家族に介護が必要となり、会社を休まなければならない方の経済的負担を軽減するために、「介護休業給付金」という制度があるのをご存知でしょうか。
成長段階に応じたケアやその期間の予測がしやすい「育児」とは違い、「介護」は、要介護者の先の状態やケアを要する期間が想定しづらいため、「介護離職」を選択する方が多いと言われています。
会社側が介護者となる従業員の介護サービス利用状況や、自宅での介護の役割を把握し、働き方を検討していくのも難しいため、介護者1人だけの「介護」と「仕事」の両立は難しいのが現状です。
そこで、今回は、介護を理由に仕事を休む「介護休業」を取得した際に利用できる「介護休業給付金」の受給できる条件や、申請方法などについてご紹介したいと思います。

目次

介護休業給付金とは

「介護休業給付金」とは、職場復帰を前提に、家族の介護を理由に仕事を休む、いわゆる「介護休業」を取得する方の、経済的負担を緩和するために支給される給付金のことです。

ちなみに、「介護休業」は、〝2週間以上にわたり、常時介護を必要とする状態〟にある対象家族を、労働者が介護する場合に取得する休業のことで、介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であるなど、いくつか判断基準が設けられています。
この基準を意識するがあまり、労働者が介護休業取得の制限をされてしまうといったことのないよう、会社側は、出来る限り従業員の「介護」と「仕事」の両立できるように、その都度状況に応じて対応することが望ましいとされています。

そして、以下の項目を満たす「介護休業」は、「介護休業給付金」の受給対象となります。

1.及び2.を満たす介護休業について、支給対象となる同じ家族について93日を限度に3回までに限り支給されます。

1.負傷、疾病又は身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護(歩行、排泄、食事等の日常生活に必要な便宜を供与すること)を必要とする状態にある家族(次のいずれかに限る)を、介護するための休業であること。
対象家族は、被保険者の、「配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)」「父母(養父母を含む)」「子(養子を含む)」「配偶者の父母(養父母を含む)」「祖父母」「兄弟姉妹」「孫」。

2.被保険者が、その期間の初日及び末日とする日を明らかにして事業主に申し出を行い、これによって被保険者が実際に取得した休業であること。

(※)介護休業は、産前・産後休業中に開始することはできず、介護休業の期間中に他の家族に対する介護休業、産前・産後休業、育児休業が開始された場合、それらの新たな休業の開始日の前日をもって当初の介護休業は終了し、その日以降の分は介護休業給付金の支給対象となりませんのでご留意ください。

出典:厚生労働省 Q&A~介護休業給付~ 回答事項 Q1介護休業給付の支給対象となる介護休業を教えてください。

上記の通り、介護休業は、93日を限度に、3回までの分割取得が可能となっています。

介護休業給付金の受給資格

以下の条件を満たす方は、介護休業給付金の受給対象となります。

・家族の介護のために介護休業を取得した、雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者。
・介護休業開始日前の2年間に、11日以上就業した月(完全月)が通算12ヶ月以上ある。

介護休業給付金は、雇用保険から支給されます。
雇用保険法により、雇用保険加入の対象となる労働者は、雇用保険に必ず加入する決まりとなっています。同じ職場で1年以上勤務しているのであれば、介護休業給付金を受給できる条件を満たしている可能性が高いといって良いでしょう。

また、有期雇用労働者(契約期間の定めのある方)が介護休業給付金受給の対象となるには、上記の2つの項目に以下の受給要件が加わります。

・同一事業主のもとで、1年以上雇用が継続している
・同一事業主のもとで、介護休業開始予定日から93日を経過する日から6ヵ月以内に、雇用が引き続き継続される見込みがある。

同じ対象家族に対し、複数の被保険者(労働者)が同時に介護休業を取得した場合は、受給できる条件を満たしている限り、それぞれに介護休業給付金が支給されることになります。
ただし、一人の被保険者(労働者)に対し、介護を必要とする家族が同時に複数人いる場合、被保険者(労働者)は、介護休業給付金を重複申請することはできません。

介護休業制度に関しては、原則すべての労働者が取得可能となっていますが、以下の条件に当てはまる方は、労使協定により、基本的に対象外となります。

・入社1年未満である
・1週間の所定労働日数が2日以下である
・申請してから93日以内に退職することが明らかである

また、他の給付と同時に利用することはできないため、「産前・産後休業」や「育児休業」、あるいは他の家族の介護により新しく休業が開始される場合、その休業が開始される日の前日をもって、当初の介護休業は終了となります。また、その日以降の分は介護休業給付金の支給対象外となります。

介護休業給付金の対象期間

1回の休業期間が3ヶ月を超える場合、介護休業給付を利用できるのは3ヶ月が限度となります。3ヶ月を経過するまでに介護休業を終了して職場復帰をした場合は、介護休業を終了した日までの分が支給されます。

介護休業給付の支給対象期間は、介護休業の開始日から1ヶ月ごとに区切った期間(支給単位期間)を1単位としています。1回の介護休業期間は3ヶ月(93日)が最長となるため、最大、3支給単位期間が支給対象となります。
この支給対象となる支給対象期間を、支給対象期間といいます。

【例1】5/6から7/23まで介護休業を取得した場合
  介護休業開始日は5/6・介護休業終了は7/23
支給単位期間その1 5/6~6/5
支給単位期間その2 6/6~7/5
支給単位期間その3 7/6~7/23
【例2】10/31から1/31まで介護休業を取得した場合
  介護休業開始日は10/31・介護休業終了は1/30
支給単位期間その1 10/31~11/29
支給単位期間その2 11/30~12/30
支給単位期間その3 12/31~1/30

3ヶ月を経過するまでに介護休業を終了し職場復帰をした場合は、介護休業を終了した日までが支給対象となります。
ただし、1支給単位期間に対して、就労している日が11日以上ある場合は支給対象外となってしまうため、注意しましょう。

また、介護休業給付を利用できるのは、原則1回までです。通算93日に達した場合、同じ対象家族については、要介護状態が変わっても、介護休業給付金の支給を再度受けることはできません。

介護休業給付金の支給額

原則、介護休業給付金の1ヶ月ごとの支給額は、以下のように算出されます。

支給額=休業開始時賃金日額×支給日数×67%

つまり、休業開始前6ヶ月の賃金の合計を180(30日×6ヶ月)で割った金額に、支給日数(休業した日数(1回最大30日))をかけた額の67%が支給されるということです。

最後の支給単位期間中に職場復帰をした際は、支給単位期間が1ヶ月である場合の「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」に、最後の支給単位期間「休業開始時賃金日額×0.67×休業日数(暦日数)」がプラスされ、一括支給されることになります。

また、支給対象期間中に賃金支払日があり、会社から給与が支払われるという場合には、そこで支払われた賃金の額によって、以下のように介護休業給付額が減額されることになります。

1.支払われた賃金が休業開始時賃金月額の13%以下:
賃金月額(休業開始時賃金日額×支給日数)の67%相当額を支給

2.支払われた賃金が休業開始時賃金月額の13%超~80%未満:
賃金月額(休業開始時賃金日額×支給日数)の80%相当額+賃金の差額を支給

3.支払われた賃金が休業開始時賃金月額の80%以上:
支給なし

ただし、「賃金月額(休業開始時賃金日額×支給日数)」には上限・下限があります。
賃金月額が502,200円を超えてしまう金額は、全て「502,200円」に、77,220円を下回る場合は、77,220円となります。(※令和3年7月31日現在)
つまり、介護休業給付金の上限金額は、336,474円、下限金額は、51,737円となります。

介護休業給付金の申請の仕方

介護休業給付金の申請は、介護休業終了後となるため、介護休業中は、介護休業給付金を受け取ることができません。
手続きは、在職中の事業所を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)で行います。
手続きの際は、公共職業安定所(ハローワーク)に、「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」及び「介護休業給付金支給申請書」を提出します。
介護休業給付金の申請は、原則として事業主が行います。
「介護休業給付金支給申請書」の提出は、原則、介護休業終了日の翌日から2ヶ月経過する日の属する月の末日までです。(例:5月20日が介護休業終了日だった場合、7月31日が提出期限)

申請に必要な書類と、申請から受給までの流れは、以下の通りになります。

必要な書類

【提出書類】
・雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
・介護休業給付金支給申請書

【添付書類】
・「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」の記載内容が確認できるもの(賃金台帳、出勤簿等
・事業主に被保険者が提出した介護休業申出書
・介護対象家族の方の氏名、被保険者本人との続柄、性別、生年月日等が確認できるもの(住民票記載事項証明書等)
・介護休業期間中に介護休業期間を対象として支払われた賃金が確認できるもの(賃金台帳等)

申請から受給までの流れ

介護休業開始(介護休業給付支給対象期間の開始)

介護休業終了

受給資格確認(事業主申請)

支給申請(事業主または被保険者が申請)

支給(不支給)決定

事業主経由の場合は、「受給資格確認」と「支給申請」を同時に行います。

支給申請の結果については、「支給決定通知書」または「不支給決定通知書」の交付により通知されます。「支給決定通知書」には、支給額等が記載されています。支給決定の場合、介護休業給付金は、手続きの際に提出した書類に、振込先金融機関として記載されている、被保険者本人の金融機関の口座に、支給が決定してから約1週間後に振り振り込まれます

要介護者と家族のための介護休業制度

近年、都市部への人口集中や女性の社会進出、少子高齢化による人口構造の変化が、家族構成やその機能に影響を及ぼし、「家族による介護機能の低下」というかたちとして表れているといっても過言ではありません。
日本は、「核家族化」に伴い、一人暮らしの高齢者や高齢者のみの世帯が増加し、高齢者をとりまく家族の状況が大きく変化してきたことにより、家族内だけで介護をし続けるのは困難になりつつありました。「介護の社会化」を目指して創設された介護保険サービスは、約20年経過した今も、このような現代社会の介護ニーズの増大に合わせて改正をし続けています。

しかし、超高齢社会へ突入し、65歳以上の要介護認定者数が年々増加傾向にある日本において、要介護者となった高齢者の在宅生活を支えていくには、家族の協力が必要不可欠となります。
高齢者は、抵抗力や免疫力の低下などにより、体調が変化しやすい傾向にあります。日中は元気に過ごしていたにもかかわらず、夕方や夜になって急に体調不良を訴えるというようなことはよくあり、医療ニーズが高くなればなるほど、介護者である家族は、少しの体調の変化にも、24時間常に気をつかわなければならなくなります。
たとえ、介護サービスを利用していたとしても、介護する側の精神的負担や身体的負担、経済的負担が増えてしまうのが現状です。

このような状況化におかれた、働く家族の負担軽減のために「介護休業制度」があります。
「介護休業制度」は、対象となる家族の介護を理由に、通算延べ93日まで休みを取得することができる制度です。いつまで続くか分からない家族の介護に対し、介護休業期間が93日までというのは短く感じる方も多いかもしれません。
しかし、この93日という期間は、労働者が職場復帰した後も、介護と仕事を両立できるようにするための準備期間として考えることもできます。この「介護休業制度」は、要介護認定をしたり、今後利用していく介護サービスの見直しをしたりするなど、介護に関する長期的な方針を決めるための期間、また、家族にやむを得ず介護が必要となった時の緊急的対応措置として休業できるようにすることが目的とされています。
今後の「働き方」と「家族介護」のため、要介護者とその家族に向けて作られたこの制度を一度活用してみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は、「介護休業給付金」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

「介護休業給付金」は、介護を理由に仕事を休む「介護休業」を取得した際に利用できる給付金であり、休暇をとることにより経済的負担がかかってしまうのを軽減することを目的とした給付金です。
ただし、休業中に毎月支給されるというわけではなく、介護休業期間終了後に申請することになるため、休業する際にかかる生活費等は、あらかじめ用意しておく必要があります。
申請の詳細については、最寄りのハローワーク等に相談することをおすすめします。

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