「介護の社会化」を目的として創設された介護保険制度は、介護や老後の悩みを持つ利用者の大事な受け皿となり、私たちの生活に定着してきました。
しかし、介護保険制度の社会的理解が深まる一方、長寿社会となった日本は今、認知症高齢者の急増や高齢者の孤独死、介護離職、老老介護など、様々な課題を抱えています。制度の持続性を高めるためには、とりまく状況に応じて介護保険制度も発展し続けなければなりません。
そこで今回は、定期的に改正が行われている「介護保険制度」の仕組みや支払いなどについてご紹介したいと思います。

目次

介護保険制度とは

「介護保険制度」は、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして、2000年(平成12年)4月から始まりました。
介護保険における保険者とは、「市町村(全国の市町村と東京23区(以下市町村))」です。被保険者から徴収した保険料や、公費(税金)などを財源に事業を運営し、介護が必要となった被保険者に対して、介護サービス(保険給付)を提供します。
保険者が、国でも都道府県でもなく、市町村である理由には、介護サービスが地域性という特性を持っていることや、保険料の設定・管理・徴収は、各地域に合ったサービス水準を反映させる必要があることなどが挙げられます。
介護保険は、原則、40歳以上の全国民が加入しなければなりません。そのため、本人の意思とは関係なく、40 歳になると「満40歳に達した日(40歳になる誕生日の前日)」が属する月から「被保険者」となり、支払いの義務が発生します。
※(例)6月1日生まれの方は、5月から保険料が徴収される。

被保険者は、「第1号被保険者」と「第2号被保険者」の2種類に分けられます。
「第1号被保険者」・・・市町村内に住所がある65歳以上の方が対象
「第2号被保険者」・・・市町村内に住所がある40歳~65歳未満の医療保険の加入者が対象

「第1号被保険者」は、介護保険の第2号被保険者の資格喪失日(65歳の誕生日の前日)が属する月から、同じ市町村に住所がある場合、手続きなしで自動的に第1号被保険者に切り替わります。

介護保険制度は、介護保険を支払っている方のみが利用できます。被保険者は、「要介護認定」を受けると、その介護度に応じた介護サービスを利用することができます。
ただし、「第2号被保険者」の場合、要介護状態(要支援状態)になった原因が老化に起因する疾病(特定疾病)である場合に限り、介護サービスを受けることができます。

 ■第2号被保険者の特定疾病に該当する疾病(全16種類):厚生労働省より

がん(がん末期)
関節リウマチ
筋萎縮性側索硬化症
後縦靱帯骨化症
骨折を伴う骨粗鬆症
初老期における認知症(アルツハイマー病、脳血管性認知症等)
進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病(パーキンソン病関連疾患)
脊髄小脳変性症
脊柱管狭窄症
早老症(ウェルナー症候群等)
多系統萎縮症
糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
脳血管疾患(脳出血、脳梗塞等)
閉塞性動脈硬化症
慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎等)
両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

介護保険制度の財源

介護保険の給付金(介護費用総額から利用者の自己負担分を除いたサービス費用)は、税金を財源とする「公費」と、被保険者から徴収された「保険料」がそれぞれ50%ずつで構成されています。

▶「公費」内訳
「国」が25%、「都道府県」・「市町村」が12.5%ずつ
※施設等給付についてはこれと異なる
▶「保険料」内訳
平成30年度時点では、第1号被保険者23%、第2号被保険者27%
※第1号被保険者と第2号被保険者の人口比率に応じて3年ごとに見直されている

しかし、第1号被保険者の保険料は、市町村が独自に決められるため、「国」が25%、「都道府県」・「市町村」が12.5%ずつのままでは、市町村間の財政力によって下記のような差が生じることになります。
「後期高齢者の比率が高いことによる給付費の増加」
「被保険者の所得水準が相対的に低いことによる収入の減少」
この介護保険財政を調整するため、国は全国ベースで給付費の25%のうち、5%を各市町村の財政調整分として交付しています。この5%の調整分は「調整交付金」といいます。

介護保険料の支払いについて

第1号被保険者の介護保険料率は、政令に定める基準に従い、3年に1度見直しが行われ、各市町村が条例で定められています。保険料率が設定されることで、基準となる保険料(基準額)が決まるため、その基準額に基づき、所得段階別に被保険者の保険料が算出されます。65歳以上の方の保険料は、所得に応じ9段階(国が示す標準) に分かれますが、9段階より細分化し、低所得者の負担を軽減している市町村も多くみられます。

以下は、М市の保険料の額の詳細になります。
M市では、所得段階が11段階に設定されています。

保険料の額 平成31年度(令和元年度)
所得段階 対象者 保険料率
第1段階 ・生活保護を受けている方
・世帯全員が市民税非課税で、本人が老齢福祉年金を受給
している方
・世帯全員が市民税非課税者で、本人の合計所得金額と
年金収入額の合計額が80万円以下の方
(基準額×0.325)
第2段階 世帯全員が市民税非課税者で、本人の合計所得金額と年金
収入額の合計額が80万円を超え120万円以下の方
(基準額×0.5)
第3段階 世帯全員が市民税非課税者で第1・第2段階以外の方 (基準額×0.725)
第4段階 本人は市民税非課税者であるが、世帯の中に市民税課税者が
いる方のうち、本人の合計所得金額と年金収入額の合計が
80万円以下の方
(基準額×0.875)
第5段階 本人は市民税非課税者であるが、世帯の中に市民税課税者が
いる方のうち、第4段階以外の方
(基準額)
第6段階 本人が市民税課税者で、合計所得金額が120万円未満の方 (基準額×1.125)
第7段階 本人が市民税課税者で、合計所得金額が120万円以上200
万円未満の方
(基準額×1.25)
第8段階 本人が市民税課税者で、合計所得金額が200万円以上300
万円未満の方
(基準額×1.4)
第9段階 本人が市民税課税者で、合計所得金額が300万円以上400
万円未満の方
(基準額×1.5)
第10段階 本人が市民税課税者で、合計所得金額が400万円以上700
万円未満の方
(基準額×1.75)
第11段階 本人が市民税課税者で、合計所得金額が700万円以上の方 (基準額×2.0)

介護保険料の徴収方法は、「特別徴収」と「普通徴収」の2通りがあります。
第1号被保険者は、原則、年金から天引きされる「特別徴収」の方式がとられており、「老齢・退職(基礎)年金、遺族年金及び障害年金」の受給額が年額18万円を超える方が、この「特別徴収」の対象となっています。

年金の受給額が年額18万円未満の年金受給者は、市町村から送られてくる納付書により、市役所や金融機関の窓口、コンビニエンスストアなどで個別に納付することになります。これを「普通徴収」といいます。
年額18万円以上で「特別徴収」対象の方でも、年度途中に他市町村から転入してきた場合などは、最初は「普通徴収」の方式がとられています。
年度途中で65歳に到達し、第1号被保険者として初めて保険料を納める場合も「普通徴収」となります。

「第2号被保険者」は、40歳になった月から介護保険料の徴収が開始します。
この「第2号被保険者」のうち、健康保険に加入している方の介護保険料は、原則、事業主と被保険者で1/2ずつ負担、健康保険の保険料とともに徴収されます。その他、国民健康保険に加入している方の場合は、国民健康保険の保険料とともに徴収されます。

介護保険サービスの利用に必要な手続きと自己負担額

実際に介護保険サービスを利用するまでの流れは、以下の通りになります。

①要介護認定の申請
介護保険サービスは、原則、要介護認定を受けなければサービスを利用することができません。そのため、サービスの利用を希望する被保険者は、まず、市町村に要介護認定の申請を行う必要があります。

②訪問調査・認定
要介護認定の申請を受理した市町村は、本人の自宅や施設に訪問調査員を派遣し、身体機能や認知機能等を確認するための聞き取り調査を行います。(認定調査)その後、30日以内に判定結果を本人(被保険者)に郵送で通知します。
要介護度は、介護度が低い順から、「要支援1~2」、「要介護1~5」の7段階に区分されています。

③ケアプランの作成
認定後、ケアプラン(居宅サービス計画(ケアプラン)または介護予防サービス計画(介護予防ケアプラン))を作成します。
「要介護1」以上の方が在宅で介護を受ける場合は、居宅介護支援事業者(ケアプラン作成事業者)のケアマネジャー(介護支援専門員)にケアプランの作成を依頼します。施設で介護を受ける場合は、入所する施設のケアマネジャーが介護サービス計画書を作成します。
「要支援1・2」の方は、地域包括支援センターに相談し、介護予防サービス計画書を作成してもらいます。

④介護サービス利用の開始
介護サービス事業者と契約し、ケアプランの内容に沿って、必要なサービスを受けます。

「要支援」は、「ある程度自立した生活を送ることはできるが、部分的に介助が必要となる状態」を、「要介護」は、「日常的に何らかの介護を要する状態」を指し、数字が大きくなるほど自立度は低くなります。
介護保険サービスは、「予防給付」と「介護給付」の2つに分かれており、「要支援1」、「要支援2」と認定された方は、「予防給付」によるサービス、「要介護1」~「要介護5」と認定された方は、「介護給付」によるサービスを受けることになります。

 ■介護給付サービス一覧(対象:「要介護1」以上)

【居宅サービス】
・訪問介護(ホームヘルプサービス)
・訪問入浴介護
・訪問看護
・訪問リハビリテーション
・居宅療養管理指導
・通所リハビリテーション(デイケア)
・通所介護(デイサービス)
・短期入所生活介護(ショートステイ)
・福祉用具貸与
・共生型訪問介護 など

【施設サービス】
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
・介護老人保健施設(老人保健施設) など

【地域密着型サービス】
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
・夜間対応型訪問介護
・認知症対応型通所介護
・小規模多機能型居宅介護 など

 ■予防給付サービス一覧(対象:「要支援1・2」)

【介護予防サービス】
・介護予防訪問入浴介護
・介護予防訪問看護
・介護予防訪問リハビリテーション
・介護予防居宅療養管理指導
・介護予防通所リハビリテーション
・介護予防短期入所生活介護
・介護予防福祉用具貸与
・共生型介護予防短期入所生活介護 など

【地域密着型介護予防サービス】
・介護予防認知症対応型通所介護
・介護予防小規模多機能型居宅介護
・介護予防認知症対応型共同生活介護

介護保険サービスを利用する時の利用者の負担額は、費用全体の1割(所得によっては2~3割)で、市町村(保険者)が残りの9割(または7~8割)を負担することになります。
制度上は、サービスを提供した施設や事業者に、利用者が一旦かかった費用の全額を支払い、後日、保険者であ
る市町村から9割(または7~8割)を受け取る「償還払い」という方式がとられています。しかし、実際のところは、市町村が利用者に代わり、サービスを提供する施設や事業所に費用の9割(または7~8割)を支払う、「現物給付」方式となっています。つまり、利用者は、サービスを利用した際に、自己負担分の金額のみの支払いで済むことになります。
しかし、利用者が自由に介護サービスを利用できるようになってしまうと、一部の人に給付が偏ってしまったり、保険料の負担と給付が不公平になったりする可能性があります。そのため、訪問リハビリテーションや居宅療養管理指導などの在宅サービスや地域密着型サービスは、要介護度別に一ヶ月あたりの保険給付の支給額に上限が設けられています。
この上限を「支給限度基準額」と呼び、利用者は、支給限度基準額の範囲内でサービスを組み合わせて利用することができます。

まとめ

今回は、「介護保険制度」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

介護や老後に不安を持ってはいるものの、保険料を支払っているだけで、介護保険制度によるサービスを利用してない方もいると思います。
介護保険制度は、かかる費用の1~3割を自己負担するだけで訪問介護やデイサービスなどが利用できる、要介護者とそのご家族にとって欠かすことのできない「暮らしのシステム」になりつつあります。
介護保険利用について詳細を知りたい方は、これを機に、一度、市町村の窓口を訪ねてみてはいかがでしょうか。

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