「特定疾病」とは、「老化に伴う疾患や損傷」のことをいいます。介護保険において「特定疾病」は、40歳以上65歳未満の介護保険の加入者(第2号被保険者)が、介護給付を受けるための条件となっており、全部で16の疾病がその対象となっています。
今回は、この特定疾病や特定疾病以外で要介護状態になってしまった場合の対応などについてご紹介します。

目次

介護保険における特定疾病とは

40歳以上のすべての国民が加入する介護保険では、加入者は、第1号被保険者と第2号被保険者の2つに分けられます。

第1号被保険者 65歳以上の方
第2号被保険者 40歳以上65歳未満の医療保険加入者

介護保険の保険者は市町村になります。そのため、被保険者は、住所がある市町村に保険料を納め、介護あるいは支援が必要になった時には、その市町村から介護サービスを提供してもらう、つまり、介護保険給付を受けることになります。
しかし、介護保険給付は、保険料を支払っていれば誰もが受けられるというわけではありません。第1号被保険者の場合は、要介護状態または要支援状態になった方、第2号被保険者の場合は、要介護状態または要支援状態になった原因が、「特定疾病」である場合に限り、介護保険サービスを利用することができます。

「特定疾病」とは、心身の病的な加齢現象と医学的関連があることや、40歳以上65歳未満でも多く発生するなど、加齢との関係について医学的根拠が明確であることが認められており、3~6ヶ月以上継続して要介護状態等になる割合が高い、16の疾病のことを指しています。

 ■特定疾病の定義

特定疾病とは、心身の病的加齢現象との医学的関係があると考えられる疾病であって次のいずれの要件をも満たすものについて総合的に勘案し、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因し要介護状態の原因である心身の障害を生じさせると認められる疾病である。

1)65歳以上の高齢者に多く発生しているが、40歳以上65歳未満の年齢層においても発生が認められる等、罹患率や有病率(類似の指標を含む。)等について加齢との関係が認められる疾病であって、その医学的概念を明確に定義できるもの。

2)3~6ヶ月以上継続して要介護状態又は要支援状態となる割合が高いと考えられる疾病。

≪出典≫厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方 1特定疾病とは」

つまり、通常は、高齢者に多く発生する病気ですが、40歳~64歳の方でもかかることがあり、一定期間以上の介護が必要になる疾病を、「特定疾病」として定めています。

16の特定疾病一覧

第2号被保険者が、保険給付を受けるための条件となっている16の疾病は、以下の通りです。

 ■特定疾病

1.がん(末期がん)
医師が、一般に認められている医学的知見に基づき、回復の見込みがない状態(余命6ヶ月程度)と判断した場合に限り、特定疾病の対象となります。

2.関節リウマチ
本来なら体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を認識・排除するための役割を持つ免疫系が、何らかの原因で正常に機能しなくなり、健康な細胞にまで攻撃してしまうことで、さまざまな症状を引き起こす「自己免疫疾患」の一つです。
初期症状では、手指等の関節の炎症に伴う腫れやこわばり、痛みが生じ、進行とともに、骨や軟骨の破壊が進んで関節が変形したり、微熱や倦怠感といった全身症状が現れたりします。

3.筋萎縮性側索硬化症(ALS)
脳から運動の命令を筋肉に伝える運動神経系が選択的に障害されることにより、全身の筋肉が委縮・低下していく、神経性難病です。運動機能の低下や嚥下障害、言語障害が現れ、最終的には、呼吸困難となります。
診断の基準となる条件を満たす場合に、特定疾病として認められます。

4.後縦靱帯骨化症(OPLL)
背骨(椎骨)の中にある「後縦靱帯」が、何らかの理由により骨化(骨のように硬くなる)し、厚くなる疾患です。これにより、脊髄などの神経が圧迫されるため、感覚障害や運動障害など、さまざまな神経症状が現れるようになります。
診断基準である自覚症状や身体所見が認められることと、画像診断の結果などが靱帯骨化と因果関係があるとされる場合に、特定疾病に該当すると判断されます。

5.骨折を伴う骨粗鬆症
骨密度が低下することで、骨がもろくなり、骨折の原因となったり、骨の変性や骨性の痛みなどが生じたりするようになります。
腰椎骨の密度や、X線検査での脊椎の状態などが認定基準となります。

6.初老期における認知症
40歳以上65歳未満で生じる認知症(若年性認知症)は、特定疾病の対象となります。行為を行う意思があり、特に身体に麻痺などがあるわけではありませんが、日常の動作がうまくできなくなる「失行」や、視覚・聴覚などに異常はないにもかかわらず、見たり聞いたりしたものを認知できなくなる「失認」、話す・書く・読むといった言語にかかわる機能が低下する「失語」、物事を順序立てて考えることや、計画を立てることなどが難しくなる「実行機能障害」などが起こるようになります。

7.進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病(パーキンソン病関連疾患)
いずれもパーキンソン症状が認められる疾患(筋固縮、振戦、動作緩慢、姿勢反射障害など)であり、「パーキンソン病関連疾患」と呼ばれています。
症状や症状の進行速度、発症年齢などにより認定します。

8.脊髄小脳変性症
小脳や脊髄に異変が生じることで運動失調を主要症状とする、原因不明の疾患の総称です。非常にゆっくり進行するのが特徴で、歩行時のふらつきや手の震え、ろれつが回らない等の症状が現れます。最終的には、身体を動かすのが困難となり、寝たきりの状態になります。
特定疾病の認定には、詳しい診断を行ったうえで、医師が総合的に判断します。

9.脊柱管狭窄症
脊髄の神経が通っているトンネルのような空洞(脊柱管)が狭くなることで、神経が圧迫され、歩行障害や足の痛み、しびれなどの症状が現れます。
画像診断において、脊柱管の狭小化により神経の圧迫が確認できる場合や、症状の因果関係等で判断します。

10.早老症
実際の年齢よりも早く老化が進んでしまう、遺伝性の疾患です。白髪、四股・皮膚の萎縮、白内障などが若いうちから現れます。老化により、悪性腫瘍(がん)や糖尿病、動脈硬化のリスクも高くなるため、このような合併症が原因で死亡するケースもあります。
診断は、発症年齢や症状などをもとに判断します。

11.多系統萎縮症
自律神経症状、パーキンソン症状、小脳症状が様々な程度に組み合わせて呈する疾患です。オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群、線条体黒質変性症の3つに分類されます。
主要症候の有無や画像検査などで判断します。

12.糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
糖尿病の進行により生じる合併症。(神経障害(末梢神経障害・自律神経障害)、腎機能障害、網膜症)
糖尿病そのものは特定疾病に含まれていませんが、これらの合併症にはそれぞれ診断基準が設けられており、条件を満たすことで特定疾病として認定されることになります。

13.脳血管疾患
脳の血管の異常により生じる疾患の総称であり、脳の血管がつまる「脳梗塞」や、脳の血管が破れて出血する「脳出血」、くも膜下腔に出血を起こす「くも膜下出血」などがあります。ただし、介護保険における特定疾病とは、老化に伴う疾患のことを指しているため、外傷により発生した脳血管障害は、特定疾病とはみなされません。

14.閉塞性動脈硬化症(ASO)
動脈硬化で、血管が詰まったり狭くなったりすることにより、手足に十分な血液が行き渡らなくなり、手足のしびれや冷感、間欠性跛行(少し歩いただけで足やふくらはぎに痛みやしびれを感じる症状)がみられるようになります。進行すると、安静にしていても痛みを感じ、最終的には、潰瘍や壊疽などが起こるようになります。
単に動脈硬化というだけでは特定疾病とは認められず、腹部大動脈抹消側や四肢の主幹動脈、下肢の中等度の動脈等に閉塞が確認されることや、間欠性跛行、安静時の痛み、潰瘍、壊死等がみられることが特定疾病の条件となります。

15.慢性閉塞性肺疾患(COPD)
肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎の総称です。主な症状として、労作時呼吸困難や慢性の咳・痰、喘鳴などが挙げられます。気流閉塞がみられる場合に特定疾病として認定されます。

16.両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
関節の軟骨の摩耗や滑膜の炎症、骨の変性を伴う慢性の疾患です。特に、両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症は、特定疾病として認定されます。

介護サービス利用までの流れ(特定疾病と診断された40~64歳の方の場合)

特定疾病と診断され、介護が必要となった40~64歳の方が介護サービスを利用するまでは、以下のような流れになります。

 ■申請から介護サービスを利用するまで

【要介護認定の申請をする】
介護保険サービスを利用するためには、まず、要介護(要支援)認定を受ける必要があります。申請する場所は、市町村の介護保険担当の窓口です。第2号被保険者が申請する場合は、申請書に、特定疾病名の記載と、「医療保険の被保険者証」が必要となります。
また、要介護認定の申請の手続きは、地域包括支援センターなどに代行をお願いすることも可能です。

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【訪問調査を受ける】
申請後、市町村から派遣された調査員が自宅を訪問し、本人や家族に、本人の普段の様子や心身の状況等に関する聞き取り調査を行います。調査項目は、身体機能や生活機能、認知機能、日常生活の自立度など、全部で74項目あります。
要介護度の判定は、一次判定によって、訪問調査票の結果と、訪問調査と並行して市町村が作成を依頼した主治医意見書の結果をもとに、全国一律の基準に基づくコンピュータによって要介護度が振り分けられます。
次に、コンピュータによる判定結果と、訪問調査での特記事項や主治医意見書と照らし合わせながら、介護認定審査会で、どれくらいの介護を必要とするか、二次判定が行われます。

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【認定結果の通知】
要介護認定の申請から1ヶ月程度で、市町村から認定結果の通知が届きます。
※介護認定には有効期間があるため、有効期間満了までに認定の更新申請が必要です。有効期間を過ぎると、介護サービスを利用できなくなります。

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【ケアプランの作成】
要介護認定を受けたら、介護保険サービスを利用するための利用計画書(ケアプラン)の作成を行います。
・要介護認定の結果が「要介護1~5」だった方で、在宅の介護サービスを受ける場合は、居宅介護支援事業者のケアマネジャーへ
・施設への入所を希望している方は、希望する施設へ
・「要支援1・2」だった方は、地域包括支援センターへ
それぞれケアプランの作成を依頼します。

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【サービスの利用開始】
サービス事業者と契約をし、ケアプランに基づいた介護保険サービスが提供されます。サービス利用開始後も、ケアマネジャーが各種相談に応じます。

以上が、介護サービス利用までの流れになります。
申請方法が不安な方や、何から始めれば良いか分からないという方は、住所がある市町村の窓口に相談しましょう。

16の特定疾病以外で要介護状態になった場合(40~64歳の方)

第2号被保険者が、介護保険制度を利用した介護サービスを利用できるのは、16の特定疾病が原因で要介護状態
になってしまった場合のみと、これまでお伝えしてきました。
では、特定疾病以外の原因で介護が必要となってしまった第2号被保険者は、どのように対応すれば良いのでしょうか。
実は、介護保険制度以外にも、介護や支援が必要な方を支えてくれる制度はいくつかあります。
特定疾病以外の原因で要介護状態になった第2号被保険者は、障害者総合支援法の対象となり、障害者福祉の制度を利用することが可能です。
※障害福祉サービスを利用するためには、障害者認定の申請が必要です。

また、その他の制度でもサービスを利用することができる場合があるため、詳しくは、市町村の窓口や、地域包括支援センターに問い合わせしてみましょう。

※地域包括支援センターは、介護・保健・福祉の専門職の方が常駐している、総合相談窓口の役割を担う機関です。
地域に住んでいる高齢者や、家族、地域で働いているケアマネジャーなど、高齢者の支援活動を行っている方を支援することを目的としており、中学校の学区ごとに1つは設置されることになっています。高齢者の暮らしや介護に関する悩み、介護する側の仕事との両立に関しての悩みなど、幅広く対応しているため、何か不安なことがあれば、迷わず相談してみるようにしましょう。

まとめ

今回は、介護保険における「特定疾病」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

40~64歳の方で介護が必要になった場合、老化に起因する16の特定疾病であるならば、65歳以上の方と同じように介護保険サービスを受けることができます。介護認定の手続きが面倒と思う方もいるかもしれませんが、多くの支援を受けることができ、結果的に同居していた家族への負担を減らすことにも繋がります。ただし、40~64歳の方の要介護状態になった原因が特定疾病以外だった場合、介護保険を利用することはできないため、他の手段を探さなければなりません。
いずれにしても、少しでも不安なことがあるのであれば、まずは、市町村窓口や地域包括支援センターに相談してみましょう。

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