修費
小規模な住宅改修の費用の支給(手すりの取り付け等)。

・共生型訪問介護
ホームヘルパーが、高齢者や障害児の自宅を訪問し、介護等を行う。

・共生型通所介護
高齢者や障害児がデイサービスセンター等へ通い、介護や機能訓練を受ける。

・共生型短期入所生活介護
高齢者、障害者、障害児が、短期入所施設に入所し、介護や機能訓練等を受ける。

●地域密着型サービス
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
日中・夜間を通じて、訪問介護と訪問看護が密接に連携しながら、短時間の定期巡回型訪問と随時の対応を行う。

・夜間対応型訪問介護
ホームヘルパー(訪問介護員)等が、夜間に各利用者宅を定期巡回や緊急通報により訪問し、介護などの援助を行う。

・地域密着型通所介護
18人以下の小規模のデイサービスセンター等に通い、日常生活上の支援や生活機能訓練を受ける。

・認知症対応型通所介護
認知症の利用者がデイサービスセンター等に通い、介護や機能訓練を行う。

・小規模多機能型居宅介護
通い、もしくは短期間宿泊し、家庭的な環境と地域住民との交流のもとで、介護や機能訓練を行う。

・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
認知症高齢者が少人数(5~9人)の共同生活を営み、家庭的な環境の中で、介護や機能訓練等を受ける。

・地域密着型特定施設入居者生活介護
定員29人以下の小規模な有料老人ホーム等で、「地域密着型特定施設サービス計画」に基づいた、介護や機能訓練等を受ける。

・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
定員29人以下の小規模な特別養護老人ホームで、「地域密着型施設サービス計画」に基づいた、介護や機能訓練等を受ける。

・看護小規模多機能型居宅介護
「小規模多機能型居宅介護」に訪問看護サービスが加えられたもの。

・共生型地域密着型通所介護
施設を利用する高齢者等が、日帰りで日常生活上の支援や生活機能訓練を受ける。

●施設サービス
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
常に介護が必要で、自宅での生活が困難な場合に、入所して、介護や機能訓練などを行う。(原則、要介護3以上入居対象)

・介護老人保健施設(老人保健施設)
病状が安定し、リハビリなどの医療ケアや介護が必要な場合に、入所し、在宅復帰を目指す。

・介護医療院
長期療養が必要な要介護者が入院し、介護や医療ケア等を受ける。

・介護療養型医療施設(療養型病床群)
比較的長期での療養が必要な場合に、入院し、必要な医療ケアや介護等を受ける。
※施設サービスに含まれる「介護療養型医療施設」は、廃止が決まっているものの、令和6年まで有効期限が延長されている。

●居宅介護支援
・介護サービスを適切に利用できるため、「居宅サービス計画(ケアプラン)」の作成とサービスの調整をしてもらう。

認定後の介護保険サービス利用から支払いまでの流れ

介護保険サービスを利用するためには、要介護認定後、ケアプランを作成する必要があります。ケアプランとは、利用者の要介護度に応じて、どのサービスを、いつ、どのくらいの頻度で利用するかをまとめた、介護保険サービスの利用計画書のことです。正式には、要支援者のケアプランは「介護予防サービス計画(介護予防ケアプラン)」、要介護者のケアプランは「居宅サービス計画(ケアプラン)」といいます。
ケアプランは、自分で作成することも可能ですが、介護の専門知識が必要となってくるため、ケアマネジャー (介護支援専門員)に作成してもらうことがほとんどです。
要支援者は地域包括支援センターに、要介護者は居宅介護支援事業者に作成を依頼します。施設に入所する場合は、施設のケアマネジャーがケアプランを作成します。
被保険者は、作成されたケアプランに沿ってサービスを受けることになります。

 ■要介護認定を受けてから介護保険サービス利用・支払いまでの流れ

【課題分析(アセスメント):生活状況や要望等を具体的に伝える】
利用者は、要介護認定後、ケアプランの作成を依頼します。依頼を受けたケアマネジャーは、利用者の自宅などを訪問し、利用者や家族の要望、心身の状態、生活状況、介護サービスを受けるに至った背景・原因等を把握する必要があります。そのため、ケアマネジャーによって、本人や家族を交えての面接・聞き取りが行われます。

利用者側は、「自宅のお風呂に入ることができない」、「徘徊があり目が離せない状態が続いているため、家族が疲れている」など、生活状況や要望等を細かくケアマネジャーに伝えるのがポイントです。どんな介護サービスを必要であるのか、よく相談するようにしましょう。

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【ケアプラン作成:要望等沿ったケアプランが作成される】
聞き取った情報を踏まえ、ケアプランの原案が作成されます。これをもとに、利用者と家族、ケアマネジャー、各サービス提供者、主治医などが顔合わせをし、プランについての話し合いを行います。

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【利用者の承諾:実際にそのサービスを受けるかどうかを決める】
ケアマネジャーから、完成したケアプランについて、利用者と家族に説明、内容に納得がいけば、利用者の確認印が捺印され、サービスを提供する事業所に送付されます。介護保険サービスは、ケアプランに基づいて提供されますが、その内容を決めるのは利用者です。サービス内容が要望と異なる場合や、本人がケアプランに納得できないという場合には、変更を依頼することも可能です。

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【サービスの利用開始:定期的にケアプランの見直し(モニタリング)】
承諾したケアプランは事業者へ送付され、ケアプランに沿った介護サービスが提供されます。
また、サービス開始後は、ケアマネジャーが月に一度訪問し、利用者の健康状態等をチェックします。
必要に応じて、定期的にケアプランの見直しを行います。

まとめ

今回は、「介護保険サービス」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

「介護保険サービス」は、被保険者であれば誰もがすぐに利用できるというものではなく、いくつかの手続きが必要となります。少しでもスムーズに対応できるよう、申請からサービス利用までの流れは、ある程度把握しておくようにしましょう。
また、ケアプランの作成には、ケアマネジャーのアセスメント力が重要となります。しかし、自分の生活を決めるのはあくまで利用者本人(又はご家族)であるため、担当のケアマネジャーに任せきりにするのではなく、心身の状態や生活状況等をできるだけ具体的に、自分の意思を伝えられるように準備しておきましょう。

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