「地域密着型特定施設入居者生活介護」は、小規模な有料老人ホームなどの特定施設に入居し、食事や入浴等の介護や機能訓練などを受けられるサービスです。利用者の住み慣れた地域で、各市町村によって指定を受けた事業者が、29人以下という小規模で家庭的な環境を活かして、一人一人に合わせたサービスの提供を行っています。
今回は、「地域密着型特定施設入居者生活介護」の対象者や費用などについてご説明します。

目次

地域密着型特定施設入居者生活介護とは

「地域密着型特定施設入居者生活介護」とは、利用定員29人以下の小規模な特定施設に入居している高齢者に対して、「地域密着型特定施設サービス計画」に基づき、食事・入浴・排泄等の介助や、その他必要な日常生活上の支援、生活等に関する相談・助言、機能訓練及び療養上の世話を行うサービスです。

「特定施設」とは、介護保険法により定められた基準を満たし、都道府県などにより事業指定を受けた介護施設をいいます。以下が具体的な施設が対象となっています。

・ケアハウス(軽費老人ホーム)
・有料老人ホーム
・養護老人ホーム
・一定の要件を満たす、サービス付き高齢者向け住宅
・送迎 など

「特定施設」の中でも、「地域密着型特定施設」は、入居者が「要介護」の認定を受けた方に限られた、利用定
員29人以下の特別施設を指しています。

「地域密着型特定施設サービス計画」は、担当のケアマネジャー(介護支援専門員)が作成します。利用者が抱えている健康上・生活上の問題点や、解決しなければならない課題、サービスの内容、サービスの目標・達成時期、サービスを提供するうえでの留意事項などが記載されています。

「地域密着型特定施設入居者生活介護」のサービス内容は、基本的に、通常の「特定施設入居者生活介護」と
同じです。ただし、小規模である分、スタッフとの距離が近く、顔なじみになりやすいことや、家庭的な環境下で、個人に合わせたサービスを受けられるというメリットがあります。

■地域密着型特定施設入居者生活介護のサービス内容

・食事、入浴、排泄の介護、その他日常生活上の世話
・機能訓練(リハビリテーション)
・療養上の世話 など

また、「地域密着型特定施設入居者生活介護」は、「地域密着型サービス」の一つです。
「地域密着型サービス」は、高齢者が、介護や支援が必要となっても、安心して住み慣れた地域での生活を続けられるようサポートすることを目的としたサービス群のことです。事業所の指定・監督は市町村が行い、地域ごとの特性や実情に応じて適切な介護サービスが提供される仕組みになっています。通常の「特定施設」では、 施設に入所するために引っ越した場合でも、移転前の住所地である市町村が保険者となる「住所地特例」が適用されますが、「地域密着型特定施設」では、「住所地特例」は適用されないことになっています。

地域密着型特定施設入居者生活介護の人員体制

地域密着型特定施設入居者生活介護の人員体制は、以下の通りです。

地域密着型特定施設入居者生活介護の人員体制
管理者 1人以上(支障がなければ兼務可)
生活相談員 1人以上(常勤)
看護職員または介護職員
※看護職員は、看護師または
准看護師
要介護者3人につき1人以上(常勤換算)
介護職員は常時1人以上配置(1人以上常勤)
看護職員は常勤換算1人以上(1人以上常勤)
機能訓練指導員 1人以上(兼務可)
計画作成担当員 介護支援専門員1人以上
支障がなければ兼務可

地域密着型特定施設入居者生活介護の対象者

「地域密着型特定施設入居者生活介護」の対象者は、原則、要介護認定により、要介護1~要介護5と認定された、保険者である市町村に住所がある方に限られます。そのため、要支援1、要支援2と認定された方や、市町村に住民票がない方は対象外となります。

地域密着型特定施設入居者生活介護の費用

「地域密着型特定施設入居者生活介護」を利用する際の1日あたりの基本料金は、以下の表の通りになります。
費用は原則1割負担ですが、利用者の所得に応じて、利用者負担割合が2~3割となる場合もあります。

地域密着型特定施設入居者生活介護の利用料
要介護1 535円
要介護2 601円
要介護3 670円
要介護4 734円
要介護5 802円

※1割負担の場合
≪参考≫介護給付費単位数等サービスコード表(令和元年10月施行版)より

また、「地域密着型特定施設入居者生活介護」には、空いている居室を利用し介護サービスを提供する、短期利
用(30日以内)の類型もあります。

短期利用地域密着型特定施設入居者生活介護の利用料
要介護1 535円
要介護2 601円
要介護3 670円
要介護4 734円
要介護5 802円

※1割負担の場合
≪参考≫介護給付費単位数等サービスコード表(令和元年10月施行版)より

食費やおやつ代、おむつ代などの日常生活費、施設への入居費用は、別途かかります。
さらに、利用者が居住する施設が所在する市町村や、サービス内容等によっても利用料は変わってきますので、どのくらい費用がかかるのか詳しく知りたい方は、市町村の問い合わせ窓口や地域包括支援センター、担当のケアマネジャーに相談するようにしましょう。

人生の最終段階の医療・ケアについて

日本では、2007年に、65歳以上の人口の割合が14%を超える「超高齢化社会」へと突入しました。今後も、高齢者の割合は高くなることが予測されていますが、それには、医療技術の発展や、経済成長による生活の変化などに伴い、平均寿命が延びてきていることが要因の一つとして考えられています。
しかし、誰もが健康のまま長生きできるというわけではありません。人工呼吸器や点滴、胃ろうなどの延命治療によって、痛みにさいなまれながら、生き続ける方も多くいます。
また、病気や障害が重くなり、回復する見込みがないと医師に判断され、延命治療を望むか望まないか、どういった治療を受けるかなどを自分で意思表示しなければならないこともあります。
では、もし、容体が急変したなどで本人の意思確認ができない場合や、意思表示の代わりとなる家族がいない場合は、どのようになるのでしょうか。

厚生労働省では、2018年3月に、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を発表しました。これは、2007年に策定されたガイドラインの改訂版となります。
「人生の最終段階における医療の問題」については、従来から、医療の現場で重要な課題となっていました。 2007年に策定された旧ガイドラインがつくられるきっかけとなったのは、医師の判断により、回復の見込みがない患者の人工呼吸器を外したことが原因で患者が亡くなったという治療中止事件が背景にあります。
これまでのガイドラインでは、終末期の医療を行うにあたり、

・医師等の医療従事者から適切な情報提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による意思決定を基本としたうえで、終末期医療を進めること
・終末期医療における医療行為の開始・不開始・中止、医療内容の変更等は、医師の独断ではなく、他専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって慎重に判断すること
・可能な限り、疼痛やその他不快な症状を緩和し、患者と患者の家族の精神的・社会的援助も含めた総合的な医
療ケアを行うこと

この3点が強調されており、病院での活用が想定されている内容となっていました。

しかし、改訂版では、今後、介護施設や自宅など、病院以外での要介護の看取りが増えることを想定し、上記の3点に加え、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の考え方が取り入れられました。さらに、「終末期医療」の部分は、「人生の最終段階における医療」に名称が変更されています。

ACPとは、人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が、家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセスのことです。「本人の意思は変更しても良い」という前提で、医療従事者から、適切な情報提供や説明を受けながら、医療・ケアスタッフらと話し合って意思をまとめたり、見直したりしていきます。

 ■本人の意思が確認できる場合

1.方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。そのうえで、本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ケアチームとして方針の決定を行う。

2.時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような支援が行われることが必要である。この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である。

3.このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

≪出典≫厚生労働省 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

 ■本人の意思が確認できない場合

1.家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

2.家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。

3.家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

3.このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

≪出典≫厚生労働省 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

ガイドラインでは、「人生の最終段階における医療・ケアの方針決定」について、本人の意思は変わっても良いことを前提に、日頃から何度も話し合いを重ねていき、「人生の最終段階における医療・ケアの方針決定」がどのように決められたのか、プロセスを、その都度文書にまとめておくことなどが重要とされています。
「人生の最終段階における医療・ケア」については、心身の状態や年齢に関わらず本人の意思を家族等や医療・ケアチームで共有しておくことが大切です。
また、本人が、延命治療は希望しないことを家族に伝えてあったとしても、いざ容体が悪くなった時、「できることはなんでもしてあげたい」という心理に家族が陥ってしまい、本人の意に反して延命治療を強く希望してしまうケースもあります。
このような事態に対応するためにも、話し合った内容を書面に残しておくことは、非常に重要であると言えます。

まとめ

今回は、「地域密着型特定施設入居者生活介護」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

「地域密着型特定施設入居者生活介護」は、「地域密着型サービス」の一つであり、その市町村に住所がある要介護1以上の方が利用できるサービスです。
住み慣れた地域で、アットホームな生活を希望している方は、「地域密着型特定施設」への入居を検討してみても良いかもしれません。

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