認知症は、早期診断・早期対応が重要です。しかし、日常生活において、自分の家族が認知症を疑うような行動がみられた場合、いざ医療機関を受診しようとしても、どの科を受診すれば良いのか分からなかったり、本人が病院への受診を拒否してしまったりと、さまざまな問題が出てくることもあるのではないでしょうか。
そこで今回は、認知症の早期診断につなげるポイントについて、いくつかご紹介したいと思います。

目次

認知症の早期診断のために、かかるべき医療機関

認知症は早期発見が重要

認知症の兆候を見つけるのは、何十年も前から本人の生活や性格を見てきた身近な家族であるケースが多いと言われています。
認知症とは、後天的な脳の障害により、認知機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態のことをいいます。そのため、以前とは違う生活の変化をきっかけに、周囲が気づくことが多いようです。
たとえ本人が気付いたとしても、単なる老化現象と思い込んだり、認知症の進行とともに病識が薄れていったりするため、発見が遅れがちな傾向にあります。

認知症の早期発見の目安やチェック項目については、医療機関や地方自治体などさまざまなところから提案されていますが、ここでは、「公益社団法人 認知症の人と家族の会」の「家族がつくった認知症早期発見の目安」 をご紹介します。ただし、医学的な診断基準ではないため、あくまで暮らしの中での目安として参考にしてください。

●物忘れがひどい
□1.いま切ったばかりなのに、電話の相手の名前を忘れる
□2.同じことを何度も言う・問う・する
□3.しまい忘れ置き忘れが増え、いつも探し物をしている
□4.財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う

●判断・理解力が衰える
□5.料理・片付け・計算・運転などのミスが多くなった
□6.新しいことが覚えられない
□7.話のつじつまが合わない
□8.テレビ番組の内容が理解できなくなった

●時間・場所がわからない
□9.約束の日時や場所を間違えるようになった
□10.慣れた道でも迷うことがある

●人柄が変わる
□11.些細なことで怒りっぽくなった
□12.周りへの気づかいがなくなり頑固になった
□13.自分の失敗を人のせいにする
□14.「このごろ様子がおかしい」と周囲から言われた

●不安感が強い
□15.ひとりになると怖がったり寂しがったりする
□16.外出時、持ち物を何度も確かめる
□17.「頭が変になった」と本人が訴える

●意欲がなくなる
□18下着を替えず、身だしなみを構わなくなった
□19趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった
□20ふさぎ込んで何をするのも億劫がりいやがる

早期発見のためには、認知症が疑われるような行動がないか、日頃から状態をチェックしておくことが大切です。認知症の原因となる疾患によっては、早期発見することにより、手術を受けることで症状の改善が見込めるものもあります。
「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」では、根本的な治療法が確立されていないため、進行の抑制が治療の中心となりますが、もちろん対処が早ければ早いほど、治療の効果は高まります。認知症になる前の「軽度認知障害(MCI)」の段階で発見できれば、認知症の発症を予防したり遅らせたりする可能性もあります。

認知症が疑われる場合にかかる医療機関

認知症が疑われる場合、かかりつけ医をお持ちの方は、まずはかかりつけ医に相談するようにしましょう。専門的な検査や治療が必要だと判断した場合には、もの忘れ外来(認知症の診断・治療を行う専門外来)などを紹介してもらえます。
紹介先の病院では、かかりつけ医が記入した「紹介状(診療情報提供書)」により、本人のこれまでの病状や治療経過、アレルギーの有無といった詳しい身体状況が伝えられます。
認知症の検査結果や処方される薬などの情報は、互いの病院で共有することができるため、認知症の検査が終わった後は、通院しやすいかかりつけの病院で、その後の症状・経過を観察することもできます。
かかりつけ医をお持ちでない方は、加齢による病気一般の診療を行っている「老年科」や、認知症を専門とする 「精神科」、「心療内科」などを受診するようにしましょう。
検査の結果、認知症の原因疾患によっては、例えば、脳血管性認知症であれば「脳神経外科」、レビー小体型認知症であれば「神経内科」というように、それを得意とする診療科目を紹介されることもあります。
ただ、診療科目がどこであるかということより、認知症を得意とする専門医にみてもらうということが一番理想的ですので、知人からの口コミ等も参考にしながら病院を探してみるようにしましょう。

認知症かどうかの診断をするために必ず実施される検査として、簡単な質問に答えていく「問診・心理検査」や、脳の形や委縮の度合いなどをみる「頭部画像検査」、その他の疾患が原因で認知機能の低下が起きていないかを調べる「血液検査」、「尿検査」、「心電図検査」、「胸部レントゲン検査」があります。特に問診の際は、家族からの客観的な情報をかなり参考にするため、本人の日頃の様子などをあらかじめメモ帳にまとめておくと良いでしょう。

本人が受診を拒否する場合の対処法

「自分は認知症かもしれない」という自覚の有無に関わらず、病人扱いされてしまうことにより、プライドが傷つき、不快な気持ちになるという方も少なくありません。
認知症の方は、以前とは違う自分の変化に、「何かがおかしい」、「これからどうなってしまうのか」といった不安な感情を抱いている方がほとんどです。特に、本人が認知機能の低下を自覚している場合には、自分が病気であることを認めたくないと思っている方も多くいます。
認知症は早期発見・早期治療が鍵を握りますが、家族が気付いた時点で早めに対処しようとしても、本人が病院への受診を強く拒否することもあります。このような受診拒否の問題は、本人にとっても家族にとっても大きなストレスです。
もちろん、本人が納得して病院を受診することが一番望ましいことですが、なかなか難しいケースが多いのが現状です。受診拒否への対応には、ひと工夫が必要となります。

 ■受診拒否への対処方法

・「認知症の検査」とは言わず、まずは病院に足を運んでもらう

「一緒に健康診断に行きましょう」といって声をかけてみたり、かかりつけ医から、「持病の検査が必要です」といって病院への受診を勧めてもらったりすると、本人も抵抗なく病院に足を運んでくれます。受診を嫌がっている方でも、実際に病院に行ってしまえば、素直に検査を受けてくれることも多いようです。病院のスタッフには、あらかじめ事情を説明しておくと良いでしょう。

・身体症状をきっかけに受診してもらう

風邪など、認知症と関係のない症状で病院に行った際に、かかりつけ医に協力をしてもらい、「精密検査が必要」という話を、本人に伝えてもらう。そこから、専門医を紹介してもらうという方法もあります。

・受診の際は必ず誰かが付き添う

「健康診断」などといって夫婦で一緒に病院を受診すれば、本人も病院を受診しやすくなります。ただし、認知症の症状は人それぞれですので、本人に落ち着きがなく外出が不安だという場合には、付き添いの方を2名に増やすといった対策をとるようにしましょう。介護のプロである、ヘルパーやソーシャルワーカーなどにサポートを頼むのも良いでしょう。

本人への認知症診断結果の告知について

認知症は、根治治療が確立されていないことから、本人へ告知するかしないかは、慎重に判断する必要があります。

まず、病院を受診するきっかけとして、〝「もしかしたら自分は認知症かもしれない」と本人が疑い、自ら検査を希望するケース〟と、〝家族や周囲の方が認知症である可能性を疑い、本人を病院に受診させるケース〟の、主に2通りがあります。どちらのケースであれ、担当医は、認知症の診断結果を誰に伝えるか、あらかじめ確認はします。
自身で認知症の可能性を疑い、病院を受診したケースでは、担当医から、「診断結果を伝えたい方がいる場合は、一緒にご来院ください」というような内容を伝えられますが、家族が本人を病院に連れてきたケースでは、本人に診断結果を伝えるかどうかを家族に確認します。
ちなみに、介護保険サービスは、本人に認知症であることを伝えているか伝えていないか、認知症であることを認めているか認めていないかなどは関係なく利用することができますし、事情を知っている医療や介護スタッフの方は、それに応じた支援や治療を行ってくれます。
認知症の方は、たとえ認知機能が低下してきても、〝感情〟に関する機能は比較的保たれています。告知によるショックが大きく、本人の中でいつまでも負の感情が残るようであれば、本人のためにもならないため、告知することにそこまでこだわる必要はないと言えます。

ただ、本人に告知することが望ましいケースとしては、主に以下のようなことが挙げられます。

・組織をまとめる立場にある方(会社の経営者など)
・遺産相続に配慮が必要である方
・車を運転する方
・認知症になる前、あるいは認知症のごく初期の段階でみつかった場合

認知症と告知されて落ち込まない方はいないでしょう。しかし、会社の経営者となれば、後継者へ引き継ぐ作業が必要となってきますし、財産が多い方は、認知症が重症化する前に、遺産をどうするかというのも考えなくてはなりません。
また、認知症になる前(軽度認知障害)や認知症のごく初期の段階でみつかった場合、判断力があるうちに告知をしておけば、本人の希望に沿ったケアや治療を選択することができます。理解できる段階での告知であれば、本人が認知症の治療に協力的であるといったメリットもあります。
ただし、診断結果の伝え方は、本人のその時の心情も踏まえながら言葉を選ばなくてはなりません。告知後の周囲のサポートも大変重要です。実際、自分は認知症であることを告知されたことでうつ状態に陥ってしまう方もいます。結果的に、告知後1~2週間以内に再度診察に来てもらい、担当医が抗うつ薬などを処方したり、心理カウンセリングを受けたりすることもあります。
いずれにしても、本人の立場や周囲の環境、認知症の進行度合など考慮した上で、告知するか否か、又は医師が
するのか家族がするのかなど決めると良いでしょう。

診断結果に納得いかなかった場合は

現在は、認知症の診断技術も上がってきていることから、原因疾患によっては、比較的初期の頃でも判別ができるようになってきました。しかし、認知症や認知症に似たような症状を引き起こす疾患はさまざまあります。

そこで、もし、診断結果に納得がいかなかった場合には、「セカンドオピニオン」を選択するという方法があります。セカンドオピニオンとは、主治医以外の医師に、病気の診断や治療方針について聞く、いわゆる「第2の意見」を求めることで、複数の治療法を提示され、どれを選択すればよいか迷った時や、他の治療法はないか知りたい時などに、自身や家族が納得する治療を選択・受けるための手段となります。
セカンドオピニオンを希望する場合は、現在の担当医にセカンドオピニオンを受けたい旨を伝え、紹介状を書いてもらう必要があります。直接だと言いづらいという場合には、看護師など他の医療スタッフに相談して、医師に伝えてもらう方法もあります。
また、セカンドオピニオンを聞いた後は、今後の治療について、主治医と再度検討することになります。決して、セカンドオピニオンは、担当医の治療方針と異なる意見をもらうためのものではありません。
セカンドオピニオンを希望する場合は、なぜセカンドオピニオンを受けようと思ったのか、担当医の説明(ファーストオピニオン)は十分に理解できたかなどを、自分の中でしっかり整理しておく必要があります。

認知症ケアで大切なこと【認知症と診断された方のご家族へ】

認知症になっても、進行レベルによっては、何気ない普段の会話はスムーズにできたり、趣味の活動も問題なく行えたりすることもあります。
そのため、たとえ、検査により認知症の診断を本人が受けていたとしても、一緒にいる家族自体が、「普通にコミュニケーションをとれるときもある」と思い、認知症になったことを受け入れられていない場合があります。
しかし、個人差はあるものの、認知症は進行性の病気です。身内が認知症と診断されれば、落ち込んでしまう方もいると思いますが、なってしまったからには家族として介護する側も心構えが必要となります。

 ■認知症の方とうまく対応していくためのポイント

【「うそ」を上手に使う】

認知症の方の介護は、常識や理屈が伝わらないことも多々あります。そんな中で介護をうまく続けていくためには、本人の言動や行動に合わせて演技をするのも一つの方法です。

上手にうそをつくポイントとしては、
・本人の世界を否定しない
・本人が良い気分になれるような嘘をつく
・事実も交えながら「嘘」をつく
の3つがあります。

認知症になると、「物盗られ妄想」がみられることがありますが、実際は、記憶障害により、本人が物を置いた場所を忘れているだけであることがほとんどです。そのため、介護者は、あえて発見しやすい場所に物を移動させておき、本人にみつけさせるようにしておくという方法をとることもあります。
また、本人は、現実と想像の区別がつきにくくなっているため、家族は、本人の世界観に合わせて話を聞いてあげることも大切です。もちろん、うそをつくことよって、本人が傷ついたり、本人に不利益なことがあったりしてはいけませんが、本人の気持ちに配慮した嘘は、介護を楽にする方法の一つであるといえます。

【本人を尊重する】

認知症の方は、記憶が残っていなくても、その時に感じた感情はしっかり残っています。認知症になったからといって何もかもが分からなくなるというわけではなく、周囲の人との関わりの中で、さまざまことを感じながら生きています。介護者の接し方次第で、良い意味でも悪い意味でも、本人の表情や態度は変わります。
家族や周囲の方がいつも心配していること、見守っている気持ちを本人に伝えるようにすることは、本人の不安な気持ちを軽減することに繋がります。また、話を聞くときは、相槌を打ちながら聞いたり、「ありがとう」といった気持ちを伝えるようにしたりするのも、本人が自身の存在価値を感じることができるきっかけとなります。

【急に環境を大きく変えないようにする】

認知症の方は、引っ越しや施設への入所、あるいは家族の死といった環境の変化に過敏です。この変化が、認知症発症のきっかけや認知症の急激な悪化に繋がることもあります。
本人の状態や家庭の事情など、やむをえない事情で環境を変えないといけない場合には、以下のことに配慮し、本人の混乱を最小限に抑えるようにしましょう。

・本人が使い慣れた家具を使用する。
・本人が大切にしているものや気に入っているものを本人の回りに置くようにする。
・照明のスイッチなどには、シールなどを貼って印をつけるようにし、不要なボタンなどは隠すようにする。
・棚などの上にあるものは、以前と同じ位置に置くようにする。

【身近に協力者や相談相手を作るようにする】

認知症の方の介護は、介護者に大きな負担がかかります。家族や親戚など、できるだけ多くの方に協力してもらうようにし、役割をなるべく分担させるようにしましょう。ただし、身内だからといって、必ず手助けしてくれるとは限りません。非協力的な姿勢が強ければ、無理に助けを求めず、いさぎよく諦めるようにしましょう。相談できる相手を作っておくと、ストレスも抑えられます。地域包括支援センターなどを頼ってみるのも良いでしょう。

まとめ

今回は、「認知症の診断」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

本人が病院の受診を拒否することは、認知症の診断が遅れてしまう原因となります。
しかし、声のかけ方次第で、病院の検査を受けてもらうことも十分可能です。今回紹介したポイントを参考に、 ぜひ、認知症の早期診断に役立ててみてください。

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