認知症を疑うような症状や行動がみられた場合には、迷わず専門の医療機関を受診することが大切です。しかし、認知症を診断するのに、一体どのような検査を受けるのか、どういったテストが実施されるのか、不安に思う方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、認知症の検査の流れや、どういった検査を行うかなどについてご説明したいと思います。
認知症の疑いを感じたら病院へ
「最近、物忘れが目立つ」、「外出した際に道に迷うことが多くなった」など、家族がいつもと違う様子で気になるという場合には、できるだけ早めに、専門の医療機関を受診するようにしましょう。
特に、認知症の代表的な疾患である「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」などは、進行性の認知症であるため、現代の医療では完治させることができません。
また、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせるための治療や、早期に発見し対処することで治りうる認知症(特発性正常圧水頭症や正常圧水頭症などの可逆性の疾患)も、診断が遅れてしまうと、症状の進行抑制や改善が難しくなります。
いかに早めの対応をとるかが、認知症の経過を左右することになるのです。
以下の項目は、認知症のはじまりの頃によくみられる症状になります。ぜひ、認知症の早期発見に役立ててください。
■認知症気づきのチェックリスト
□財布や鍵など、置いた場所がわからなくなることがある
□5分前に聞いたことを思い出せないことがある
□今日が何月何日かわからないときがある
□電気やガスが止まってしまった時に自分で対応できなくなった
□1日の計画を自分で立てることができなくなった
□電話をかけることができなくなった
□掃除機やほうきを使って掃除ができなくなった
□決められた時間に決められた分量の薬を飲むことができなくなった
□自分で食事の準備ができなくなった
□一人で買い物ができなくなった
□言おうとしている言葉が、すぐに出てこないことがある
□預金の出し入れや、公共料金の支払いなど一人でできなくなった
□周りの人から「いつもと同じ事を聞く」など物忘れがあるといわれる
□バスや電車、自動車を使って一人で外出ができなくなった
≪出典≫郡山市地域包括ケア推進課 認知症初期集中支援チームリーフレット
私たちは、年齢を重ねるとともに体力や記憶力などの機能低下を受け止めていかなければなりません。しかし、老化現象だと思っていた症状が、「実は認知症による初期症状だった」ということもあります。この場合、病院への受診は遅くなり、治療も遅れることになります。
特に、認知症を疑うきっかけになりやすい症状として「物忘れ」があります。加齢による「物忘れ」は、いわゆる「健忘症」と呼ばれる良性の物忘れです。老化現象の一つで、認知症による記憶障害(物忘れなど)とは全くの別物になります。
■加齢による「物忘れ」と認知症による「物忘れ」の違い
加齢 | 体験の一部を忘れる(例:何を食べたか忘れてしまった) 物忘れをしている自覚がある 大きな変化は目立たない |
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認知症 | 体験そのものを忘れる(例:食事をしたこと自体覚えていない) 物忘れをしている自覚がない 時間の経過とともに悪化していく |
高齢者は、「物忘れ」の他にも、加齢に伴う身体の変化や複数の薬の服用、環境の変化などにより、認知症と似ている症状が現れることがあります。「うつ病」や「せん妄」なども、高齢者に現れやすい傾向にあるうえに、認知症の症状と間違われやすい病気の一つです。
正しい診断を受け、早期に適切な対処を行うためには、少しでも様子がおかしいと感じたら、まずは病院を受診するようにしましょう。
また、本人が病院への受診を頑なに拒否して、認知症の診断が遅れてしまうケースもあります。そういった場合は、認知症の検査であることは本人に伝えず、かかりつけ医などから「持病の精密検査が必要です」と勧めてもらうなど、本人が納得できる理由で医療機関を受診してもらうようにすると良いでしょう。
認知症を扱う診療科について
認知症の疑いがある場合、一般的には、「神経内科」・「精神科」・「脳神経外科」・「老年科」・「もの忘れ外来」などで診てもらうことができます。
・神経内科
主に脳や脊髄、神経系、筋肉の病気を扱う内科です。
パーキンソン病と同様の症状が認められる「レビー小体型認知症」の初診に適しています。
・精神科
幻覚などの精神症状、強いこだわりや物忘れといった認知症状、不安感や焦燥感などの気分症状、不眠・過眠などの睡眠症状といった、こころ(精神)の病気や障害を扱っています。
・脳神経外科
脳血管障害などの治療(手術)を手がけています。脳出血や脳梗塞のよって引き起こされる「脳血管性認知症」の診断や治療に適しています。
・老年科
高齢者を対象とし、加齢に伴う身体の不調や病気一般の診断・治療を行っています。
・もの忘れ外来
認知症の診断や治療を行う専門の外来です。ほとんどが、大きな総合病院に併設されています。
認知症を扱う診療科を受診する前に、かかりつけ医や、地域包括支援センターなどの窓口に相談してみるのも一つの方法です。一番大切なのは、「どこの診療科を受けるか」ではなく、認知症についてよく知っている医師に診てもらうことです。
認知症の家族をもつ方の口コミなども参考にしながら、通いやすい病院を選ぶようにしましょう。
認知症検査の流れ
病院を受診してから認知症かどうかの診断を受けるまでは、一般的には、以下のような流れになります。
①問診、一般診察、神経学的診察、認知症のスクリーニング検査など
認知症の疑いがある場合、詳しい検査の前に、まずは認知症であるかどうかを確定診断することが必要となってきます。
病院を受診すると、最初に、本人や家族への問診が行われます。そこで、いつ頃から物忘れが気になり始めたのか、他にどんな症状があるか、進行の様子、病歴、服用している薬の有無、病識の有無などが確認されます。名前や生年月日を本人に尋ねるところもあるようです。(この場合、病識とは物忘れについての自覚)
また、本人が認知症だった場合、問診で正しい情報を得ることができない可能性もあるため、家族への問診の内容は、医師にとって非常に重要な判断材料となります。そのため、問診を受ける家族の方は、本人のこれまでの病歴や手術歴、いつから認知症を疑うような症状が現れたか、飲酒・喫煙、運動、食生活の様子など、普段の生活習慣をメモしたものを、あらかじめ用意しておくと良いでしょう。
この時、認知機能を調べる神経心理学検査「改訂長谷川式スケール」・「MMSE(ミニメンタルステート検査)」も行います。
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②一般検査、画像検査など
最初の問診等で認知症を疑われた場合、あるいは、認知症の疑いがなくても、検査が必要であると判断された場合、症状の原因となっている疾患を確認するため、一般検査や画像検査などを行っていきます。
一般検査では、血液検査(ビタミンB群や甲状腺ホルモンを含む)や尿検査、胸部レントゲン検査、心電図検査等で全身の状態を調べていきます。これらの検査結果により、認知症ではなく、内臓の病気が原因で認知症の症状が出ていないかなどをスクリーニングしていきます。
ここまでの診断で、認知症であるかどうかはおおよそ判断することができますが、認知症であった場合、さらに、どのタイプの認知症であるかを詳しく調べるため、MRIやSPECTなどの画像検査で、脳の内部の状態を確認していきます。
必要に応じて、髄液検査や脳波検査を実施するところもあります。
以上の検査結果を踏まえ、認知症の原因となっている疾患や今後の治療法などについて総合的に判断してい
きます。
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③説明
検査結果の説明や診断、今後の治療の流れについて、家族に説明します。ただし、認知症であった場合の本人への告知は、ケースごとに異なります。現時点では認知症を治療する方法はないため、本人への告知は配慮が必要な部分です。医師は、診断結果を誰に伝えるか必ず確認しますので、家族だけで判断できない場合には、担当医に相談するようにしましょう。
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④認知症であった場合、定期的に通院
頭部画像検査の種類
認知症を調べるための検査の一つに、「頭部画像検査」があります。「頭部画像検査」では、脳の病変や働き方を知ることができるため、認知症の原因が何であるかをより詳しく調べることができます。
もちろん、画像検査は、認知症以外にも、脳腫瘍などの治療可能な疾患の発見にも役に立ちます。
認知症で実施される頭部画像検査は、以下の通りです。
■脳の形を見る検査
【CT検査】
CT検査は、X線を使い、脳を輪切り(断面)で撮影して、画像化します。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫などの有無や、脳の萎縮の程度を調べることが可能です。検査に時間がかからないことや、普及が進んでいるため、検査を受けられる病院がほとんどです。ごくわずかなX線被ばくがあります。
【MRI検査】
磁気を利用し、さまざまな角度から脳を撮影することができるため、CT検査より詳細な脳の断面画像を得ることができます。アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の判別に役に立ちます。ただし、検査にかかる時間が長いことや、ペースメーカーや人工関節などがある方は、検査ができない場合もあります。
■脳の働きを見る検査
【SPECT検査】
ごく微量の放射性同位体を含む薬剤を注射し、薬剤が脳内に分布する様子を画像化して、脳の血流の状態を撮影します。比較的初期のアルツハイマー型認知症や、脳血管性認知症の判別に適しています。検査費用が高めです。
【PET検査】
ブドウ糖に似た液を注射し、脳の代謝の状態を撮影します。SPECT検査より詳細な画像を得ることができ、脳のどの部分の働きが低下しているか詳しく調べることができるため、比較的初期の段階でもアルツハイマー型認知症を判別することが可能です。検査を実施している病院が少ないことと、保険外診療のため、費用が病院ごとで異なります。
また、脳の萎縮があまり目立たない場合や、他の病気との鑑別がつかない場合、「頭部画像検査」の種類によっては、診断が難しい場合があります。そのため、血液検査や脳脊髄液検査など、その他の検査結果を含めた総合的な判断が必要となるのです。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とは
認知機能をテストするスクリーニング検査は、認知症の診断には欠かせない検査の一つです。スクリーニング検査にはいくつか種類がありますが、代表的なものには、「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」があります。「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」は、認知症の有無や程度を評価するテスト方法として、多くの医療・福祉の現場で用いられています。
この診断方法は、認知症の疑いがある患者に対して聞き取りを行い、言葉で答えてもらうという方式で、早期診断に適しています。質問内容は、「今日は何年の何月何日ですか?何曜日ですか?」といった簡単なもので、正解するごとに配点があります。患者の短期記憶や見当識などを点数化していき、認知症の進み具合や程度を評価していきます。
メリットとしては、評価者(質問する側)によって結果が大きく左右するということはないことや、他の心理検査と比較して検査に時間がかからないこと(HDS-Rは20分程度)などが挙げられます。
認知症診断は家族への問診が鍵を握る
認知症の疑いがある本人への問診は、認知症の診断に必要不可欠ではありますが、最も重要なのは、身近に暮らす家族からの情報です。家族は、何十年も前から本人の性格や生活をみてきているため、今までと様子が違うことに最初に気付くのは、身近にいる家族の場合がほとんどです。
診断の根拠となるのは「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」などの知能検査ですが、家族への問診だけで認知症であるかどうかの判断がだいたいつくこともあります。
家族が記入する問診票では、いつ頃から様子がおかしいと感じるようになったか、認知症以外の異常な症状はみられるかなどを記入するため、診察の際は、あらかじめ本人の日頃の様子をメモにまとめておいたものを持参すると良いでしょう。
「軽度認知障害(MCI)」の場合でも治療に入る
加齢による知的機能の低下と認知症には、明確な境界線があるわけではありません。
老化現象であるか認知症であるかのグレーゾーンに位置する、〝健常とは言えないが認知症と診断されるレベルでもない〟状態は、「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれています。
「軽度認知障害(MCI)」の場合は、老化現象とはいいがたい記憶力の低下がみられますが、本人には物忘れがひどいという自覚があります。本人が自らメモなどを用意して対策をとることも可能ですので、日常生活に支障をきたすレベルではありません。
しかし、支障をきたさないからといって、そのまま何も対策をとらなければ、認知症へ移行する可能性が高くなるため、「軽度認知障害(MCI)」と診断された場合でも、治療はすることになります。
病院からは薬が処方されますが、薬はあくまで、認知症と診断されるまでの期間を長くすることを目的としています。普段から、ぼけ防止を意識した生活習慣(栄養バランスの良い食事、有酸素運動、他者とのコミュニケーションを積極的に行うなど)を心がけるようにしましょう。
まとめ
今回は、認知症の検査やテストなどについてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
認知症は、一つの検査だけで診断することは難しいため、複数の検査を行い、さまざまな結果を総合的に診て判断していくことになります。
特に家族への問診は、認知症の判断材料として非常に重要ですので、家族の方は、日頃から本人の様子を記録しておくようにしましょう。