高齢者の住まいの一つであり、介護保険も利用できる「介護付き有料老人ホーム」。比較的施設数が多く、待機者が少なく入居しやすいことから、選択肢の1つとして検討されている方も多い有料老人ホームです。「介護付き有料老人ホーム」は、主に民間企業が運営しており、提供されるサービスや設備など、ホームそれぞれに特色があるため、自分の条件に合ったものを探せるというメリットがあります。
そこで今回は、「介護付き有料老人ホーム」がどういった施設なのか、特徴や入居条件等についてご説明していきたいと思います。

目次

介護付き有料老人ホームの特徴

老人福祉法第29条に基づき設置され、高齢者に対して、食事の提供や介護、日常生活上の援護、健康管理のいずれか(または複数)を提供する施設を「有料老人ホーム」といいます。
その中でも、一定の基準を満たし、都道府県知事より「特定施設入居者生活介護(特定施設)」の指定を受けている有料老人ホームは、「介護付き有料老人ホーム」に分類されます。
「特定施設入居者生活介護(特定施設)」とは、居宅サービスの一種です。食事・入浴・排泄等の介護、療養上の世話、機能訓練等を24時間365日受けることができます。
※「介護付」や「ケア付き」と表記できるものは、「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた施設のみとなっています。

【介護サービス】
食事、入浴、排泄、着替え等の身体介助。機能訓練など。ホームに在籍しているケアマネジャーが、個々に合わせて作成したケアプラン(介護サービス計画)に添ってサービスが提供される。
【食事サービス】
食事の提供。食事サービスは利用した分だけ料金を支払うことになる。
【生活支援サービス】
洗濯や掃除などの家事全般をサポートする。
【看護サービス】
日常的な健康の管理(検温、血圧の測定など)や薬の管理、利用者さんからの病気等の相談、医師の指示の下行
われる一部医療行為(インシュリン注射、痰の吸引、膀胱留置カテーテルやストーマ(人工肛門)の管理)等。


※具体的な内容は施設によって異なるため、施設を検討中の方は、各施設へ問い合わせをしてください。

介護付き有料老人ホームの特徴
居室 一室床面積18㎡以上(一人床面積13㎡)
設備 食堂・浴室等は共有スペース
一般的に個室の場合は居室内にトイレ・洗面あり
人員配置 3:1以上
施設スタッフ 介護士・介護福祉士・看護師・栄養士・
機能訓練指導員、ケアマネージャー・生活相談員など

施設内の入居者の居室は、プライベートを確保できる「個室」が主流になっています。厚生労働省の「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」では、「介護型有料老人ホーム」の居室の面積は一室床面積18㎡以上(一人床面積13㎡)と定められていることから、18㎡以上の広さの居室(個室)が用意されています。
ただし、施設によっては、一般的な基本設備となるトイレや洗面台だけではなく、キッチンや浴室付きの居室もある為、23㎡以上の広さのところもあります。
食堂、浴室、リビングは共有スペースになっている施設が多く、リビングのような場所で、他の入居者の方と一緒に食事をしたり、くつろいだりしながら、交流の機会を増やすことができます。ラウンジなどの共有スペースは、レクリエーションやイベントが行われる場としても利用されます。
施設運営基準として、地域のクリニックや病院など「協力医療機関」と協力契約を結ぶことが定められています。有料老人ホームは医療施設ではないため、すべての医療行為が行えるわけではありませんが、医師の指示のもと、看護職員による医療行為(インシュリン注射、痰の吸引、浣腸、摘便、褥瘡部の管理、人工呼吸器の管理、酸素吸引の管理、中心静脈栄養、経管栄養など)は一部行うことができます。
また、施設のスタッフが24時間常駐で必要な介護を行うため、利用者の急変など、緊急時も迅速に対応することが可能です。


人員配置の基準は、介護保険法により、最低基準として、要介護状態の入居者3人に対し、1人以上の介護職員、または看護職員を配置する「3:1」が義務付けられています。施設によっては、最低基準以上である「2.5:1」や「2:1」、「1.5:1」などで職員を配置し、より手厚い介護体制をとっている施設や医師を24時間常駐させているところもありますが、職員人数が多くなれば、その分施設側の人件費も掛かってくるため、一時金や月額費用は高くなる傾向にあります。
施設スタッフは、ケアマネジャーや介護福祉士、介護職員初任者研修修了者(旧ホームヘルパー2級)、栄養士、生活相談員、機能訓練指導員などがホームに在籍し、働いています。この中の機能訓練指導員とは、作業療法士・理学療法士・言語聴覚士・看護師・鍼灸師などの資格を持った方々のことで、入居者のリハビリ対応を主に行っています。


このように、介護付き有料老人ホームは、介護体制や看護体制が整備されており、スタッフが24時間常駐で、必要な介護サービスや健康管理サービス、生活支援サービス、生活相談等を提供する、利用者が安心して暮らせる施設となっています。
しかし、介護体制が充実すると、その分、規定の介護サービス費に料金が上乗せされ、人員配置のところでお話したように、毎月支払う利用料金は高くなります。
(※看護師が配置されている施設でも、対応できる医療行為は各施設によって異なる)


介護付き有料老人ホームは、全国にある有料老人ホームの中で施設数が多く、待機人数も少ないため、比較的希望の施設に入りやすいと言われています。施設では対応できない重度の医療措置が必要で、入居困難になった場合や、入居後の経済状態の変化で各種費用が支払えなくなった場合などの退去要件を除いては、基本的に生涯にわたり住み続けられます。
社会福祉法人や医療法人、株式会社などの民間事業者によって運営されている民間施設であることから、競争原理が働き、各施設にそれぞれ特色があります。入居を検討する際には、施設ならではのサービスや価格、設備等を把握しておくようにしましょう。

介護付き有料老人ホームの種類

介護付き有料老人ホームは、一般的には65歳以上の高齢者を対象としています。要介護認定をもらっていない「自立(要介護認定なし)」から、最も手厚い介護を必要とする重度の「要介護5」まで、入居対象が幅広いことから、入居者の要介護度により、さらに「入居時自立型」、「介護専用型」、「混合型」の3つの種類に分けられます。

【入居時自立型】
入居の時点で「自立」した生活を送ることができる高齢者のみが対象の介護付き有料老人ホームです。アクティブシニア層が中心で、レクリエーションやイベントなどを通し、普段の暮らしに刺激を与えたり、他の入居者と交流するきっかけを作ることで、高齢者の孤独感を解消したり、心身の健康の維持を図ったりします。
ただし、入居後に要支援または要介護状態となった場合の対応(要介護度が上がっても居住継続が可能、あるいは退去を求められるなど)は施設によって異なるため、「入居時自立型」の各施設が規定する退去要件はあらかじめ確認しておく必要があります。
基本的には、自立した生活を送ることができる高齢者が対象となっているため、「介護専用型」や「混合型」と比較すると、施設の数が少なく、居室や教養設備等が充実していることから、費用が高くなる傾向にあります。

【介護専用型】
要介護度1以上の方のみが入居対象の、介護を必要とする方に特化した介護付き有料老人ホームです。要介護度が重度である場合、あるいは、要介護度が上がってしまった場合にも対応できる設備や体制が整っています。医療機関との密接な連携により、病気の対応もスムーズです。

【混合型】
要介護認定のない方(自立)から、要支援または要介護の方まで入居することができる介護付き有料老人ホームです。
混合型の場合は、入居の時点で要介護認定なしの「自立」だった方が、将来的に介護が必要となった場合でも、施設を退去する必要なくそのまま対応してくれるという利点があります。片方が自立している夫婦の場合でも同時入居が可能です。

介護付き有料老人ホームの入居条件

介護付き有料老人ホームに入居できるのは、一般的に65歳以上の高齢者になります。施設によっては、60歳以上の高齢者を対象としているところもありますが、対応している施設の数はそこまで多くはないようです。
入居条件は年齢だけでなく、要介護度によっても入居できるかできないかが分かれおり、先ほどもご説明した通り、介護付き有料老人ホームは、入居時に要介護認定をもらっていない高齢者が対象の「自立型」と、要介護認定を持っている方が対象の「介護専用型」、「自立~要介護」まで対象の「混合型」と、種類によっても入居条件が異なってきます。
基本的に、認知症の方の入居も対応しているため、自宅での介護が困難になってきた場合に、入居を検討する方もいます。しかし重度の認知症の場合は、入居前に要相談か、他の入居者の方の配慮を理由に受け入れ不可の場合もあるため、入居前に確認しておきましょう。

介護付き有料老人ホームの費用

介護付き有料老人ホームは、入居時の際に最初に支払う費用と、毎月にかかる月額利用料があります。一般的には、入居一時金が高い場合は月額費用が少なく、入居一時金が少ない場合は月額費用が高くなるように設定されています。また、紙おむつ代や医療費、電話代、交際費等は、利用料金には含まれていないため、個人で支払うことになります。

●入居一時金
入居一時金とは、入居時にまとまった金額を払うことで、施設を利用する権利を取得できる費用のことです。
入居一時金は、施設によって0円のところもあれば、数百万~数千万と大金を支払うなど、金額はバラバラですが、入居一時金を支払うことで終身利用権を得ることができます。終身利用権とは、介護サービスや居室・共有スペースなどを終身にわたり利用することができる利用権のことをいいます。

●月額費用
管理費、水道光熱費、人件費、水道光熱費など、毎月支払う費用として設定されている利用料金です。詳しい内
訳や料金の設定は施設によって異なります。一般的には、月に10万~40万の利用料を支払うことになります。

費用内訳一例

施設に支払う費用の内訳
住居費
管理運営費(人件費、光熱水費などを含む)
食費
介護保険サービス費(所得に応じ、1~3割の自己負担)
上乗せサービス費 など
個人で支払うもの
おむつ
    ティッシュペーパー   
歯ブラシ
医療費
  介護保険対象外のサービスの利用  
嗜好品 など

介護付き有料老人ホームの場合、介護保険の自己負担分は、介護保険サービスの利用回数などに関係なく、料金は基本的に利用者の要介護度の応じた定額制になります。施設によっては、医療サービスに力を入れているところや、手厚い人員配置を行っているところになると、その分人件費などがかかるため、定額の料金に上乗せされ、料金を支払うことになります。(上乗せサービス費)
介護付き有料老人ホームの入居一時金は、高額に設定されているものが多いのですが、入居一時金には「返還金制度」というものがあります。「返還金制度」とは、入居者が、施設の想定する入居期間内に途中で退去することになったり、亡くなったりした場合、入居一時金で払いすぎた費用が返還される仕組みのことです〝施設の想定する入居期間〟=〝入居一時金の償却期間〟となり、この〝償却期間〟は、施設によって期間が異なるため、入居前に確認することをお勧めします。
ただし、一般的には、介護付き有料老人ホームは、5年程度に設定されているところが多いので、目安として覚えておきましょう。
契約時の初期償却率の基準等は定められていませんが、およそ20~40%のところが多く、その後、償却期間をかけて徐々に償却していきます。初期償却を好まない都道府県もある為、地域によっては初期償却ではなく、 均等償却をする施設もあるようです。

 ※注意点

初期償却の金額は、クーリングオフのルールが適用される90日を超えてしまった後で施設との契約解除を行うと、返還されません。
その為、施設にサービス不満を持っていたり、雰囲気に馴染めなかったりして退去するのか見極めるのであれば、タイムリミットはクーリングオフが適用される入居後90日以内が良いでしょう。

介護付き有料老人ホームのメリット・デメリット

メリット

  • 施設にもよるが、介護が必要になった場合、あるいは要介護度が高くなった場合でも、生活が続けられる体制が整っている。
  • 介護保険自己負担分が、月々の定額となっているため、介護サービスを頻繁に利用する方は費用面が安心である。
  • 少なくとも日中は看護師が常駐しているため、一部の医療的ケアも対応している。
  • 持病がある方でも入居できる。
  • 施設のスタッフが24時間常駐で、緊急時の対応が可能。
  • 施設数が多く、ホームごとに特色があるため、選択肢が豊富。

デメリット

  • 介護サービスをあまり利用しない方でも、介護度に応じた金額が月々に発生する。
  • 全体的に費用が高めに設定されている。
  • 自立した生活を送れる方や、介護度が低い方にとっては、制限が多い暮らしとなる。

介護付き有料老人ホームは、介護保険自己負担分が一定であることや、介護体制・看護体制が整っていることなどから、介護サービスを頻繁に利用する方にとっては、さまざまな面で高い安心感があります。また、各企業が独自のサービスで他の施設との差別化を図ろうとしているところも民間施設ならではで、施設によって開催されるイベントや施設内の設備、医療体制等にそれぞれ力を入れているのが特徴です。
ただし、新規参入する企業も多く、介護人材不足もあり、サービスの質にバラつきがあるというマイナス面もあります。これらを踏まえた上で、施設選びを慎重に行いましょう。

〝終の棲家〟としての選択

自分が将来、介護が必要となった時に、「どの施設でどのサービスを利用してどんな暮らしをしたいのか」などを具体的に考えておくことは、自分が残りの人生をどう生きたいかイメージすることに繋がります。例え身体に障害が出てきたとしても、さまざまなサービスを活用すれば、普段の暮らしのように自分らしい充実した人生を送ることができます。
介護を必要とする方は、介護度が高くなった場合でも入居し続けることができる介護付き有料老人ホームを〝終の棲家〟として選ぶのも選択肢の一つです。歳を重ねるごとにご両親やご自身の最期のことを考える機会も増えてくると思いますが、「終活」という言葉があるように、どこで、どのように最期を迎えるのか、ご両親あるいはご自身の体力や判断力があるうちに、家族と一緒に話し合っておくのも良いでしょう。お互いに将来の不安やストレスをなくすことにも繋がります。
ただし、介護付き有料老人ホームは、認知症の進行や、有料老人ホームでは対応できない医療措置が必要となった場合は、住み続けることが困難になり、退去になる可能性もあります。入居が決まっても、完全に安心できるというわけではありません。
もちろん、選択肢は高齢者施設だけではなく、最後まで自宅に住み続けたいと希望する方もいらっしゃると思います。
ご両親、また、ご自身にとって最善の選択ができるようにしましょう。

まとめ

今回は、介護付き有料老人ホームについてご説明させていただきました。
介護付き有料老人ホームは、都道府県知事より「特定施設入居者生活介護(特定施設)」の指定を受けた有料老
人ホームで、「要介護」と認定された高齢者に対し、介護や療養上の世話、機能訓練等のサービスを提供することがで
きる施設です。医療的ケアも行ってくれるため、介護度の高い方や持病をお持ちの方でも大きな安心感があります。
ただ、新規参入する企業も多いため、施設の写真や謳い文句などに惑わされず、実際に入居している方やその家族に話を聞いたり、見学や入居体験に行ったりして、質の良いサービスを提供している施設を見極めることが大切です。
また、ご家族やご自身にピッタリな施設を見つける為にも、どのような施設に入りたいのか、希望の条件などを具体的に考えておくようにしましょう。

facebook
twitter
line