日常生活の自立度の程度を表す「日常生活自立度」は、要介護認定調査を行う上で、欠かすことのできない指標の一つです。
「日常生活自立度」は、認知症の高齢者と、障害を持つ高齢者で分類されています。
今回は、認知症高齢者・障害高齢者ぞれぞれの「日常生活自立度」の基準や、認定調査の前に確認しておくべき質問事項などについて、ご紹介させていただきます。

目次

日常生活自立度とは

要介護度を判定する際に用いられる「日常生活自立度」

介護保険サービス利用のため、原則、利用者は、要支援・要介護状態の有無や程度を調べる要介護認定調査を受けることになります。
要介護認定によって、「要支援1・2」、「要介護1~5」の7段階、あるいは「非該当(自立)」に分類され、これにより、利用者は、要介護度に合った介護サービスを受けられるようになります。
要介護認定で利用者がどのくらいの要介護度であるかを判定する際、一つの指標となるのが「日常生活自立度」です。
また、「日常生活自立度」は、要介護認定の認定調査だけではなく、さまざまな場面で活用されています。

介護現場…ケアプラン・個別機能訓練計画書・通所介護計画書
看護現場…リハビリテーション総合実施計画書・訪問看護計画書 など

「日常生活自立度」には、「認知症高齢者の日常生活自立度」と、「障害高齢者の日常生活自立度」の2つの判定基準があり、認知症高齢者では9段階、障害のある高齢者は4段階にそれぞれ分類されます。

要介護認定の認定調査

介護保険の申請手続きは、各市町村の担当窓口で行います。介護保険申請(要介護認定の申請)の手続きを行うと、要介護認定の認定調査のため、後日、利用者宅に、市町村から認定調査員(訪問調査員)が派遣されてきます。
認定調査員は、利用者やその家族に、利用者の心身の状況に関する聞き取り調査を行います。
調査員は、この聞き取り調査での利用者の様子から、厚生労働省が示している「日常生活自立度」の判定基準を参考にし、自立度のランクを決定、認定調査票(基本調査)の項目に記入します。

要介護認定では、まず、専用のソフトウェアを使用して、認定調査票と主治医意見書の内容をコンピュータに入力し、コンピュータによる判定を行います。(一次判定)
この一次判定の結果をもとに、保健・医療・福祉の学識経験者により構成された介護認定審査会で、要介護度認定の最終判断を行います。(二次判定)

認知症高齢者の日常生活自立度の基準

認知症高齢者の「日常生活自立度」は、認知症の程度を踏まえて判定されるものです。日常生活自立度のランクは、「Ⅰ、Ⅱ、Ⅱa、Ⅱb、Ⅲ、Ⅲa、Ⅲb、Ⅳ、M」の9段階で、数字が大きくなればなるほど、支援や介護が必要な状態ということになります。

ランク 判断基準 見られる症状・行動の例
何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している。  
日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる。  
Ⅱa 家庭外で上記Ⅱの状態がみられる。 たびたび道に迷うとか、買い物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つ等
Ⅱb 家庭内でも上記Ⅱの状態が見られる。 服薬管理ができない、電話の応対や訪問者との対応など一人で留守番ができない等
日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする。  
Ⅲa 日中を中心として上記Ⅲの状態が見られる。 着替え、食事、排便、排尿が上手にできない、時間がかかる。
やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声・奇声をあげる、火の不始末、不潔行為、性的異常行為等
Ⅲb 夜間を中心として上記Ⅲの状態が見られる。 ランクⅢaに同じ
日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。 ランクⅢに同じ
著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。 せん妄、妄想、興奮、自傷・他害等の精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態等

≪出典≫厚生労働省「認知症高齢者の日常生活自立度」より

認知症が引き起こす症状や行動、進行具合等は人によりさまざまで、個人差が大きいのが特徴です。さらに、時間帯によって現れる症状の強さや種類が変わるなど、1日のうちに波があります。そのため、家族は、本人の日頃からの様子をしっかり把握し、要介護認定のため、調査員が自宅を訪問した際には、具体的な様子を伝える必要があります。

障害高齢者の日常生活自立度の基準

障害高齢者の「日常生活自立度」の場合は、〝何をすることができるか〟といった能力の評価ではなく、「状態(特に「移動」に関する状態)」に着目して判断されます。補装具や自助具等の器具を使用した状態であっても、判定に影響はありません。日常生活の自立の程度は、「J、A、B、C」の4段階にランク分けされています。
尚、障害を持っていない健常高齢者は、対象外となります。

生活自立 ランクJ 何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する
1.交通機関等を利用して外出する
2.隣近所へなら外出する
準寝たきり ランクA 屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない
1.介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する
2.外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている
寝たきり ランクB 屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ
1.車いすに移乗し、食事、排泄はベッドから離れて行う
2.介助により車いすに移乗する
ランクC 一日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替において介助を要する
1.自力で寝返りをうつ
2.自力では寝返りもうてない

≪出典≫厚生労働省「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」より

障害高齢者の日常生活自立度の基準にある〝障害等〟とは、疾病や傷害及びそれらの後遺症あるいは老衰により生じた身体機能の低下を指します。

要介護認定の前に確認しておくべき質問事項

認定調査では何を質問されるか、あらかじめ確認しておく

最初の項目でもお伝えしたとおり、要介護認定を申請後、市町村から派遣された調査員が、利用者宅を訪問し、認定調査(訪問調査)を行うことになります。利用者の要介護度は、この認定調査(訪問調査)の内容が重要となるため、利用者家族は、本人の日頃の様子等をできるだけ具体的に伝えることが大切です。
また、認定調査(訪問調査)では、聞き取り調査(基本調査)の他に、概況調査や特記事項に基本調査だけでは把握できない内容(より具体的な内容)を記入することもあります。
質問の項目は全部で50個以上あるため、質問にうまく答えられなければ、要介護度の判定にも影響することになります。
家族は、本人の様子を日頃からメモをとるようにしておき、認定調査(訪問調査)を受ける前に、質問項目等を事前に確認しておくようにしましょう。

家族が把握しておきたいこと

要介護者の普段の様子

認定調査(基本調査)は、日常生活自立度の他に、身体機能や起居動作、生活機能、認知機能、精神・行動障害、社会生活への適応、過去14日間に受けた医療行為等について質問されます。例えば、動作に関する質問をされた際、とっさに質問をされると、「できる、時々できる」・「時々できない、できない」で答えてしまいがちですが、何を質問されるか前もって準備していれば、転倒した回数や姿勢を維持できる時間など、調査員に具体的な様子を伝えることができます。
また、利用者となる要介護者の状態が毎日常に同じというわけではないため、本人の当日の様子だけでは、調査員に分からないこともあります。家族は、日頃から、本人の行動や症状、介護内容等について、できるだけ細かくメモを取るようにしておき、調査当日も、伝え漏れがないように準備しておきましょう。

既往歴、怪我

今までかかったことのある病気や怪我等は細かくメモしておき、調査当日、伝えられるようにしておきましょう。

現在利用しているサービスの状況

認定調査票(基本調査)では、利用者が現在受けているサービスの状況についても質問されることになります。例えば、医療保険や市町村の高齢事業などによる行政サービス、障害者制度等の利用、地域のボランティアが実施している安否確認や見守り支援といったサービスが該当します。
調査員には、利用しているサービスの種類だけでなく、サービスを利用している回数や利用している曜日や時間、利用開始日、利用するようになったきっかけ等を伝えられるようにしておきましょう。

困っていること

本人や介護している家族が、普段から困っていることや不便に感じることなどをまとめておきましょう。

本人の前で言いにくいことは、メモにまとめておく

要介護者の中には、自分が困っていることやできていないこと、不自由に感じていることなどを、他人に知られたくないと思い、質問に答えることに抵抗を感じたり、回答自体を拒否したりすることがあります。
特に、認知症高齢者の場合、調査員からの質問に対し、できないことを「できる」と答えたり、わからない質問に対してごまかしてしまったりする可能性があります。
しかし、本人のプライドを傷つけることになってしまうので、その場で家族が答えを訂正する訳にはいきません。
このような状況下では、調査中は、例え本人が本来の状況とは違う内容を言っていたとしても、否定も肯定もせず話を聞き、あとで調査員に、事前にメモにまとめておいたものをそっと渡しておくことをおすすめします。

まとめ

今回は、「日常生活自立度」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
「日常生活自立度」は、要介護度を判定する際に必要となる指標の一つであるため、調査の内容は要介護度の判定結果に影響します。利用者にとってベストな介護サービスを受けられるよう、特に利用者家族は、調査で聞かれる質問はあらかじめ把握し、答えられるように事前に準備しておきましょう。

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