介護はまだ必要ないけれど、自宅での生活に不安を感じるという方や、なるべく自宅で自立した生活を続けたいという方におすすめなのが、「サービス付き高齢者向け住宅」です。サービス付き高齢者向け住宅は、その名の通り、高齢者が安心・安全に生活できるよう配慮された、サービス付きの住宅のことで、自宅で住むのと変わらずに自由な暮らしができるのが特徴です。
また、サービス付き高齢者向け住宅の登録を支援するため、国も積極的に後押ししており、現在も施設数は増え続けている傾向にあります。
今回は、サービス付き高齢者向け住宅がどういった施設であるのか、分からないという方のために、提供されるサービスや入居条件等に付いて具体的にご説明していきたいと思います。
サービス付き高齢者向け住宅の特徴
「サービス付き高齢者向け住宅」とは、国土交通省・厚生労働省関係「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」に基づいた、バリアフリー構造を有する高齢者向け賃貸住宅のことです。「サ高住」、「サ付き」とも呼ばれています。
サ高住は、入居条件や設備等が高齢者に配慮されており、安否確認や生活支援のサービスが付いているという点を除いては、通常の賃貸物件を借りて住むのと同じような生活を送ることができます。一般的な賃貸住宅は、高齢者という理由から、身体または、金銭的な懸念により、入居を断られることがあるため、年齢を重ねて賃貸型の住居の住み替えを検討されている方に、「サ高住」はおすすめの物件です。
従来の高齢者住まい法では、高専賃(高齢者専用賃貸住宅)、高円賃(高齢者円滑入居賃貸住宅)、高優賃(高齢者向け優良賃貸住宅)の3つが制度化していました。しかし、複数あることで利用者に分かりづらくなっていたため、2011年10月20日に施行された「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正により、これらは廃止され、「サービス付き高齢者向け住宅」に一本化されました。高齢者が、住み慣れた地域で、安心・安全かつ快適に暮らせる住まいづくりを推進することを目的に制定されています。
サービス付き高齢者向け住宅は、主に株式会杜や有限会社などの民間事業者が運営する民間施設であり、事業者は、都道府県・政令市・中核市の登録窓口にて、住宅と事業所の登録をしています。
一般的な設備などは以下の通りになっています。
〈一般的なサービス付き高齢者向け住宅〉
■床面積
・1戸あたりの床面積は原則25㎡以上。
(居間、食堂、台所等が共同利用で十分な面積を有する場合は18㎡以上。)
■設備
・台所や水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室が各戸に設置されている。
(共同利用により適切な台所や収納設備、浴室がある場合は、各戸に水洗便所と洗面設備の備えあり)
・バリアフリー構造(手すりの設置や段差解消など)。
■サービス
・少なくとも、日中はケアの専門家(社会福祉法人、医療法人、指定居宅サービス事業所等の職員、医師、看護師、准看護師、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、実務者研修・介護職員初任者研修課程修了者(旧ヘルパー1級又は2級)のいずれかの資格を有するもの)が常駐し、安否確認サービスと生活相談サービスを提供。
・資格者が常駐しない時間帯(夜間など)でも、設置された緊急通報システムにより通報があった場合は、すぐに駆け付け対応。
■契約
・契約は、居住の安心と安定が図られている。
・入居者の同意を得ずに居住部分の変更や契約解除等は行われない。
・敷金、家賃、サービス費以外の金銭は徴収されない。
「安否確認」と「生活相談」の2つのサービスの提供は義務であることから、少なくとも日中は資格を有するケアの専門家が常駐しています。ただし、日中以外の時間帯に関しては、常駐が義務付けられていないため、宿直または、夜勤の職員による夜間の人員配置を行っていないところがあります。夜間に常駐しない時間帯がある施設は、各住戸に緊急通報装置等が設置されており、急に体調が悪くなった・転倒したなどの緊急時には対応してもらえます。
※登録事業者側は、契約前に住宅の情報開示や提供するサービス等の説明をしなければならないことや、誤解を招くような広告などを禁止すること、契約に沿ったサービスを提供すること等が義務付けられています。
医療対応について
サービス付き高齢者向け住宅は、もともと、今は介護を必要としていなくても、このまま自宅で生活を続けていくのが不安だと感じている一人暮らしの高齢者や高齢者夫婦が、元気なうちに移り住んで、見守りを受けながら安心・安全な暮らしを続けられる場として位置づけられていました。そのため、入居者が日常的な医療ケアが必要となったり、認知症が進行したりした際は、施設側は十分な対応ができず、住み続けることが困難となる場合がありました。
ただ、最近では、自立~要介護まで受け入れているサービス付き高齢者向け住宅も少なくなく、施設によっては、認知症や胃ろうなどの重篤な疾病や、たん吸入、人工透析といった医療ケアに対応しているところもあります。
サービス付き高齢者向け住宅は2つの種類がある
サービス付き高齢者向け住宅には、「一般型」と「介護型」があります。
「一般型」は、「安否確認」と「生活相談サービス」の提供が義務付けられている通常のサ高住のことです。日中はケアの専門家が常駐し、これらのサービスを提供します。「安否確認」と「生活相談」以外のサービスは義務づけられていませんが、施設によって食事の提供や入浴・排泄等の介助サービスを行っているところもあるため、入居前に確認しておきましょう。
また、介護保険による介護サービスを利用したい場合には、介護サービスを提供してくれる事業者を自分で選択し、個人で契約します。「小規模多機能居宅介護事業所」や「定期巡回サービス」が併設されている所もあり、 その場合は介護が必要になった場合でも、サービスを受けながら生活を継続することが可能です。
「介護型」は、「介護付き有料老人ホーム」と同様、各都道府県から介護保険の「特定施設入居者介護(特定施設)」の指定を受けたサービス付き高齢者向け住宅です。「一般型」のサ高住とは異なり、施設内部の職員が24時間体制で介護サービスを提供します。しかし、特定施設の指定を受けているサ高住はごくわずかで、「特定施設」であるが故の制限もあることから、〝自宅のように自由に暮らすことができる〟通常のサ高住のイメージとは全く違うものと認識しても良いかもしれません。
「介護型」のサ高住は、「有料老人ホーム」に該当する設備基準や人員基準を満たしているという意味で、特定施設の指定を受けています。
特定施設の基準には、要介護者3人に対し、看護職員あるいは介護職員が1人つくという、「3:1」の人員配置であることや、設備基準として、介護居室が介護を行える適当な広さであること、便所に非常用設備を備えること、浴室が身体の不自由な者が入浴するのに適しているものであることなどがあります。
居室 | 個室(18㎡以上)、2人部屋 |
---|---|
人員配置 | 配置基準はないが、必ず日中はケア専門家が常駐する |
認知症対応 | 重度になると対応不可のところが多い |
看取り対応 | 対応不可のところが多い |
居室 | 個室 |
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人員配置 | 要介護者:介護または看護職員 = 3:1 |
認知症対応 | 対応可能なところが多い |
看取り対応 | 施設による |
サービス付き高齢者向け住宅の入居条件
サ高住の基本的な入居条件は以下のようになります。
・原則60歳以上
・「自立」または「要支援」の認定を受けた高齢者
※場合によっては、重い要介護状態の方を受け入れているところもあります。
また、入居者の配偶者(届出がない場合でも、事実上夫婦と同様の関係にあるものも含む)や、60歳以上の親族あるいは要支援・要介護認定を受けている親族、特別な理由により同居させる必要があると知事が認める者 (入居者の介護を行う者や入居者が扶養している児童、障害者等)は、入居者との同居が認められています。施設によりさまざまですが、感染症にかかっていないことや、認知症でないこと、身の回りの管理ができるなどを条件にしているところもあります。
サービス付き高齢者向け住宅の費用
サ高住に入居するにあたり、かかる費用として、住宅の契約時に支払う「初期費用」と、毎月支払う「月額費用」があります。サ高住の多くは「賃貸借契約」であり、通常の賃貸物件を借りて住む時と同様、一般的には、初期費用で家賃の数ヶ月分である敷金を支払い、月額費用として、家賃や管理費(共益費)を支払うことになります。(礼金や更新料は不要)。また、住宅の立地条件等が良ければその分費用も高くなるでしょう。
また、サ高住は、有料老人ホームとは異なり、基本的に「入居一時金」が発生しないため、初期費用が比較的安く済むのがメリットです。高額に設定されている場合が多い、入居一時金が発生しない分、退去の決断もしやすいという特徴があります。
さらに、初期費用で支払った敷金は、退去の際、住んでいた居室の原状回復を行った後、ハウスクリーニング代等に使用されなかった分は、原則返還されることになっています。ただし、施設によっては仲介手数料がかかるところもあるため、施設を検討する際にはよく確認するようにしましょう。
「介護型」の場合は、通常のサ高住とは異なり、介護付き有料老人ホームと同様利用権契約で入居一時金を支払うか、賃貸借契約で前払い家賃として費用を支払うことになります。初期費用はだいたい数百万~数千万円必要となるケースが多いでしょう。
また、月額費用には、家賃、管理費(共益費)の他に、利用した分の光熱費や食費、介護サービス費等が含まれています。
費用に関する注意点としては、どのサ高住に入りたいかを検討する際、パンフレット等に記載されている数字(月額費用)だけで判断しないということです。それ以外にかかる費用でお金が予想外にかかってしまうケースも多いため、それを踏まえたうえで施設を選ぶようにしましょう。
また、デイサービスなどが併設されている施設では、不要な介護サービスまで利用しないように気を付けることが大切です。
サービス付き高齢者向け住宅のメリット・デメリット
メリット
- バリアフリー構造のため、高齢者が安心して自立した生活を送ることができる。
- あくまで高齢者向けの「賃貸住宅」であり、自宅と変わらずに生活することができる。
- 有料老人ホームよりも初期費用が抑えられる。
- 国の後押しもあり、住宅の数も増え続けているため、選択肢が幅広い。
- 外出制限がなく、友人や家族の方も遊びに来られるなど、自由度が高い。
- 入退去のハードルが低め。
- 在宅サービス時のケアマネジャーの継続が可能。
- 介護認定をもらっていない方から、要支援・要介護の選定をもらっている方まで、対象者が幅広い。
デメリット
- 配置基準が特に決まっていないため、看護師が常駐していないところも多くある。
- 施設の職員による介護サービスが提供されないため、介護が必要な場合は、外部の事業と別途個別で契約する必要がある。(一般型)
- 常時介護を受けられるわけではない。(一般型)
- 介護度が重度(寝たきりなど)になると、住み続けるのが困難になる。
- 施設によって提供されるサービスの質や内容にバラつきがある。
- 月額費用量のその他の部分で費用がかかってしまう場合がある。
サ高住は、自宅で暮らすのとほぼ変わらない生活を送ることができるため、老人ホームとは違って自分の好きな時間帯に外出できたり、家に家族や友人を招き入れたりすることが可能となっています。また、住宅はバリアフリー完備で、ケアの専門家によるサポートを受けながら、安心・安全に、快適かつ自由に動くことができます。
入退去のハードルも低めで、初期費用が安く、要介護度が低い人から高い人まで、幅広く受け入れているところや、基本的に入居一時金を支払う必要がないため、退去するかしないかの決断がしやすいなどの特徴があります。「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」で、入居者の同意がないまま一方的に契約を解除することは禁じられているため、入居中は突然退去させられる心配もありません。
また、サ高住は、法の改正により2011年に新しい制度が創設されて以来、普及促進を国でも後押ししていることから、現在に至るまで住宅がどんどん増え続けており、その分選択肢が幅広くあるのもメリットの一つです。
ただし、「介護型」の場合は、介護型有料老人ホームと同等のサービスを受けることができ、全体的なコストは介護型有料老人ホームよりやや抑えられているというメリットはありますが、特定施設入居者生活介護の運営基準により、個人の行動が制限されてしまうため、自由な生活を送ることはあまりないと考えて良いでしょう。
〝特定施設〟のサ高住は自由度が低い
〝特定施設入居者介護(当的施設)〟の指定を受けたサ高住は「介護型」となりますが、介護型のサ高住の場合は、施設の職員による手厚い介護が24時間体制で受けられることや、介護費用が一定額で変わらないという安心感があります。その反面、外出制限や入浴回数等が決められるなど行動に制限があり、自由度が低いことや、 ケアマネジャーや介護事業者を自分の意思で選択できないというデメリットもあります。
「介護型」の自由度が低い理由としては、特定施設入居者生活介護に運営基準等が定められていることや、施設側のルールで外出が禁止されているなどが挙げられます。
施設職員による介護サービスが24時間体制で受けられ安心という理由から、「介護型」のサ高住を選ぶ方もいるかもしれません。
しかし、ある程度自分で動けるにもかかわらず、さまざまな行動が制限されると、サ高住での暮らしにストレスを感じてしまう方や、外出が減ることでかえって身体が弱くなってしまうことを心配に思う方もでてきます。自分の現在の身体状況とあまりにも合っていない施設は選ばないよう、サービスの内容等はしっかり確認しておくことが大切です。
まとめ
今回は、「サービス付き高齢者向け住宅」についてご説明させていただきました。
サ高住は初期費用が安く済むことから経済的に不安がある方でも入りやすいことや、入居対象が幅広いこと、 他の老人ホームとは全く異なる特色があることなどから、選択肢の一つとして考える方も多いと思います。
ただ、サ高住は2011年に創設され短期間で一気に数が増えていることから、施設によってサービスの質などにバラつきがあるのが現状です。
サ高住の入居を考えている方は、費用やサービス等の確認をしっかり行い、よく比較して検討するようにしましょう。