介護は必要だけれど、「本人が、住み慣れた自宅での生活を希望している」、「利用できる介護保険サービスが少ない」など、さまざまな理由で、介護保険サービスを利用せずに、自宅で家族介護をしている場合もあるのではないでしょうか。
市町村によっては、このような、自宅で介護を行っている家族に対して、「家族介護慰労金」を支給しているところがあります。
もちろん、支給条件が細かく設定されているため、自宅で介護をしていれば誰もがもらえるというわけではありません。
今回は、「家族介護慰労金」の支給条件や、申請方法などについてご紹介させていただきます。

目次

家族介護慰労金とは

市町村が実施している「地域支援事業」

介護保険において、地域に住む高齢者が、要支援・要介護状態になるのを予防するとともに、介護が必要な状態になっても、住み慣れた地域で、できる限り自立した日常生活を継続できるよう支援するための事業として、市町村が実施している「地域支援事業」というものがあります。
「地域支援事業」は、以下の3つの事業から成り立っています。

①介護予防・日常生活支援総合事業
 主に要支援者を対象に、介護予防や重度化予防の推進を図る
②包括的支援事業
 地域の保険・医療・福祉などが連携することで、地域において包括的・継続的なケアマネジメントを行う
③任意事業
 各市町村の判断により実施される

「地域支援事業」の一つである「任意事業」

「地域支援事業」の一つである「任意事業」は、介護保険事業の運営の安定化を図り、その地域の実情に応じて、市町村が必要と判断し実施される事業です。そのため、自治体によって、実施される事業の内容や実施方法等が異なります。
ちなみに、地域支援事業に含まれている「包括的支援事業」と「任意事業」の財源は、国・都道府県・市町村の「公費」と第1号保険者(65歳以上)の「保険料」で賄われています。

「任意事業」の内容とは

市町村が地域の実情に応じて任意で実施する「任意事業」には、「介護給付費等適正化事業」・「家族介護支援
事業」などがあります。
※各市町村により、実施している事業は異なります。

■介護給付費等適正化事業
利用者に適切なサービスを提供できる環境の整備を図るとともに、介護給付等に要する費用の適正化のための事業を実施。

①認定調査状況チェック
②ケアプランの点検
③住宅改修等の点検
④医療情報との突合・縦覧点検
⑤介護給付費通知
⑥給付実績を活用した分析・検証事業
⑦介護サービス事業者等への適正化支援事業

■家族介護支援事業
介護方法の指導その他の要介護被保険者を現に介護する者の支援のため必要な事業を実施。

①介護教室の開催
要介護被保険者の状態の維持・改善を目的とした教室の開催
②認知症高齢者見守り事業
地域における認知症高齢者の見守り体制の構築
③家族介護継続支援事業
家族の身体的・精神的・経済的負担の軽減
 ア 健康相談・疾病予防事業
 イ 介護者交流会の開催
 ウ 介護自立支援事業
  ・家族を慰労するための事業(慰労金)
  ・介護用品の支給(H26年度に実施している保険者のみ)

■その他の事業
介護保険事業の運営の安定化及び被保険者の地域における自立した日常生活の支援のため必要な事業を実施。

①成年後見制度利用支援事業
②福祉用具・住宅改修支援事業
③認知症対応型共同生活介護事業所の家賃等助成事業
④認知症サポーター等養成事業
⑤重度のALS患者の入院におけるコミュニケーション支援事業
⑥地域自立生活支援事業
 ア 高齢者の安心な住まいの確保に資する事業
 イ 介護サービスの質の向上に資する事業
 ウ 地域資源を活用したネットワーク形成に資する事業(配食・見守り等)
 エ 家庭内の事故等への対応の体制整備に資する事業

≪出典≫厚生労働省 社会保障審議会 介護保険部会(第58回)「地域支援事業の推進(参考資料)」より

自宅で介護している家族に支給される「家族介護慰労金」

要介護者が、家族以外の介護を拒む場合や、地域に利用できる介護保険サービスが十分にない場合、家族が自宅
介護を選択するケースも少なくありません。
「家族介護支援事業」に含まれる「家族介護継続支援事業」には、介護をする家族を慰労するための事業として、介護者に慰労金を支給する「家族介護慰労金制度」があります。
これは、要介護度の高い高齢者等を、一定期間以上自宅で介護している家族の日頃の労をねぎらうことを目的とした制度で、介護者は、年額10万円程度を受給することができます。
ただし、「家族介護慰労金制度」は、「任意事業」に含まれているとおり、市町村によっては給付を実施していないところもあります。利用を考えている方は、まず、自分が住んでいる市町村に制度が存在しているかどうかを確認する必要があります。

家族介護慰労金の支給条件

「家族介護慰労金」は、自宅で介護をしている方全員に支給されるものではありません。給付を受けるためには、各市町村が設定している支給の条件を全て満たす必要があります。
細かい条件は市町村によって異なりますが、基本的な項目は以下の通りです。

・重度の要介護者(要介護度4または5の期間が1年以上ある方)を介護している同居家族
・過去1年間、介護保険サービス(年間1週間程度のショートステイの利用を除く)未利用
・市町村民税非課税世帯(要介護者と介護者の属する世帯が市民税を課税していない)
・通算90日以上の入院をしていない

家族介護慰労金の市町村例

北海道 音更町(2020年10月22日時点)

・要介護度4または5と認定された方を在宅で介護している同居家族
・過去1年間介護保険サービスを利用していない(年7日以内のショートステイを除く)
・過去1年間90日以上の入院をしていない
≪支給額≫年間100,000円

秋田県 北秋田市(2020年10月22日時点)

・要介護4または5の認定を受けている在宅の方、または同等の状態と認められる方、高度の認知症である要介護3の方を、月の15日以上在宅で介護している家族
※介護サービス(訪問入浴・訪問リハビリ・療養管理指導・訪問看護・福祉用具貸与・福祉用具購入・住宅改修のサービスを除く)、障がい者の自立支援給付を受けていない月が支給対象
≪支給額≫1ヶ月あたり3,000円

長野県 安曇野市(2020年10月22日時点)

(1)次の条件すべてにあてはまる方を、基準日前の1年間、180日以上自宅で介護されていた方
(基準日は、毎年9月1日)
・基準日現在、市内に住所を有する
・65歳以上である
・基準日前の1年間、継続して要介護3以上である
≪支給額≫年間50,000円

(2)次の条件すべてにあてはまる方を、基準日前の1年間、介護保険サービス等の利用をせず自宅で介護されていた方
・基準日現在、市内に住所を有している
・65歳以上である
・基準日前の1年間、継続して要介護4以上である
・市民税非課税世帯に属している
≪支給額≫年間100,000円

兵庫県 神戸市(2020年10月22日時点)

次の要件を全て満たしている65歳以上の高齢者を家庭で介護している方
・介護保険の要介護認定が要介護4以上、または要介護3の認定でも、認知症の症状が顕著な方
・過去1年間、介護保険サービスを利用せず、自宅で家族介護を続けてきた方
・老齢福祉年金の所得制限以下(介護する家族等の方にも所得制限がある場合があります)
≪支給額≫年額120,000円

山口県 山口市(2020年10月22日時点)

以下の要件をすべて満たしている方
・要介護者、介護者共に市内に住所をおき、同居または同一敷地内、もしくは隣地に居住して1年以上介護を
行っている家族
・対象となる1年間に、市内で、要介護者が要介護3以上と認定されている
・対象となる1年間に、介護保険サービスの利用日数の合計が10日以内
(福祉用具貸与、福祉用具購入、住宅改修を除く)
・医療機関への入院日数が90日以内
・申請日の属する年度において、要介護者、介護者ともに、それぞれの世帯全員が市・県民税非課税であり、介護保険料の滞納がない
・過去に慰労金の支給対象者となった要介護者の申請を行う場合は、申請時に対象となる期間の初日が、前回の
対象期間の末日の翌日以降である
≪支給額≫年額100,000円

鹿児島県 南九州市(2020年10月22日時点)

市内に住所をおき、要介護4または5に認定された市町村民税非課税世帯に属する在宅高齢者のうち、過去1年間介護保険のサービス(年間1週間程度のショートステイの利用を除く)を利用していない方を介護している家族。
≪支給額≫年額120,000円

市町村によって、条件が細かく設定されているところもあれば、緩和されているところもあります。詳細については、お住いの市町村へ問い合わせください。

家族介護慰労金の申請から支給までの流れ(世田谷区の場合)

申請する際に提出する書類は、役所に問い合わせて入手するか、役所のホームページからダウンロードして入手するかが主な方法になります。
「家族介護慰労金」の申請方法は、市町村によって異なるため、詳しくは、住んでいる市町村の専用窓口にて確認をしましょう。
今回は、世田谷区を例に、申請から支給までの流れをご説明します。

【世田谷区の支給条件】(2020年10月22日時点)
・要介護2(認知症高齢者の日常生活自立度2以上に限る)または要介護3以上の認定を受けた方を同居して介
護しているご家族。〔親族等(同性パートナー等を含む)〕
・1年間介護保険サービス(年間10日以内のショートステイ、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、住宅改修を除く)を利用せず、年間90日以上の入院をしていない。
・被介護者と申請者とも世田谷区内に住所があり、いずれの世帯も住民税が非課税である。
介護をすることで報酬・謝礼を受け取っていない。
≪支給額≫年額100,000円
※介護保険サービス(年間7日以内のショートステイを除く)の未利用期間が平成31年3月31日以前にかかる場合は、支給要件・支給対象期間が異なるため、申請前に問い合わせが必要。

上記の支給条件に当てはまることを確認したうえで、申請を行います。

■用意する書類
①家族介護慰労金支給申請書(申請する方の印鑑が必要)
②口座振替依頼書
③医療保険被保険者証(介護を受けている方の健康保険証)
④介護保険被保険者証(介護を受けている方のもの)
※その他必要な書類がある場合には、後日介護保険課より連絡

■申請から支給までの流れ
各総合支所保健福祉課地域支援、または介護保険課保険給付係へ「家族介護慰労金支給申請書」を提出します(郵送も可)。

申請後、担当の職員が、介護の実態を調査するため、自宅へ訪問。

介護保険と医療保険の利用状況の確認が終わり次第、自宅に「家族介護慰労金支給決定通知書」が送付され、申請時に指定した口座に慰労金が振り込まれる。
尚、介護保険と医療保険の利用状況確認のため、慰労金の申請から支給までには、3~5ヶ月程度かかる場合もある。

まとめ

今回は、「家族介護慰労金」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
「家族介護慰労金」は、自宅で介護をしている家族に対して支給される給付金です。
各市町村が、地域の実情に応じて必要と判断した場合に限り実施される「任意事業」に含まれているため、家族介護慰労金制度がないところもあります。
条件や申請方法等も異なるため、まずは、お住いの市町村の担当窓口やホームページで制度について調べてみましょう。

facebook
twitter
line