認知症の進行速度は、原因となる疾患よって異なっており、また、その過程にも個人差があります。
いずれにしても、認知症は早期発見・早期治療がポイントです。初期の頃はどのような症状が目立つのか、タイプ別に知っておくだけでも、いつもと違う様子に気付きやすくなると思います。
今回は、認知症がどのように進行していくのか、早期発見に重要な初期から、日常生活に障害をきたす後期まで、原因疾患別にご紹介していきたいと思います。

目次

認知症の進行を遅らせる為には早期発見が大事

早期の段階での発見・治療が鍵を握る認知症ですが、実際には、さまざまな理由によって、認知症の発見が遅れてしまうというケースも少なくありません。

認知症の発見が遅れる理由としては、
・認知症になる前、あるいは認知症初期の頃からみられる症状は、単なる老化現象と見分けがつきにくく、特に日常生活に大きな支障をきたしているわけではないため、本人が「おかしいな」と気付いても、そのまま見過ごしてしまうことが多い。
・アルツハイマー型認知症などでは、症状の進行とともに病識が薄れてくるため、家族や周囲の方が気付いた時には、認知症が発症してから数年経過していることがある。
・認知症は、多くの場合、精神障害をともなうため、認知症の疑いがある症状がどれなのかが分かりにくい。などがあります。

〝認知症〟とは、後天的な脳の障害により、認知機能が持続的に低下していくことで、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態のことです。死滅した脳の神経細胞は再生することはないため、症状は不可逆的に進行していきます。認知症の原因となる疾患によっては、手術により症状の改善が見込めるものもありますが、発見が遅くなり、認知症の症状が進行してしまってからだと、手術をしても回復しにくいことがあります。
また、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など、根本的な治療法がまだ確立されていない認知症でも、より早い段階での対処(治療)が必要となってきます。

 ■早期発見のメリット

‣治療をすれば治る可能性の高い認知症に対して、早めの対処ができる。
‣認知症の進行を遅らせる治療を、早い段階から行うことができる。
‣治療ケアの選択肢が多い。
‣本人の意思で生活習慣の改善や治療を図ることができる。
‣今後の過ごし方について、家族や周囲の方と考えられる。

同年代と比べると明らかに強い記憶障害がみられ、複雑な作業をこなすのが難しくなるものの、通常の日常生活に支障をきたすほどではない、いわゆる〝認知症の一歩手前〟の状態を、「軽度認知障害(MCI)」といいます。この段階で対処することができれば、認知症の発症を遅らせる、あるいは、認知症を発症せずに済むこともあります。

アルツハイマー型認知症の進行のしかた

認知症全体の多くを占める「アルツハイマー型認知症」は、個人差はあるものの、進行は比較的緩やかで、発症後、5~20年かけて症状が進行していきます。

アルツハイマー型認知症は、記憶に関わる「海馬」を中心に、脳全体が少しずつ委縮していきますので、記憶障害が初期の頃からみられるようになります。
境界状態ともいわれる「軽度認知障害(MCI)」の段階では、「物忘れ」がゆっくり進行していきます。本人に「物忘れ」の自覚があることから、うつ状態になりやすい傾向にあります。
認知症になる前は、本人が住み慣れた環境であれば、いつも通りの生活を送ることが可能です。
しかし、この時期を見過ごしてしまう、あるいは気付かずに放置してしまうと、1~数年後には、認知症を発症する可能性が高くなります。

初期の段階では、「記憶障害」だけではなく、「時間・場所・人物」を認識する能力が低下する「見当識障害」も現れるようになります。見当識障害は順番に進んでいくのが特徴で、最初は、「今が何時なのか」「昼なのか夜なのか」といった「時間」の感覚をつかむことが難しくなり、しだいに、「場所」や「人物」の見当識が失われていくようになります。
社会的な活動は制限されてしまいますが、会話は問題なく続けることができます。

アルツハイマー型認知症は、中期になると「物盗られ妄想」や「徘徊」といった、認知症の典型的な問題症状が活発化してきます。また、「季節やTPOに配慮した服が選べなくなる」、「今まで使用できていた家電製品の使い方が分からなくなる」、「買い物を一人ですることができなくなる」、「言葉が出にくい(言語障害)」、「排尿・排便の失敗が増える」といった障害も起こるようになり、日常生活の動作を行う際は、サポートが必要となる場面が増えます。
この時期は、介護者の身体的負担や精神的負担が最も大きくなる時期であり、約2~3年は続きます。
後期になると、認知症の症状がさらに進み、認知機能の低下だけではなく、身体機能の衰えも目立つようになります。日常生活動作(着替えや入浴、排泄など)は常に介助が必要です。
末期(最重度期)では、会話が通じなくなってしまい、立位や座位も保てなくなるため、最終的には寝たきりの状態になります。食べ物を認識できなくなり、嚥下障害も起こるため、栄養不良や誤嚥性肺炎が死亡原因となる場合もあります。

レビー小体型認知症の進行のしかた

「レビー小体型認知症」は、「レビー小体」という特殊なタンパク質が脳細胞に沈着し、脳の機能が障害されることによって生じる認知症です。70歳以上の高齢者に多くみられますが、40歳前後で発症する場合もあります。進行速度に個人差はあるものの、全経過はだいたい3~8年と比較的早めです。
レビー小体型認知症では、「認知機能の変動」・「幻視(現実には存在しない人や物が生々しく見える)」・「パーキンソン症状」の3つの特徴的な症状が現れます。これらは「3徴」と呼ばれており、どの症状が目立つかは人によって異なります。

まず、認知症になる前の段階で、すでに、「手足が震える」・「身体の動きが鈍くなる」といったパーキンソン症状が現れている場合、レビー小体型認知症を併発する可能性が高い傾向にあります。
レビー小体型認知症の初期では、「便秘」や「嗅覚異常」、「うつ症状」、「レム睡眠行動障害」が先に現れることが多く、その後、「物忘れ」や「起立性低血圧」、「段取りの悪さ」などが目立つようになります。3徴が現れるのもこの時期です。
無気力な状態に陥ったり、寝ている間に大きな声を出したりするなど、さまざまな症状がみられるようになりますが、認知機能の低下は特に目立つことがなく、見当識や理解力などは比較的保たれているため、周囲とのやり取りは特に問題なく行うことができます。(ただし、幻視や錯覚の症状が現れているため、存在していないはずのものがみえるといった訴えや見間違えは増えてきます。)

中期になると、初期の段階では比較的保たれていた見当識や理解力が低下してきます。認知機能が悪い時間帯も長くなり、意識がはっきりしている時とぼんやりしている時の差も激しくなります。パーキンソン症状はさらに強くなり、転倒のリスクが高くなる他、めまい・発汗・失禁・便秘などの症状も目立つようになってきます。(レビー小体は自律神経系にも蓄積されるため)中期以降は症状が一気に進行し、後期になると、日常生活において常に介護が必要な状態になります。認知変動は進行とともに目立たなくなり、常に悪い状態が続きます。パーキンソン症状が進み、転倒や骨折を繰り返すことで、末期(最重度期)には寝たきりの状態になります。

脳血管性認知症の進行のしかた

脳血管障害が原因で引き起こされる認知症を、「脳血管性認知症」といいます。脳血管性認知症は、「脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)」の発作により、脳血管が詰まったり破れたりすることで脳の神経細胞が死滅し、認知症の症状が現れるようになります。
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症とは異なり、発症原因が明確であるため、対策を立てることができる認知症です。
また、脳卒中の発作が突然起こった場合には、認知機能は急激に低下しますが、自覚症状がほとんどないほど小さな脳梗塞(無症候性脳梗塞)を繰り返すタイプでは、発症時期がはっきりせず、明確な脳卒中の発作の症状が出ないまま、アルツハイマー型認知症のようにゆるやかな進行をたどっていきます。

脳血管性認知症の発症前は、脳卒中の前触れがあることがあります。
例えば、
‣脳梗塞の前触れ:ろれつが回らなくなる、視界が二重に見える、手足に力が入らない
‣くも膜下出血の前触れ:立ちくらみ(発作の1~3週間前)、頭痛、強いめまい
など

脳血管性認知症の初期では、「物忘れ」の症状よりも、うつ症状やアパシー(意欲低下)が目立つことがあります。脳血管性認知症の方は、病識がある場合が多いため、記憶障害や見当識障害、歩行障害、言語障害などからくる不安な気持ちやもどかしさから、抑うつ状態になりやすい傾向にあります。歩行障害や言語障害は、社会と接する機会が減ってしまうため、さらに意欲が低下する原因になります。
脳卒中後のリハビリの効果が実感できれば、本人も前向きな気持ちになり、認知症の症状に改善がみられる場合があります。

中期では、感情が不安定になったり変わりやすくなったりする「感情障害」や、欲求をコントロールすることができない「抑制障害」が起こることがあります。
また、脳卒中の発作から1年を経過している場合は、リハビリの効果が表れにくくなります。

再発しなければ安定した状態を保つことができますが、脳卒中を繰り返し症状が進行してしまうと、後期では言語障害や嚥下障害を併発するようになり、記憶障害が進みます。

前頭側頭型認知症の進行のしかた

脳の前頭葉や後頭葉が少しずつ委縮していくことにより引き起こされる認知症です。人格にかかわる前頭葉が障害されるため、「物忘れ」などの記憶障害よりも、性格変化や行動異常といった症状が目立つようになります。本人に病識がなく、アルツハイマー型認知症と同様、症状も緩やかに進行していくため、発見も遅れがちな傾向にあります。気付いた時には重度になっているというケースもあるようです。
また、若年(主に初老期)で発症する方が多く、70歳以上で発症する例はまれであるとされています。

前頭側頭型認知症の初期の頃は、基本的な日常生活動作(食事、入浴、排泄、移動、更衣など)に関しては大きな変化はみられませんが、金銭の管理や電子メールでのやり取りといった、複雑な日常生活動作が困難となります。
さらに、他人への親近感や愛情の低下もみられるようになります。
前頭側頭型認知症が進行し、症状が中等度になると、「日にちの見当識障害が現れる」、「落ち着きのない行動をとるようになる」、「特定の食品ばかりを食べ続けるようになる」、「嗜好の変化がみられ、甘いものや味付けの濃いものを好むようになる」、「慣れていない場所で困惑しやすくなる」、「協調性が乏しくなる」といった、さまざまな行動障害が現れるようになります。見当識障害の影響により、季節に合わせた服を選択することも困難となります。さらに、初期の頃では計画的に行えなかった金銭管理も、中期になると、金銭管理に関心すらもたなくなります。以前まではできていた買い物や家事もできなくなり、服薬や余暇活動等を行うためには、周囲からの声掛けが必要となります。
重症になると、現金での支払いは困難となり、いつも飲んでいる薬の量も分からなくなってきます。礼儀やマナーの欠如により、食事のマナーなども悪くなります。
さらに症状が進行し、高度重症になると、尿失禁がみられるようになります。今まで使用できていた箸やスプーン、フォークなどもうまく使うことができなくなるため、手づかみや犬食いなどが目立つようになり、最終的には自分で食事をすることが困難となります。

まとめ

今回は、「認知症の進行のしかた」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

目立つ症状、及び進行の過程・速さなどは、認知症のタイプや個人によってもそれぞれ異なります。
ただ、〝早期発見・治療が重要〟というのは、進行の速度に関係なく、どのタイプの認知症にも当てはまることです。
そのままにしておけば、気付いた時にはすでに重症化しているというケースも少なくありません。
初期症状は見逃しやすい傾向にあるため、普段から本人を観察することが大切です。これを機に認知症の進行過程を一度確認し、様子が少しでもおかしいと感じたら、迷わず、すぐに専門の医療機関を受診するようにしましょう。

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