リハビリテーションや医療ケアなどを行い、日常生活の復帰を目指す、終身利用ではなく3~12カ月ほどで退所が検討される「介護老人保健施設」。要介護の高齢者の方を対象としており、家庭と病院の中間的な位置づけをされています。また、医療従事者の配置にも明確な基準が設けられているため、利用者は医療体制が充実した中で生活を送ることができます。
今回は、介護老人保健施設(老健)についてご紹介したいと思います。

目次

介護老人保健施設(老健)の特徴

介護老人保健施設(老健)とは

介護老人保健施設は、入院していた高齢者が、退院後の日常生活に戻ることが難しい場合に利用される施設です。
通称、「老健」ともいわれています。入所者の「在宅復帰・在宅療養支援」という、家庭と病院の中間的な役割を果たしています。そのため、病状が安定期であることや、入院治療の必要がないことなどが、主な入所条件とされています。

施設では、入所者ひとりひとりの状態や目標に応じた介護サービス計画書(ケアプラン)を作成し、専門のスタッフは、ケアプランに沿って、必要となる医療ケアや介護、リハビリテーション等のサービスを提供することができます。介護老人保健施設では、医師の常勤と、入所者の健康管理、医療ケア、緊急時の対応が義務付けられているため、本人へ直接医療サービスを提供することができるなど、医療体制が充実しているという特徴があります。

施設運営においては、地方公共団体や社会福祉法人、医療法人、その他厚生労働大臣が定めるものとされています。系列病院からの入所であれば、施設と連携が取りやすく、入所者の介護状態を把握しやすいという利点があるため、もし、医療法人が運営する老健を検討されているのであれば、病院系列の介護老人保健施設があるかを確認しておくと良いでしょう。

介護老人保健施設は、在宅復帰を目指す施設であるため、入所期間は3~12ヶ月ほどとなっています。そのため、〝終の棲家〟としての選択はできません。
継続入所の判定は3ヶ月ごとに行われていますが、目標とする状態まで回復していない場合や、家族の受け入れ態勢が整っていないなどの場合は、入所が長引くこともあります。在宅復帰が可能と判断された場合は退所、在宅へ戻ることが困難であると判断された場合では、有料老人ホームに転居するケースもあります。

介護老人保健施設の特徴
設備 療養室:1室当たり定員4人以下
入所者1人当たり8㎡以上
機能訓練室:1㎡×入所定員数以上
食堂:2㎡×入所定員数以上
廊下幅:1.8m以上(中廊下は2.7m以上)
浴室:身体の不自由な者が入浴するのに適したものなど
人員 医師:常勤1以上、100対1以上
介護職員または看護職員:3対1以上、うち看護は2/7程度
薬剤師:実情に応じた適当数(300対1を標準とする)
支援相談員:1以上、100対1以上
理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士:100対1以上
栄養士:入所定員100以上の場合、1以上
介護支援専門員:1以上(100対1を標準とする)
調理員、事務員その他の従業者:実情に応じた適当数
提供されるサービス ・必要とする医療の提供
医学的管理を目的とした、投薬、処置、療養に必要な検査、
協力病院への入院、他の医師の往診を求める
・リハビリテーション
医学的管理の下、理学療法士、作業療法士によるリハビリテーション
を行う
・看護、介護、その他のサービス
入浴、排泄、日常生活上の世話や介護。レクリエーションやイベント
の開催など。
看取り 体制が整っていれば、対応可能。
認知症 対応可能

他の施設では、医師の配置が義務付けられていない場合や、医師の配置があっても、常勤の必要が無い場合があります。
しかし、介護老人保健施設では、医師の常勤が義務付けられており、緊急時なども対応可能です。
地方公共団体や医療法人、社会福祉法人などが運営する公的施設である介護老人保健施設は、理学療法士や作業
療法士の配置も義務付けられているため、歩行器や車イスを使った移動の練習など、本格的なリハビリテーションサービスも受けることができます。
その他にも、医療ケアやレクリエーションのサービス、介護職員や看護職員による食事・入浴・排泄の介や、日常生活上の世話なども受けられます。
ただし、在宅復帰を目的としている介護老人保健施設では、リハビリテーションが中心の生活となるため、自由時間やレクリエーションなどの楽しみは少ない傾向にあります。入所を考えている方は、その点も踏まえ、検討しましょう。

介護老人保健施設の類型について

介護老人保健施設は、100床以上の定員を持つ施設が一般的となっています。しかし、その他に、以下のような小規模もあります。

小規模施設の種類
サテライト型小規模介護老人保健施設 入所定員は29人以下。同一法人の介護老人保健施設、
介護医療院、病院、診療所などを本体施設とし、それとは
別の場所(ただし自動車等で20分以内に移動できる等)で
運営される小規模介護老人保健施設。本体施設との密接な
連携により運営されており、本体施設に配属されている医師に
よる管理が可能であれば、医師の配置は不要である。
医療機関併設型小規模介護老人保健施設 入所定員は29人以下。介護医療院、病院、診療所など
に併設(同一敷地内にあるか、又は隣接する場所に設置)
される小規模介護老人保健施設。併設医療機関の医師に
よる管理が可能であれば、兼務可。
分館型介護老人保健施設 本体である介護老人保健施設の分館として、過疎地域など
に限り設置が認められる小規模介護老人保健施設。本体
施設との一体的な運営を条件として、開設されたものである。
介護療養型老人保健施設 2017年度末に廃止された「療養病床」を、
介護老人保健施設として転換したもの。

介護老人保健施設の居室の種類などについて

介護老人保健施設は、主に、2~4人部屋の「従来型多床室」や、1人部屋に1人で生活する「従来型個室」、少人数の入所者で家庭的な生活環境が提供される「ユニット型」があります。
ユニット型とは、ユニットごと(1ユニットおおむね10人以下のグループ)に分かれて共同生活を送る生活形態のことで、リビングなどの共用スペースと、それを囲むように配置されている個室が備えられています。現在は、入所者のプライバシーを確保するため、「ユニット型」への切り替えが進められています。
部屋の広さは、定員4人以下の多床室では、1人当たり8㎡以上、個室の場合だと10.65㎡以上と定められており、施設内は、車いすでも通れる廊下幅で、浴室は身体の不自由な方の利用に適したつくりとなっています。

介護老人保健施設(老健)の入所条件

介護老人保健施設では、「病状が安定していて入院治療の必要がない要介護者で、リハビリテーションを必要としており、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者」を入所の対象としています。

要介護認定の区分や年齢について

  • 要介護1以上に認定された、65歳以上の高齢者
  • 40際~64歳の方で、特定疾病により要介護認定を受けている方

原則、リハビリテーションを必要とする65歳以上の要介護者が対象となりますが、40歳~64歳の第2号被保険者の方で、特定疾病により要介護認定を受けている場合も対象となります。特定疾病とは、「医学的に加齢に伴う心身の変化に起因すると考えられる病気」のことで、現在は、末期がんや関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、初老期における認知症など、全部で16の疾病が認定されています。

また、入院治療が必要ないことや、病状が安定していること、感染症にかかっていないなど、施設ごとの条件もあるため、詳しい内容は施設に直接確認してみると良いでしょう。

在宅復帰を目指す施設であり、短期入所が基本となるため、在宅復帰が可能かどうかの判断は、3ヶ月ごとに行われます。在宅復帰が可能となった場合はもちろん、入所中に要介護度が下がり、要支援・自立となった場合や、何らかの理由によりリハビリテーションの実施が困難となった場合も、退去となります。

入所難易度に関してですが、介護老人保健施設は、費用が安いなどの理由で人気があるものの、入所期間は決められているため、ベッドの回転が速く、万が一待機となった場合でも、待機期間は比較的短い傾向にあります。ただ、施設の体制などによって回転数は異なってくるため、施設ごとの特徴などを把握しておくと良いでしょう。

介護老人保健施設(老健)の費用

介護老人保健施設は公的な介護福祉施設であることから、民間の施設と比較しても支払いやすい額となっているのが特徴です。有料老人ホームのような「入居一時金」は不要で、毎月支払う月額費用も、およそ15万円前後となっています。
※具体的な費用は、入所者の要介護度や利用した居室の種類などによって多少異なります。

この月額費用の内訳は、以下の通りになっています。

介護サービス費

入所者に提供される介護サービスの利用料。サービス費の1割~3割が自己負担となります。(所得に応じて負担する割合が異なる。)介護サービスは、一人ひとりの状況に合わせて作成された介護サービス計画書(ケアプラン)に基づき、在宅復帰に向けて日常生活の自立や身体機能の回復・維持を支援するサービスです

【従来型個室】
要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5
基本型 701円 746円 808円 860円 911円
在宅強化型 742円 814円 876円 932円 988円
【多床室】
要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5
基本型 775円 823円 884円 935円 989円
在宅強化型 822円 896円 959円 1,015円 1,070円
【ユニット型個室・ユニット型個室的多床室】
要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5
基本型 781円 826円 888円 941円 993円
在宅強化型 781円 826円 888円 941円 993円

※上記は1割の自己負担額

居住費

居室の利用料金のことであり、いわゆる家賃。居室のタイプによって支払う料金は異なります。介護保険給付の対象外となるため、入所者が負担することになりますが、場合によっては、減免措置が受けられます。

食費

具体的には、食材費や調理費、厨房の維持費などが含まれます。居住費と同様、介護保険給付の対象外となるため、入所者の負担になります。

特別室料(個室の場合)

個室などの特別室を利用することで、居室の利用料金に加算される費用です。部屋の設備の充実度によって料金が異なってきます。

介護サービス加算

上記の料金以外に、入所者が利用したサービス内容によってかかる追加料金があります。より手厚い体制をとっている施設であるほど、費用は高い傾向にあります。
自己負担額は、所得に応じて1割~3割負担となります。

介護サービス加算の項目(例)
初期加算 入所日から30日以内の期間に算定できる
夜勤職員配置加算 定められた基準より職員を多めに配置している場合
認知症短期集中
リハビリテーション実施加算
認知症の入所者に対し、入所日から3ヶ月以内に集中的に
リハビリテーションを実施した場合
ターミナルケア加算 死亡日以前の30日以下のケアについて算定
栄養マネジメント加算 常勤の管理栄養士を1人以上配置し、栄養ケア計画を作成して
入所者の栄養管理を行った場合
経口移行加算 経管栄養の入所者が、医師の指示の下、医師や歯科医師、
管理栄養士などさまざまな職種が共同して、経口摂取への移行を
計画に基づいて支援した場合。

介護老人保健施設(老健)のメリット・デメリット

メリット

  • 在宅復帰を目的とした施設であることから、機能訓練が充実している。
  • 医師が常勤であるなど、手厚い医療ケアが受けられる。
  • 入居一時金(初期費用)が無料で、月額費用も比較的安い。

デメリット

  • 入所期間が、決められている。
  • 多床室になる場合も多く、また、個室や2人部屋を選ぶと特別室料が加算されてしまう。
  • 生活支援サービス、レクリエーション、イベントなどが充実していない。

介護老人保健施設は、医師、看護師、薬剤師、作業療法士、理学療法士などの専門のスタッフが配置され、医療体制が整った環境の中で、充実した機能訓練を受けられることや、費用が安く抑えられるというのが大きな特徴になります。万が一、体調が悪くなっても、医師がいるため、入所するご本人やご家族も安心して生活することができます。
入居一時金(初期費用)を支払う必要はありませんし、月額費用も、民間の施設と比べて、かなり抑えられているため、経済的にも負担がかかりません。
デメリットとしては、入所できる期間が短いということが挙げられます。もちろん、在宅復帰を目的としている施設のため、終身利用は不可能であり、〝終の棲家〟として選択することはできません。3ヶ月ごとに行われる継続入所の判定により、在宅復帰が可能となれば、「退所」という形になります。そのため、入所する際は、退所後の介護方針を決めておく必要があります。
また、レクリエーションやイベントなどは行われているものの、リハビリテーションが中心となるため、他の施設と比べるとあまり充実していない傾向にあります。

特養の待機として利用

特別養護老人ホーム(特養)に入所するまでの待機場所として、多くの高齢者が介護老人保健施設に一時的に
入所されています。特別養護老人ホームは、介護老人保健施設と同様、公的な施設であり、非常に人気が高いことから、長い場合は待機期間に数年かかるところもあります。
そのため、待機している間は、待機場所として介護老人保健施設に入所し、入所期間が過ぎたらまた他の介護老
人保健施設に移るというのを繰り返している状態の方や、あるいは、寒い季節の期間だけ介護老人保健施設を利用する方もいます。あまりおすすめできる方法とは言えませんが、〝特養待ち〟で悩んでいる方は選択肢の一つとして頭に入れておきましょう。

まとめ

今回は「介護老人保健施設」についてご紹介させていただきましたが、いかがでしたか。
介護老人保健施設は、退院した要介護1以上の高齢者の方が、在宅復帰を目指すことを目的として入所する施
設です。リハビリテーションと医療ケアに特化しており、日常生活の回復を望んでいる本人やその家族も、安心して預けることができます。
ただし、入所を検討する際は、自由時間やレクリエーション等が少ないといったこともあるため、入所後にイメージが違ったと気づくことの無いよう、ご家族でしっかり話し合いをして、決めていくようにしましょう。

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