〝認知症は高齢者がなるもの〟というイメージをもっている方もいるかもしれません。しかし、実際は、年齢に関係なく発症します。若年性認知症と診断された方やそのご家族は、精神的負担はもちろん、お子さんがまだ独り立ちしていなかったり、就労の関係で経済的負担がかかったりと、さまざまな困難に直面することになります。
今回は、若年性の認知症と高齢者の認知症との違いや、利用できる介護保険制度などについてご説明させていただきます。

目次

若年性認知症とは

実は、皆さんがよく耳にする『認知症』とは、病名ではなく、状態を指していることをご存知でしょうか。〝一度正常に達した認知機能が、後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態〟を、私たちは『認知症』と呼んでいます。

 ■認知症と診断される4つの基準

1.原因が脳の病的な変化である。
2.記憶などの知的な働き(認知機能)が低下していく。
3.日常生活や、仕事といった社会生活を営むのに支障がある。
4.意識ははっきりしている。

≪出典≫若年性認知症ってなんだろう【改訂5版】

認知症は、高齢者の方だけが発症するものではありません。若くして認知症を発症することもあり、64歳以下で発症した場合は、「若年性認知症」と言われています。
さらにその中でも、18歳から39歳までに認知症を発症した場合は「若年期認知症」、40歳から64歳に発症した場合は「初老期認知症」と呼ばれています。

症状

〝若年性〟というのは、あくまで発症年齢による区分であるため、原因疾患や現れる症状は、高齢者の認知症と変わりありません。ただ、若年性認知症の場合は、高齢者よりも原因となる疾患が多いという特徴があります。
認知症によって現れる症状は、脳の障害が原因で直接的に引き起こされる「中核症状」と、その中核症状の影響により二次的に引き起こされてしまう「BPSD(行動・心理症状)」の大きく2つに分けることができます。

【中核症状】
程度や時期の違いはあるが、認知症の方には誰にでも見られる症状。新しいことを覚えたり、記憶を保持したりすることが困難となる「記憶障害」や、時間や場所が分からなくなる「見当識障害」、判断力・理解力・思考力などが低下する「実行機能障害」などがある。

【周辺症状】
中核症状によって生じる不自由さと、本人のもともとの性格や周りの環境など、さまざまな要因が加わることで二次的に引き起こされるため、人により症状の種類や表れ方が異なる。主な症状としては、妄想(物盗られ妄想)や徘徊、幻覚、抑うつなどがある。

認知症の細かい症状については、認知症の原因となっている疾患ごとにそれぞれ異なりますが、基本的には、認知機能の低下により、以下のような症状が目立つようになります。

 ■主な症状

・物忘れ
(例:物を置いた場所を忘れるのではなく、置いたこと自体を忘れてしまう。)
・日付が分からない
・言葉が理解できない
・言葉が出てこない
・読み書きが困難になる
・着替えができなくなる
・慣れているはずの道で迷うなど

アルツハイマー病が原因の認知症の場合、症状は徐々に進行していきますが、認知機能の低下による記憶障害などは、比較的初期の頃から目立つようになります。

若い年齢で発症することの問題点

日本では、若年認知症患者は約4万人いると推定されています。しかし、若年性認知症は、社会的な認識がまだまだ不足していることや、若年性認知症に関する研究が進んでいないため、誤診も多いということなど考慮すると、実際はもっと多くなると考えられています。

先ほど、若年性認知症は、あくまで年齢による区分であるため、高齢者における認知症と、原因や症状が異なるわけではないということをお伝えしました。しかし、認知症を発症した時期が若年であるがゆえの問題点もあります。

「若年性認知症」を発症する方は、年齢的にちょうど働き盛りで、家族の生活を支えている現役世代も多く、高齢者よりも社会的な活動が活発です。そのため、この時期に認知症を発症すると、記憶障害などの影響により、 仕事でのミスが目立つようになり、本人はもちろん、家族や職場の同僚といった周囲の方も、いつもと様子が違うことに、早期の段階で気付くことができます。しかし、実際は、年齢が若いことから、単なる身体の不調や、うつ病、更年期障害など、病院でも間違われて診断されることが多く、認知症を発症してから正しい診断を受けるまでに数年かかる場合もあります。

また、「若年性認知症」は、本人やその家族にとって、身体的負担や精神的負担、失業による経済的な打撃も大きいと言われています。本人あるいは配偶者の両親の介護と重なってしまった場合の対応なども含め、まだ成人していない子供への心理的影響や、介護を担うことになる子供や若者の問題(ヤングケアラーの問題)など、さまざまな問題が生じます。
現在の介護保険制度は、老年期の患者を対象として考えられており、現時点では、若年性認知症の患者向けのサービスや支援はほとんどない状態です。若年性認知症患者の受け入れ可能な施設が少なかったり、介護サービスの内容が若者には合わなかったりするため、自宅での介護を余儀なくされるというケースがほとんどになります。

早期発見がポイント

現在の医療では、認知症を完治させることは困難であるため、いかに早く発見し治療するかがとても重要です。
先ほどお伝えしたように、若年性認知症を発症する方は、役世代が多いため、仕事で単純なミスが続いてしまうといったことで、本人や周囲の方も、いつもと様子が違うことに気付きやすい状況にいます。認知症は、〝若年性〟に限らず、対策が早ければ早いほど、症状の改善や、認知症の進行を抑制できる可能性は高くなります。

しかし、若年性認知症は、一般の方だけではなく、医療や介護の現場でも認識不足であると言われており、見逃してしまうケースもあるのが現状です。
早期発見につなげる為にも、認知症の疑いがある場合には、なるべく、「物忘れ外来」や「認知症疾患医療センター」など、認知症専門の診療科や医療機関を受診するようにしましょう。また、受診する際は、本人だけでなく、家族も同行することをおすすめします。

診断

認知症の診断では、主に以下の検査が実施されます。

【問診】
いつ頃から物忘れが始まったのか、最初に気付いた症状や現在現れている症状は何か、受診日までの症状の経過、他の疾患の有無、普段の生活習慣、現在服用している薬、親やきょうだいなどの病歴等を聞かれるため、家族の方は、あらかじめメモにまとめておくと、伝えやすくなります。

【神経心理検査】
認知機能の状態を細かく測るための検査です。検査内容は、簡単な質問に答えたり、絵や図を描いたりする など、さまざまな課題で構成されています。
主な神経心理検査には、「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」や「ミニメンタルステート検査(MMSE)」があります。

【内科的検査】
内科的検査とは、血液検査や尿検査、胸部レントゲンといった一般的な検査のことです。身体状況の把握、認知症の原因となっている疾患や、認知症に似た症状を起こす病気の有無等を確認するために実施します。

【画像診断】
脳の形(脳が萎縮している場所や程度)を調べる「CT検査」や「MRI検査」、脳の働き(脳の血流状態)を見る 「SPECT検査」「PET検査」などがあります。

以上の検査結果をすべて踏まえたうえで診断され、これからの治療方針などが検討されます。

若年性認知症の原因疾患

認知症を起こす疾患は複数ありますが、若年性認知症では、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症が多い傾向にあります。また、前頭側頭型認知症や頭部外傷後認知症、アルコール性認知症なども若年性認知症の原因としてあげられます。

 ■認知症の主な原因

【アルツハイマー型認知症】
「アミロイドβ」という異常タンパク質が、何らかの原因で脳内に蓄積されていくことにより、記憶を司る「海馬」を中心に、広範囲にわたり脳が委縮し、脳の機能が正常に働かなくなります。

【脳血管性認知症】
脳梗塞や脳出血などの後遺症として起こります。脳のどの部分に血管障害が起きるかによって症状は異なりますが、記憶障害や見当識障害から目立ち始めることが多い傾向にあります。血管障害が起きていない部分の脳は正常に働くため、認知症の症状がまだらに現れる〝まだらボケ〟が特徴となります。

【レビー小体型認知症】
「レビー小体」という特殊なタンパク質が、脳内に蓄積されることによって起こります。実際には存在しないものが見える「幻視」や、手足が震える「パーキンソン様症状」など、他の認知症とは異なる特徴的な症状が目立ちます。

【前頭側頭型認知症】
脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することにより起こります。「前頭側頭型認知症」は、いくつかの病気をまとめた総称であり、そのうちの代表的な疾患には「ピック病」があります。前頭葉の萎縮による人格の変化や意欲の低下、側頭葉の萎縮による言語障害などが起こります。

【その他】
交通事故などの頭部外傷による後遺症や、長期間にわたる大量のアルコール摂取による起こる認知症などがあります。
慢性硬膜下血腫や慢性正常圧水頭症などが原因で起こる認知症は、原因となっている疾患を治療することで症状が改善される場合もあります。

若年性と高齢者の認知症の違い

▶男性に多い傾向にある
高齢者の認知症は女性が多いとされていますが、若年性の認知症は、女性よりも男性が多いことで知られています。また、若年性認知症の発症年齢は、平均約51歳となっています。

▶まだまだ体力がある
認知症になっても、ボランティア活動などへの参加も十分可能です。

▶変化には気が付きやすいが、見逃しやすい、あるいは、誤診されやすい。
今までと様子が違うことには気付きますが、初期診断が難しく、見逃すケースも多くあります。

▶経済的な問題が大きい
ちょうど、仕事や家事、育児、住宅ローンの支払いなどをしている年代であることから、認知症の発症をきっかけに休職や失業をしてしまうと、収入が減る、あるいは収入がなくなり、家族や親に経済的な負担が大きくかかります。認知症と診断された場合に、継続雇用が難しいのが現状です。

▶利用できる施設などがほとんどない
若年性認知症患者を受け入れている施設がほとんどないことや、サービス内容が高齢者向けのものが多いことから、介護者は配偶者や子供などに集中しやすい傾向にあります。

▶介護者が高齢の親になる場合もある
高齢の親が、認知症の息子(娘)を介護するケースもあります。

▶同時に複数の介護を行う場合がある
高齢の親の介護と重なってしまい、複数介護を配偶者や子供が対応せざる負えない場合もあります。

▶家庭内の課題が多い
自分の親が認知症であるという事実に対する受け止め方は、子供の年齢によって異なります。子供の教育や進学、結婚など、親が必要とされる時期に認知症を発症すると、家庭内に問題が生じてしまうケースもあります。

介護保険制度について

「介護保険制度」の介護保険サービスは、介護サービスにかかる費用を1割(収入によっては2割~3割)の自己負担で利用することができます。
介護保険制度を利用できるのは、基本的には〝65歳以上〟となりますが、「認知症」と診断された場合は、40歳以上から、介護保険制度を利用することができるようになります。
※39歳以下は介護保険制度を利用することはできません。

 ■介護保険の主なサービス内容

・自宅でサービスを受ける
➡ホームヘルプサービス(訪問介護)、訪問看護

・施設に通ってサービスを受ける
➡デイサービス(通所介護)、デイケア(通所リハビリテーション)

・施設に短期間入所してサービスを受ける
➡ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)

・施設に入所してサービスを受ける
➡介護老人福祉施設、介護老人保健施設、グループホーム(認知症対応型共同生活介護)

 ■介護サービス利用までの流れ

①認定申請
市区町村の窓口やWEBサイトなどで申請書を入手。40歳~65歳未満の方は、健康保険被保険者証も必要。

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②訪問調査・主治医意見書
介護認定調査員が本人の自宅を訪問し、聞き取り調査等を行う。また、市町村は、主治医に「主治医意見書」の記入を依頼する。

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③審査・判定
医療・保険・福祉の専門家からなる介護認定審査会の審査により、要介護度が認定される。

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④通知
申請から原則30日以内に認定結果が本人に通知される。

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⑤サービス計画(ケアプラン)の作成
本人の状況や環境に合ったケアプランを作成する

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⑥サービスの利用開始

また、若年性認知症の方は、介護保険制度以外に、「精神障害者保健福祉手帳」を取得することができます。「精神障害者保健福祉手帳」とは、認知症などの精神疾患により日常生活に支障をきたす場合に申請することができるもので、障害の程度によって1級~3級に分けられます。
会社の規模によっては、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にするという義務づけがされているため、「精神障害者保健福祉手帳」を取得することで、障害者雇用枠で働くことも可能です。

他にも、認知症で通院治療している場合に、診察料や薬代などの医療費の自己負担額が原則1割(または所得に応じた上限額)に軽減される「自立支援医療」や、健康保険組合などに加入している事業所に勤めている方が病気や怪我などで仕事を休み、給料を受け取ることができない場合に、その間の生活を保障することを目的とした「傷病手当金」など、若年性認知症と診断された後の生活を支えてくれる社会制度はさまざまあります。

まとめ

今回は、「若年性認知症」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

「若年性認知症」は、年齢による区分であり、高齢者の認知症と症状が異なるというわけではありません。しかし、発症年齢が平均51歳であることから、働き盛りでの発症が多く、見逃されやすい・経済的負担が大きいなど、若年性ならではのさまざまな問題が生じてきます。
少しでも異変を感じた場合には、すぐに専門の医療機関を受診するようにし、早期に対処できるようにしておきましょう。

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