長寿国といわれている日本では、どんどん高齢化が進んでおり、それに伴い、認知症の患者数もさらに増えることが予測されています。認知症というと「物忘れが多くなる」というイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、実は、原因となる疾患によって、それぞれ症状の特徴が異なります。認知症の原因や種類別の特徴を知ることで、万が一自分の家族や身近な人が認知症を発症した場合でも、初期の段階で対応することが可能となります。
今回は、認知症の基礎知識や、認知症を早期発見するためのポイントなどについてご紹介したいと思います。

目次

認知症とは

「認知症」とは、病名ではなく、何らかの原因で脳の神経細胞の一部が壊死あるいは働きが鈍くなることにより、一度正常に発達した脳の機能(知的機能)が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすさまざまな状態のことをいいます。以前は「痴呆症」と呼ばれていたこともありましたが、「痴呆」は侮辱的な意味合いの表現であることや、症状を正確に表していないとの理由から、「認知症」へと呼び方を変えました。

認知症のうち、多くを占めるのは、「アルツハイマー型認知症」、「レビー小体型認知症」、「脳血管性認知症」、「前頭側頭型認知症」になります。

主な認知症の種類と特徴について
アルツハイマー型認知症
(AD)
 レビー小体型認知症 
(DLB)
  脳血管性認知症  
(VaD)
  前頭側頭型認知症 
(FTLD)
脳の変化 「βアミロイド」、「タウ蛋白」などのタンパク質が、数年かけて脳に溜まることで、脳細胞が死滅していき、記憶をつかさどる「海馬」を中心に脳全体が委縮していく。 特殊なタンパク質のかたまりである円形の「レビー小体」が、脳幹や大脳皮質の神経細胞に蓄積されることで脳細胞が破壊されていく。 脳梗塞やくも膜下出血といった脳血管障害により、脳の一部が壊死する。 異常なたんぱく質により、脳の前頭葉と側頭葉だけが少しずつ委縮していく。
特徴 発症後は、5~20年程かけ、少しずつ進行。女性の発病率が高い。 個人差はあるが、比較的進行が早く、3~8年程で症状が進行。 多彩な症状がみられる。以前はアルツハイマー型認知症と混同されることが多かったが、現在は診断基準が設けられていることや診断方法の進歩により、正しく診断される患者が増えてきている。 障害が発生した部位により症状が異なる。脳の一部の機能のみが低下している状態のため、認知症である自覚が乏しい。症状はなだらかに進行するのではなく、脳卒中(脳梗塞やくも膜下出血等)の再発を繰り返すたびに、段階的に進む。 認知症の代表的な症状である「もの忘れ」よりも、性格の変化や行動異常等が目立つ。統合失調症やうつ病といった精神疾患と誤診されることが多い。
発症前 ・軽度認知障害(物忘れ等)
・うつ状態
・住み慣れた環境ではいつも通り生活ができる。
など
・パーキンソン病と似た症状がみられる。(手足の震え、動作が緩慢になるなど) ・脳梗塞が起きる前兆として、「ろれつが回らない」、「手足に力が入らない」、「立ちくらみがある」などの症状が挙げられる。
・くも膜下出血の前兆として、発作が起きる1~3週間前に「立ちくらみ」や「目が回るめまい」などがある。
・金銭の管理や手紙、メール等のやりとりが難しくなる。
・愛情や親近感といった感情が低下する。
初期症状 ・見当識障害(時間、日付、場所、人物等が分からなくなる状態)
・数日前や数時間前など、比較的最近の記憶が失われやすくなる など
・実際には存在していないものがみえる
睡眠中の異常行動(睡眠中に突然大きな声を出す など
・見当識障害
・認知症に多い「物忘れ」の症状はあまり目立たない。
・脳卒中後の歩行障害や言語障害により、引きこもりがちになり、意欲低下
・障害が発生していない脳の部分は機能が保たれているため、低下機能と残存機能に偏りがある。できることとできないことの差が大きい。(まだら認知症)
・協調性が乏しくなり、周囲への配慮に欠ける行動が多くみられる。
・行動が衝動的になる、行動に落ち着きがなくなる、暴力的になる。
・同じものを食べ続ける、嗜好が変化する。
・慣れていない場所に行くと困惑する。
・季節に合わせた服装を選択できなくなる。
・自動車の運転が困難となる。
・見当識障害
中期症状 ・徘徊
・妄想
・数ヶ月~1、2年前の記憶が失われる。
・服の着脱方法が分からなくなる
・今まで使用していた電化製品の使用方法が分からなくなる。  など
・数時間おきや数日おきに、意識がはっきりしている時とぼんやりしている時が交互に現れる。
・「レビー小体」は全身の神経細胞にできるため、自律神経にも蓄積されていくことにより、発汗やめまい、便秘、失禁などの症状がみられる。
・怒りっぽくなる。
・理解力、判断力が低下してくる。
中期を境に進行が早くなる。
・リハビリの効果が表れにくくなってくる。
・感情のコントロールが困難になったり、抑制障害が発生したりすることがある。
・自覚症状のない小さな梗塞が増加していくことで、症状の進行がアルツハイマーと似る場合がある。
・食事のマナーが悪くなる。
・現金での支払いが困難となる。
・服用する薬の正しい量が分からなくなる
後期症状 ・ほとんどの記憶が失われ、会話が困難となる。
・認知症により受診行動をとることができないため、適切な医療に繋がりにくいことや、身体合併症の頻度が増加することなどにより、最終的には、心疾患や脳卒中、誤嚥性肺炎、栄養不良などが原因で死亡となるケースが多い。
・パーキンソン症状の進行により、転倒のリスクが高くなり、骨折などで寝たきりの状態となる。
・意識障害により、会話が困難となる。
・嚥下機能の低下により、誤嚥性肺炎のリスクが高まる。
・脳卒中を繰り返し発症し症状が進むことで、嚥下障害や言語障害を併発する。
・記憶障害や歩行障害が進む。
・食事中、箸やスプーン、フォークをうまく使用することができなくなる。
・尿失禁を起こしやすくなる。
・寝たきりの状態になる。

認知症の多くを占めているのは上記の4種類であり、原因となる疾患によって分類されています。中でも、「アルツハイマー型認知症」は認知症疾患の半数を占めており、以前は、脳血管障害により引き起こされる認知症(脳血管性認知症)が国内で最も多いという状況でしたが、現在は、「アルツハイマー型認知症」がトップとなっています。これは、医療の進歩により認知症の診断技術が上がったことで、アルツハイマー型認知症を早期に発見できるようになってきていることが理由として考えられます。

認知症により現れる症状はさまざまあります。ここでは「中核症状」と「周辺症状」についてお話したいと思います。

■中核症状
認知症は、脳の神経がダメージを受け、脳の機能が正常に機能しなくなることにより起こりますが、この、脳の障害が直接の原因となって現れる症状を「中核症状」といいます。「中核症状」には、「物忘れ」の原因となる記憶障害や、日時や場所、人物を認識できなくなる「見当識障害」、物事を順序立てて考えることが難しくなったり、判断力が低下したりする「実行機能障害」、会話やコミュニケーション、読み書きが難しくなる「高次脳機能障害」の4つの症状があります。
これらの「中核症状」は、認知症が発症した方には誰にでも起こる可能性があります。認知症が進行することで現れる症状も増えていく為、改善は難しいと言われています。

■周辺症状
「周辺症状」は、「中核症状」が現れることが原因で引き起こされる、二次的な症状のことです。「BPSD(行動・心理症状)」ともよばれています。具体的な症状としては、「うつ状態」や「妄想」、「作り話」、「徘徊」、「執着」、「錯覚・幻覚」、「尿失禁」、「暴言・暴力」、「昼夜逆転」などが挙げられます。
例えば、「中核症状」の一つである記憶障害により、財布をしまった場所を忘れる、あるいは、しまったこと自体を忘れてしまうことで、財布が盗まれたと思い込む「物盗られ妄想」は、よくあるケースの一つになります。
また、現在いる場所や日時などが分からなくなる見当識障害は、「徘徊」の原因となります。

このように、認知症患者の方は、中核症状がもたらすさまざまな不自由によって心に不安を抱えた状態となるため、周辺症状を引き起こしやすくなります。ただし、周辺症状は、中核症状とは異なり、症状が引き起こされる原因を知ることによって、改善できる可能性があります。

物忘れと認知症の違い

認知症の最も一般的な症状として、「物忘れ」があります。しかし、「物忘れ」には、単なる老化が原因で起きているものもあります。認知症による物忘れと、加齢に伴って起こる認知症の違いとして、以下のポイントがあげられます。

・「忘れている」という自覚があるか
人の名前や自分に起きた出来事などを忘れてしまった時、老化による物忘れの場合は、時間が経過したり、他人に聞いたりすることで思い出すことができますが、認知症による物忘れの場合は、起きた出来事自体記憶からすっぽり抜けているため、本人に〝忘れている〟という自覚がありません。例えば、昼に何を食べたかを忘れるのではなく、昼に食事をしたこと自体を忘れてしまったり、身近な人物の名前が出てこないだけでなく、名前を聞いても誰か分からなかったりします。
つまり、老化現象による物忘れは、体験の一部を忘れていることになりますが、認知症の場合は、体験したこと自体を忘れてしまうのです。

・最近あった出来事を思い出せるか
加齢により記憶力が衰えてきたとしても、最近の出来事であればあるほど、記憶は鮮明なものになります。しかし、認知症の場合は、たった1時間前の出来事も記憶に残っていません。認知症の物忘れは、老化現象による物忘れと比べ、どんどん悪化していき、判断力の低下にも繋がってくるため、日常生活全般に支障が出てきます。

加齢に伴う「物忘れ」や、「物覚えが悪くなった」などは、自然に起こる老化現象であるため、特に心配する必
要はありません。ただ、アルツハイマーの初期症状である「物忘れ」と区別がつきにくいため、気になる症状がある場合は、
すぐに医師の診断を受けることがおすすめです。早期発見により、認知症の発症を遅らせたり、発症そのものを防いだりすることができる可能性もあります。

家族の認知症症状を見つけるポイント

先ほどもご説明したとおり、記憶力や判断力などの機能は加齢に伴い衰えてくるため、ちょっとした物忘れや、物覚えが悪くなったなどは、誰にでも起こり得ることになります。しかし、認知症は早めに発見するに越したことはありません。認知症の早期発見には、身近にいる周りの人(特に第三者)の協力が必要となります。

早期発見のためには、以下のようなリストがあります。

上記は医学的な診断基準ではありませんが、これらのリストにいくつか思い当たる節があれば、早めに専門家に相談してみるのが良いでしょう。

診断までに時間がかかる若年性認知症

認知症は高齢者が発症しやすい傾向にありますが、若いころに発症してしまうケースもあり、65歳以下で認知症を発症した場合を、「若年性認知症」といいます。若年性認知症の中でも、18歳~39歳に発症した場合は「若年期認知症」、40歳~64歳に発症した場合を「初老期認知症」とよびます。
若年性認知症を発症する原因となる疾患には、「アルツハイマー型認知症」や「脳血管性認知症」、「前頭側頭型認知症」の他、「アルコール性認知症」や「頭部外傷後認知症」なども多くみられます。
若年性認知症は、65歳以下に発症するという部分を除いては、老年期認知症と症状は特に変わりありません。

ただし、若年性であるが故の問題点として、年齢が若いことから、初期症状があったとしても、なかなか認知症と結びつかないということが挙げられます。年齢的に高齢者と比べても、社会的な活動が多いことから、早期の段階で「何かおかしい」と自分の変化に気づくことは多いようですが、うつ病や更年期障害等に間違われやすく、高齢者の認知症よりもより高度な診断技術が必要となることから、認知症と正しく診断されるまでに時間がかかることが多いようです。
病院に行く際には、普段どのような支障が起きており、どのようなことに困っているかなど、具体的に書いたメモを持参するのがおすすめです。

認知症である親に車の運転を止めてもらうには

近年はTVのニュースでも特集を組まれるなど、高齢者の運転による死亡事故は社会問題となっています。
そのため、認知症が疑わしく、ご高齢であるご家族に免許の返納を求めた際、「車がないと不便」、「車の運転が好き」などの理由で、なかなか免許を返納してくれず、困っているという方も多いのではないでしょうか。特に、認知症が軽度または、中等度の方は、身体的な症状が目立たず、運転も十分にできることから、運転者本人が危険性を感じておらず、事故を起こしてしまうことがあります。
また、高齢者の方の中には、運転が危ないと理解していても、交通の便が悪いという理由から、やむを得ず車を運転しているという方もいるのが現状です。

2017年の道路交通法改正により、75歳以上の方が免許を更新する際は、認知機能検査が義務となりました。この検査によって、記憶力や判断力が低くなっていると判断された場合は、臨時適性検査あるいは医師の診断を受けないと免許停止となります。さらに、検査で認知症と認められた場合には、免許の取り消し、認知症でないと判断された場合には、高齢者講習を受講しなければなりません。
75歳未満である場合は、基本的に自主返納という形になります。

認知症の親が免許の返納を拒否した場合は、まず、運転禁止に関して医師から説得してもらうようにしましょう。家族の言うことは聞かなくても、医師や医療従事者などの言葉には耳を傾けてくれる可能性があるからです。それでも運転をやめようとしない場合には、車の鍵を隠したり、車を処分したりする方法があります。ただし、買い物や通院で出かける際には、家族が車で送っていくなど、代替手段は必ず用意しておくようにしましょう。
もちろん、自分の運転に不安を感じるなどで、高齢者が自ら免許を返納するという選択肢もあります。免許の返納は、警察署や各運転免許センターで手続きを行うことができますが、代理人による手続きは認められておらず、必ず本人が申し出る必要があります。

最近では、免許を自主返納した際に特典が付く自治体もあり、例えば東京都では、運転免許の自主返納後、「運転経歴証明書」を受け取ることで、ホテルやデパート、交通、医療機関といったさまざまなお店や施設等で割引がきく特典や支援があります。
このような特典は自治体によって異なり、地域によっては、共通タクシー券やバス回数券等を配布してくれるところもあるため、返納を考えている場合は、各自治体に問い合わせてみるのも良いでしょう。

まとめ

今回は、年齢を重ねていけば誰にでも発症する可能性がある、「認知症」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
残念ながら、認知症の状態によっては、一緒に住むご家族の生活環境に大きな影響を与えてしまうことがあります。
完全完治する方法もありません。だからこそ、ご家族や周囲の方の認知症に対する知識と理解を深めて、その都度、対処していくことが重要となります。認知症の原因によって、症状にそれぞれ特徴があり、認知症の種類ごとのポイントを知るだけでも、認知症の早期発見につながる可能性もあるため、正しい知識を身に着けておくようにしましょう。

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