少子高齢化や核家族化などの影響により、高齢者の一人暮らしは年々増加傾向にあります。そのため、自立した生活を送ることができる方の中には、老人ホームでの暮らしに興味を持っている方も多いのではないでしょうか。
「住宅型有料老人ホーム」は、介護を必要とする方はもちろん、自立や要支援の方も対象としている高齢者施設です。日常生活上の支援が受けられるだけでなく、レクリエーションやイベントなどが豊富なため、充実したシニアライフを送ることができます。
今回は、「住宅型有料老人ホーム」についてご説明したいと思います。

目次

住宅型有料老人ホームの特徴

高齢者が安心・安全に暮らせる設備や環境が整えられ、施設のスタッフによる食事の提供や日常生活上の支援、レクリエーション等のサービスを受けながら居住できる有料老人ホームを、「住宅型有料老人ホーム」といいます。
「住宅型有料老人ホーム」は、「介護付き有料老人ホーム」のような施設スタッフによる施設介護サービスの提供はありませんが、入居者本人が外部の事業者と別途契約し、介護保険の訪問介護や通所リハビリテーションなどの居宅サービスを利用することができます。
実際には、「住宅型有料老人ホーム」は、居宅介護支援事業所が併設されている施設もあり、居宅サービスを受けやすいよう配慮されているところも数多くあります。ケアマネジャー(介護支援専門員)に、入居者が必要とする介護サービスを受けられるよう、ケアプラン(介護サービス計画)を作成してもらい、ホームヘルパーが、 それに基づいて介護を行うことになります。

また、施設によっては訪問介護事業所やデイサービスが併設されているところもあります。必ずしもそこを利用しなければならないという決まりはありませんが、施設内に事業所が併設されている場合は、スタッフが 24時間常駐しているところもあるため、「介護付き有料老人ホーム」とまではいきませんが、安心ポイントになります。

住宅型有料老人ホームの特徴
居室 個室(13㎡以上)が中心
設備 浴室・食堂・リビングは主に共有スペース。
共同生活室では、図書室・プール・麻雀室等がある場合もある。
※施設の中には、天然温泉があるところも。
人員配置 2.5:1 以上の手厚い人員配置のところもある。
※配置基準が無いため、施設によって差があり。
施設スタッフ 基準は、管理者・生活相談員・栄養士・調理士。
介護サービス提供をする際には、介護福祉士・看護師・機能訓練指導員などが必要。

介護サービスを外部の事業者に委託する「住宅型有料老人ホーム」は、法令による、介護職員や看護職員などの配置基準が特に定められていません。そのため、看護師が日中しかいない施設や、要介護度が重度になると退去しなければならない施設があります。しかし、施設の中には、先ほどお話した通り、「介護付き有料老人ホーム」のように24時間365日体制でスタッフが常駐している施設や、医療措置が充実しているところがあるため、この点は、施設ごとに確認しておきましょう。
※実際にサービスを提供する職員は、生活支援サービスを提供するスタッフ、看護職員などによって構成されます。施設により、最低限の人員しか配置していないところもあれば、手厚い人員配置をおこなっているなど、 さまざまです。

老人福祉法第29条における有料老人ホームの定義として、食事の提供や入浴・排泄などの介護、家事支援、健康管理のいずれか、または複数のサービスを提供するのは、どの施設も共通しているところですが、その他の具体的なサービス内容については、施設ごとに異なります。
一般的には、部屋の掃除や洗濯、買い物の代行、病院への送迎手配、不在時の居室管理、ごみ収集といった日常生活上の支援サービスや、レクリエーション、イベント等のサービスを提供している他、緊急時対応や健康状態の継続的管理、健康相談、医療的措置や慢性疾患の管理など、健康面のサポートが徹底されているところもあります。
居室は、厚生労働省の「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」により、基本的に全室個室で、入居者1人当たりの床面積は13㎡以上と定められており、プライベートの空間もあるため、入居者の方は自分だけの時間を過ごすことができます。設備は施設によってですが、トイレや洗面所は個室に一つずつ設置され、食堂やリビングは共有であるところが多い傾向にあります。
また、「住宅型」は介護保険の福祉用具貸与も利用可能であるため、自分で追加することもできます。
その他にも、図書室やミニシアター、プールといった娯楽関連設備や、リハビリ設備が整っている施設もあります。

住宅型有料老人ホームの入居条件

住宅型の有料老人ホームは、一般的に概ね60歳以上、65歳以上の高齢者を対象としており、要介護認定なしの「自立」の方から、介護が必要な「要介護」までと、有料老人ホームの中でも受け入れ幅が広いと言えます。
しかし、年齢や要介護度の入居基準は各施設によってさまざまであるため、施設選びの際は、設備やサービスなどを調べる前に、まずは入居時の年齢と今の身体状態が入居条件に適しているのか確認する必要があります。
また、「自立」や「要支援」の方を対象とした施設では、入居後に介護が必要となった場合、あるいは介護度が高くなった場合、退去勧告をされることがあるため、この点に関しても正確な情報を調べておくと良いでしょう。
要介護度が高い方や、日常的に医療ケアが必要な方は、施設によって入居ができない場合もあります。インシュリン注射、痰の吸引、服薬管理などの医療行為が対応可能であるか、必ず確認をするようにしましょう。

住宅型有料老人ホームの費用

「住宅型」は施設ごとの料金の差も大きいため、自分の経済状況に見合った施設を探すことも大切です。
費用は、入居時に必要となる「入居一時金」(または「入居金」)と、毎月支払う「月額利用料」があり、さらに介護保険の自己負担分と、月額利用料に含まれないサービス等を利用した場合の料金が上乗せされた金額を支払うことになります。
「住宅型」は、設備や人員配置等に差があるため、入居金が0円から、高額なところでは数千万円以上に設定されている施設があるなど、ピンキリです。基本的に、設備が充実しているところや、人員配置が手厚いところは、その分費用も高いと考えて良いでしょう。
また、家賃・管理費・食費等に関しては、「月額利用料」に含まれています。

介護保険サービスを利用した際は、通常、費用の1~3割を自己負担で支払うことになります。入居対象者は、「自立」や「要支援」の方に限られている場合を除き、要介護度が高い高齢者も入居することが可能となっていますが、重度の要介護や認知症など、介護サービスを頻繁に利用する方にとっては、介護保険の支給限度額(介護度ごとに給付として月々に利用できる限度額)を超えてしまうリスクが高く、自己負担分が増える可能性があります。
そのため、「住宅型」は、基本料金では「介護付き」より割安ではありますが、自分の身体状況によっては、トータル的に「介護付き」の方が安い場合もあります。つまり、介護が頻繁に必要な方に関しては、介護保険自己負担分が毎月一定である「介護付き有料老人ホーム」を選択したほうが良いでしょう。

高額に設定されていることが多い入居一時金は、介護付き有料老人ホームと同様、施設ごとに「償却期間」と 「償却率」が定められています。入居時に支払った入居一時金は、時間がたつにつれ償却されていく仕組みになっており、万が一、入居後に入居者の方が亡くなった場合は、「返還金制度」により、償却されていない分の入居一時金が返金されるようになっています。
ただし、施設が定めた償却期間が、例えば5年であった場合、5年入居すれば入居一時金は全て償却されるため、帰ってくるお金は0円ということになります。この「償却期間」や「償却率」は、国の基準があるわけではないため、施設ごとに独自で設定しています。施設を検討する際は、支払う金額だけでなく、償却される金額などもしっかり確認しておくようにしましょう。

住宅型有料老人ホームの主な退去理由

住居型有料老人ホームは、介護レベルや認知症レベルが高くなると退去になる施設もあるとお伝えしました。
「平成25年度有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に関する実態調査(公益社団法人 全国有料老人ホーム協会)」によると、平成25年7~9月の3ヶ月間のうちに、「在宅療養支援診療所・病院と協力・連携体制をとっている住宅型ホーム」を(死亡以外の理由で)退去した利用者を対象とした調査では、以下のようになっています。
(※回答数の多い順。「その他」の回答は含まない)

【死亡以外の退去理由】

①医療的ケアニーズの高まり
②要介護状態の進行による身体状況の悪化
③経済的な理由による負担継続困難
④認知症の進行による周辺症状の悪化
⑤心身の状態の回復にともなう自宅復帰
⑥集団生活が困難(他の入居者とのトラブル多発、関わり拒否)
⑦家族・親族との関係再構築、同居開始等
⑧立地、ホームイメージ等の選好の変化

住宅型有料老人ホームでは、「医療的ケアニーズの高まり」や「要介護状態の進行による身体状況の悪化」を理由に退去した方が多い傾向にあるようです。
一般的に、有料老人ホームの契約は「終身契約」ではないため、施設が規定する退去要件(要介護度や認知症の進行、施設では対応できない医療行為の発生、利用料金の滞納など)に該当した場合は、施設退去や他の施設への転所を求められることになります。入居中も怪我をしたり病気になったりするリスクはあり、施設によっては、「3ヶ月以上の入院は退去」と定めているところもあるようです。
有料老人ホームの「償却期間」は、短くて3年程度、長ければ10年以上にしている施設が多いようですが、償却期間が過ぎてから退去を求められると、戻ってくる入居金は0円となります。仮に、施設からの退去が償却期間内であったとしても、償却されていない分の入居金は戻ってくるとはいえ、施設によっては数百万円~数千万円と高額に設定されている入居金もあるため、最初の入居金支払いは、大きな出費となります。
自分の身体状態の変化など、死亡以外の理由で施設を退去しなければならなくなると、住むところがなくなって困るという方も出てくると思います。
施設入居は、決して安くはない出費であり、大きな決断です。有料老人ホームは、将来自分が退去になる可能性もあるということを踏まえたうえで、選ぶようにしましょう。

住宅型有料老人ホームのメリット・デメリット

メリット

  • 介護サービスや看護サービスを受ける際の事業者、ケアプランのカスタマイズ、生活面、価格帯などで選択の自由がある。
  • 介護サービスの利用に合わせて費用を負担するため、介護度が低い方の場合、「介護付き有料老人ホーム」のような定額制の施設より費用を抑えることができる。
  • 施設によって料金は異なるが、「介護付き」と比べ基本利用料が割安。
  • レクリエーションやイベント、設備が充実している。
  • 一般的な施設から高級志向の施設まで、バリエーションが豊富。

デメリット

  • 人員配置基準が法律によって定められていないため、介護付き有料老人ホームと同等の体制をとっている施設もあれば、介護レベルや認知症レベルが高い、あるいは入居中に高くなってしまった場合に、入居できない、退去しなければならない施設もあるなど、ホームによってばらつきがある。
  • 入居者の介護度が高い場合、費用が高額になる場合がある。

「住宅型」は、外部の介護サービスを利用する際に、自分が希望するサービスや介護事業者、もしくは今まで利用していた介護事業者を選択することができる他、ケアプラン作成時に、入浴や外出支援サービスの利用時間 ・回数などのカスタマイズが可能だったり、介護保険の福祉用具レンタルの利用が可能であったりと、自由度が高いのが特徴です。レクリエーションやイベント、サークル活動も充実しているため、身体機能の維持や他の入居者の方とのコミュニケーションの活性化を図りつつ、施設での暮らしに刺激を与え、精神的にも豊かな生活を送ることができます。
また、施設のバリエーションも豊富にあるため、多数あるホームの中から、自分が希望する施設を選択することも可能です。
ただし、入居中に要介護度が上がったなどにより外部の介護サービスだけでは賄えなくなると、追加で利用した介護サービス分だけ別途料金がかかるため、介護サービス費用が割高になります。常に介護が必要となってくると、月額料金が高額になるケースも考えられるでしょう。

「住宅型」は、比較的自立した生活を送ることができる高齢者にとっては、身体状況に合わせたケアができ、費用もある程度安く済むというメリットがあります。要介護度が高く、手厚いケアを必要とするのであれば、介護サービスの利用単位に関係なく、介護保険の自己負担額が毎月決まっている「介護付き」の方が費用面で安心でしょう。

介護型より自由が多い住宅型

「介護付き有料老人ホーム」は、例え、老人ホームの近くであったとしても、さまざまな危険を伴う可能性があるため、一人での外出を認めていない施設がほとんどです。中でも、認知症の高齢者を受け入れている施設に関しては、施設の出入り口を施錠しているところもあり、訪問者が来た際には、チャイムを鳴らしてもらい、開錠するといった対応をとっている施設もあります。
そのため、外出制限がある「介護付き有料老人ホーム」では、施設職員が買い物の代行や、月に数回出張販売を行っているところがあります。
それに比べて、自立した生活を送ることができる高齢者の入居人数が多い「住宅型有料老人ホーム」などは、 「介護付き有料老人ホーム」に比べ、外出を認めているところが多く、散歩ができたり、買い物に行ったりと自由に生活することができます。(※各施設のルールによっては、行先と帰宅時刻等を施設側へ伝える場合もある)
自立、または自立に近い生活が可能な方が、「介護付き有料老人ホーム」のような外出制限のある施設に入居してしまった場合、毎日の生活を窮屈に感じてしまい、結果としてストレスをため込んでしまう可能性もあります。入居される方の自立状態や性格などを把握したうえで、施設選びを行うようにしましょう。

まとめ

今回は「住宅型有料老人ホーム」についてご説明させていただきました。
「住宅型」は、自由度が高く、自分でサービス等を選択できることや、介護サービスを利用した分だけ費用を負担する仕組みになっていることから、特に自立した生活が可能な高齢者の方にとっては、利用しやすい施設になります。
レクリエーションなども充実しているため、イベントを通して、施設の仲間との会話を楽しむこともでき、暮らしを豊かにするきっかけにもなります。
ただ、入居後に介護が必要となってしまうと、高額な費用を支払うことになってしまったり、施設によっては退去になったりする場合もあるため、その点に注意しながら施設を選ぶようにしましょう。

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