市町村の判断によって、介護サービス回数や時間を介護保険の支給限度額を超えても増やすサービスを「上乗せサービス」、各市町村が地域の現状を踏まえた上で、独自に行っているサービスを「横出しサービス」といいます。
今回は、「上乗せサービス」・「横出しサービス」の各サービスの内容や、利用方法などについてご紹介させていただきます。

目次

「上乗せサービス」「横出しサービス」とは

介護保険サービスは、誰もが自由気ままに好きなだけ利用できるようになってしまうと、保険給付が一部の人に偏ってしまったり、保険料の負担と給付に不公平が生じたりしてしまいます。そこで、介護保険が適用される居宅サービスなどの支給額には、それぞれ上限額が設けられています。これを支給限度基準額といいます。
本来、この限度額を超えてサービスを利用する場合には、超えた分が全額自己負担となりますが、実際に介護が必要になった時、介護保険サービスだけで利用者のニーズにすべて答えることが難しいという場合もあります。そのような時に利用したいのが、「上乗せサービス」・「横出しサービス」です。

「上乗せサービス」は、支給限度基準額を超えて利用できるサービスです。介護保険を財源として各市町村が独自に行っており、例えば、サービスの利用できる回数や時間を増やす、訪問時間を延長する、住宅改修の上限20 万を30万円にといったものがあります。

「横だしサービス」は、介護保険の支給限度基準額内のサービス以外に、各市町村がそれぞれの地域の実情に合わせ独自に提供するサービスのことです。第1号被保険者の保険料を財源にした、「市町村特別給付」「保健福祉事業」が「横出しサービス」と呼ばれています。

■市町村特別給付…要支援者・要介護者に対し、要介護状態への移行や状態の悪化を防いだり、軽減したりすることを目的としたサービス。

■保健福祉事業…被保険者と介護者を対象としたサービス。

「上乗せサービス」・「横だしサービス」は、どちらも各市町村の住民だけに適用されるサービスとなっています。
しかし、財源が足りないなどの理由から、実施している市町村が少ないのが現状です。

上乗せサービスの一例

支給限度額の増加

要介護度別に国で定められている月ごとの支給限度基準額を超えて利用できるサービスを上乗せすることで、 市独自の支給限度基準額が設けられています。

(例)【滋賀県草津市】 ※2020.12.02現在
認知症高齢者等へのサービスの充実を図ることを目的としている。

  要支援1 要支援2 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5
上乗せ額 39,560円 / 月 43,880円 / 月 48,160円 / 月 52,480円 / 月 56,800円 / 月

住宅改修20万円→30万円

要介護者、要支援者に対し、国が定める20万円の限度額に、市町村が独自に10万円の上乗せを行う。
※条件ある市町村あり。
(例)【愛知県高浜市、北海道根室市、北海道網走市 など】※2020.12.02現在

福祉用具購入費支給限度基準額の上乗せ

(例)【岐阜県飛騨市 など】※2020.12.02現在

横出しサービスの一例

【市町村特別給付】
対象者:要支援者・要介護者
▪紙おむつの給付サービス
▪移送サービス
▪配食サービス
▪寝具の乾燥サービス
▪訪問理髪サービス
▪買い物の同行サービス
▪寒冷地の除雪サービス

【保健福祉事業】
対象者:被保険者・介護者
▪介護者の支援事業
 家族向けの介護教室開催、情報交換の場の提供 等
▪要介護者状態予防事業
 要支援者の機能訓練 等
▪貸付事業
 高額介護サービス費資金貸付事業

(例)【熊本県山鹿市】
紙おむつ、尿とりパッド、リハビリパンツ

(例)【兵庫県伊丹市】
見守り、話し相手、外出介助(通院介助を除く散歩等)

(例)【群馬県高崎市】
委託業者が月1~2回程度家庭を訪問し、おむつを配達

市町村特別給付「上乗せサービス」「横出しサービス」を利用するには

市町村独自のサービスであるため、その地域に住む住民のみがサービスを利用することができます。利用できる条件や申請方法等は自治体ごとに異なるため、まずは住まいのある市町村に問い合わせ、あるいは担当のケアマネジャーに相談するようにしましょう。

申請方法一例

市町村に問い合わせ・ケアマネジャーに相談

サービス利用の条件に該当する場合、必要な書類等を用意し、申請手続きを行う
▪承認申請書
▪サービス利用票
▪サービス利用票別表 など

申請後、介護保険課が審査を行い、「承認・不承認」決定する
※支給申請の手続きに関しては、ケアマネジャーまたはサービス提供事業所が申請の手続きを行います。

介護保険指定サービス以外のサービスが増えない原因

冒頭でもお伝えした通り、介護保険サービスだけでは、利用者の介護ニーズに全て応えるのは難しいため、実際には、市町村特別給付や地域支援事業といった市町村独自のサービスや、民間によるサービスが活用されています。
高齢者がより安全に住み慣れた地域での生活を送るためにも、介護保険指定外のサービスの充実は不可欠です。
しかし、今現在、このような地域の単独事業等は、大きく削減される方向となっています。
その理由としては、以下のようなことが考えられます。

①財源が十分でない
もともとは国の補助金で事業を実施していましたが、介護保険制度が導入されたことにより、補助金関係のものはほとんどが介護保険指定サービス止まりでした。そのため、補助金の歳入見込みがなくなりました。

②住民参加型サービスを提供する主体の形成が完ぺきではない
介護保険制度が始まる前に実施されていた24時間ホームヘルプサービスや配食サービス等の費用は、もともと自治体からの補助金が使われていました。しかし、主体団体が自ら資金をつくりだせていなかったため、結果的に介護保険制度導入後は、独自のサービスの提供ができなくなりました。

③事業の浅さ
各地域で行われる単独事業の内容が、具体的なサービスではなく、金銭の給付の事業が中心となっており、「政策」としては、浅い事業が多い傾向にあった。

④価値観の変化
企業の福利厚生が地域福祉のかわりとして機能したことにより、企業優先・効率優先の考え方や、自分の周囲以外には距離をとるような冷めた人間関係などが、地域福祉のマイナス要因となったことも考えられます。

このように、地域のサービスの拡充や整備は不可欠とされているものの、市町村特別給付や保健福祉事業を実施している市町村の割合は、きわめて低いのが現状です。

まとめ

今回は、「上乗せサービス」・「横出しサービス」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
「上乗せサービス」・「横出しサービス」は、市町村が独自に行うことから、サービスの提供には財源や人材の確保が必要です。そのため、利用できるサービスの内容等は地域によって差があり、まだ実施していない自治体も多いようです。
「上乗せサービス」・「横出しサービス」のように、自分が住んでいる地域ではどのような独自サービスが利用できるのか、一度、確認してみてはいかがでしょうか。
今後、使えそうなものがあればどんどん活用していくことをおすすめします。

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