脳の血管障害などが原因で引き起こされる「脳血管性認知症」などは、障害が起きた部分の脳の機能のみが低下することから、認知症の症状がまだらに出る、いわゆる〝まだら認知症〟という症状が表れるのが特徴です。
まだら認知症は、発症原因が明確であることや、発症した際の特効薬がないことから、普段から予防を意識した生活を送ることが重要となってきます。万が一、発症した場合でも、生活習慣の改善などにより、進行や再発を予防することも可能となります。
今回は、〝まだら認知症〟とは具体的にどういった症状なのか、また、引き起こされる原因や予防法などについて、詳しくご説明したいと思います。

目次

まだら認知症とは

まだら認知症とは、名前の通り、認知症の症状がまだらに表れている状態のことをいいます。日や時間帯によって症状に波があったり、できることとできないことの差が大きかったりするのが特徴です。〝まだらぼけ認知症〟とも呼ばれています。

〝認知症〟とは

「認知症」とは、特定の病気を示す〝病名〟ではありません。一度正常に発達した認知機能が、何らかの原因で障害を受け、持続的に低下していき、日常生活や社会生活を営めない状態のことを指します。
認知症の主な症状としては、物忘れなどの「記憶障害」や、時間・場所・人物などが分からなくなる「見当識障害」、物事を順序立てて効率よく行うことや、複数の作業を同時に行うことなどが難しくなる「実行機能障害」 などがあります。(中核症状)
また、「物盗られ妄想」や「徘徊」といった、記憶障害や見当識障害などの中核症状が原因で引き起こされる二次的な症状もあります。(周辺症状)

これらの症状は、認知症の原因疾患によって、症状の現れ方にそれぞれ特徴があります。
例えば、脳全体が徐々に萎縮していく「アルツハイマー型認知症」では、脳の機能全般に障害が出ますが、前頭葉や側頭葉を中心に萎縮していく「前頭側頭型認知症」では、前頭葉や側頭葉が司る機能(人格、理性、言語、感情、思考など)の低下が目立つようになります。

まだら認知症の原因

まだら認知症は、多くの場合、「脳血管性認知症」が原因となります。脳血管性認知症とは、脳の血管が詰まってしまう「脳梗塞」や、脳の血管が破れてしまう「脳出血」といった脳血管の障害により、障害が起きた部分の脳神経細胞が破壊されることで引き起こされる認知症のことです。
先ほども少しご説明しましたが、現在、認知症の中で最も患者数が多いとされる「アルツハイマー型認知症」の場合は、脳全体が徐々に萎縮していくため、それに伴い、記憶力や認知機能全般が徐々に低下していきます。
しかし、脳血管性認知症の場合は、一部の脳の機能だけが低下し、障害を受けなかった脳の機能は保たれていることから、できることとできないことの差が大きい、また、その都度、症状の強さが変わるといった〝まだら認知症〟などの特徴的な症状が表れるようになります。

脳血管性認知症

【原因】
脳梗塞や脳出血といった「脳卒中」が主な原因となります。

【症状】
主な症状としては、認知機能障害やBPSD(行動・心理症状)、身体的な能力の低下などが挙げられます。認知機能障害は、脳血管性認知症の場合、障害される能力と残っている能力があることから、症状がまだらに表れるのが特徴です。さらに、感情のコントロールが難しくなり、泣きやすくなったり、ちょっとしたことで怒りやすくなったりする「感情失禁」も目立つようになります。
また、本人に病識があることから、認知症の症状がまだらに出ることで、不安になったり、悲観的になったりし、二次的な症状としてうつ状態に陥るケースもあります。脳の運動中枢が障害を受けた場合には、嚥下障害や歩行障害、片麻痺など、身体的な能力の低下が表れることもあります。

【特徴】
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症といった他の認知症とは異なり、発症原因が明確であるため、 発症した場合の治療法は確立されていませんが、発症の予防や症状の悪化を防ぐための対策を行うことが唯一可能な認知症です。
但し、脳血管性認知症では、障害を受けなかった脳は正常に機能することから、物忘れなどの記憶障害を、単なる「老化による物忘れ」と勘違いし、診断が遅くなるケースもあるため、注意が必要です。

脳のどこの部分が障害を受けたか、あるいはどのように障害されたかは人により異なるため、「物忘れは増えたが、本を読んだり難しい計算をしたりすることはできる」という方もいれば、「知識はあるが、計算力の低下が著しい」方もいるなど、人によって表れる症状はそれぞれ異なります。

また、脳血管障害が急性の場合、障害を受けた脳の機能はガクンと低下するため、症状は段階的に進行していきますが、「多発性ラクナ梗塞」などの場合は、ほとんど無症状の小さな脳梗塞が多発することから、脳梗塞の進行がゆるやかであるため、認知症の症状も徐々に進行していきます。そのため、「アルツハイマー型認知症」と間違われるケースも多くあります。

まだら認知症の特徴
  • 昨日できていたことが今日はできない。
  • 日や時間帯によって症状の強さが変動する。
  • 記憶力は低下しているが、物事を判断したり理解したりする力はある。(例)

まだら認知症の予防

まだら認知症は、脳血管障害によりダメージを受けた部分の機能のみ低下することによって引き起こされる症状であるということをお伝えしましたが、実際に、脳出血や脳梗塞といった脳血管障害を引き起こすことに繋がる主な危険因子には、高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、心疾患、飲酒・喫煙などがあります。これらは、日頃の生活習慣と深いかかわりがあることから、普段から、脳血管障害の発生を防ぐことを意識した生活習慣を心がけることが一番の予防となります。

高血圧
特に高血圧は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳卒中のリスクを高める最大の危険因子です。脳卒中の発症例の多くは、血圧の管理により発症を防げたのではないかという報告もあります。
高血圧は、血圧(血管内の圧力)が慢性的に高い状態にあることを指しますが、血管に常に負担がかかっていることになるため、血管の内壁が傷ついたり、血管が硬くなり、柔軟性がなくなる「動脈硬化」を引き起こしたりする原因となり、結果的に、血管が破れる脳出血や、血管が詰まる脳梗塞などを引き起こすことに繋がっていきます。

糖尿病
糖尿病とは、何らかの原因により、膵臓から出るインスリンというホルモンの分泌が低下する、あるいは分泌できなくなることによって、血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が慢性的に高くなってしまい、からだにさまざまな悪影響を及ぼしてしまう疾患です。自己免疫反応の異常やウイルス感染などが原因、あるいは原因不明で発症する1型糖尿病と、カロリー過多や運動不足、肥満などが原因で発症する2型糖尿病があります。2型糖尿病は、生活習慣病の一つであり、日頃の生活習慣や遺伝体質など、さまざまな要因が重なって発症します。
糖尿病による高血糖は動脈硬化を促進させることに繋がってしまうため、脳卒中を引き起こす危険性が高くなります。

脂質異常症(高脂血症)
血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や、中性脂肪(トリグリセライド)が正常値より高い、またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)が正常値より低い状態のことを指します。コレステロールや中性脂肪は体内で重要な役割を果たしますが、過度に増えてしまうと、血液の壁に余分な脂が沈着してしまい、「プラーク」という塊が作られてしまいます。
このように、血管の壁が分厚くなってしまったり、血管が詰まりやすくなったりしてしまうことから、脂質異常症は動脈硬化を引き起こす、あるいは促進させる原因となります。

以上が、脳卒中のリスクを高める主な危険因子になります。脳卒中のリスクを高める危険因子はさまざまありますが、それらの因子が合併すると、脳卒中を引き起こす危険性はより高まります。

脳卒中を引き起こす原因となるこれらの病気を予防するためには、日ごろの生活習慣の見直しが重要と言えます。

【栄養バランスの良い食生活を心がける】
  • 朝食、昼食、夕食の1日3食をきちんととり、間食はなるべく控える。
  • 過食は控え、腹八分目で食事を切り上げる。
  • 偏った食事内容は控える。
  • 早食いせず、時間をかけゆっくりよく噛んで食べる。
  • 就寝前2時間は食べないようにする。
  • 肉中心の食生活を控え、魚や大豆製品、野菜を積極的に摂取する。
  • 揚げ物や油炒めは、カロリーが高く、酸化した油は身体に悪影響を及ぼすため、なるべく控える。ゆでものや蒸しものといった調理法を多めにすると良い。
  • マーガリンやショートニング、バターなどは、身体に悪影響を及ぼすトランス脂肪酸が多く含まれているため、摂取を控える。
  • 食物繊維は、コレステロールの吸収を抑える効果などがあるため、野菜や海藻、キノコ類、玄米などを積極的に摂取する。
  • 清涼飲料水や菓子類など、糖質の過剰摂取を控える。
  • アルコールの過剰摂取を控える。
  • 外食をする際は、和食をとる機会を多くするよう意識する。
  • オリーブオイルやゴマ油など、質の良い脂肪酸を摂取するようにする。
  • 動脈硬化の原因となる「活性酸素」を除去する抗酸化作用の効果が期待できる食品を積極的に摂取する。(カボチャ、小松菜、トマト、ニラ、シソなど)
  • 濃い味(塩分の濃いものなど)は控え、出汁や香辛料、香りなどを利用し、薄味に慣れるようにする。
【適度に運動を行う】
  • 散歩やウォーキング、軽めのジョギング、サイクリング、水泳といった有酸素運動を、1回につき15分以上(脂肪が効率よく燃えるため)、毎日継続して行うことが理想的。
  • 徐々に運動量を増やしていくのが良い。
  • 運動はその日の体調に合わせて行う。治療中の場合、運動を行う際は、必ず主治医に相談するようにする。
  • 運動前のウォーミングアップ(準備運動)はもちろん、運動後のクールダウン(整理運動)は、疲労の蓄積緩和や、スポーツ障害の予防に繋がるため、実施するよう心がける。
  • 急激な運動はかえって身体の負担となるため、長く続けられるような軽い運動を行うようにする。
【その他】
  • 喫煙を控える。
  • 水分不足に十分注意する。水は一気に飲み干すのではなく、こまめに摂取していくのが良い。
  • ストレスも脳卒中を引き起こす要因の一つであるため、趣味や運動などで適度なストレス発散を心がけるようにする。

たとえ、まだら認知症を発症してしまった後でも、症状の悪化・再発防止を防ぐために、日頃の生活習慣に気を付けて生活することが、結果的にまだら認知症を防ぐことに繋がっていきます。

【まだら認知症を発症した場合の対策や予防】
脳血管性認知症を発症した場合、一部の脳の機能が低下しますが、リハビリテーションを行うことで、障害を受けなかった部分の脳の機能が、低下した機能をカバーしてくれるようになり、症状をある程度改善する効果が期待できます。

脳血管性認知症は、本人にも症状の自覚があるため、脳の機能に偏りがあることに悩んでしまう方も多く、リハビリテーションを勧めるのは難しいかもしれません。しかし、結果的に、リハビリテーションの効果が表れれば、本人の気持ちを良い方向へ導くことができます。
まだら認知症は、症状の強さに変動があるため、なるべく調子が良い時にリハビリに取り組むことがポイントとなってきます。日ごろから、症状がどのように変動するのか気にかけるようにし、記録しておくと、症状が悪くなりやすい時間帯やタイミング、環境などが把握しやすくなるでしょう。また、症状が強く出ている場合には、静かな環境で安静にさせることが大切です。

まだら症状が現れた家族にできること

まだら認知症は、障害が起きた部分によって、脳内の血流が悪くなる場所やその状態が変わることから、表れる症状も様々です。食事を食べたり、お風呂に入ったりしたことを忘れてしまっても、新聞を読んだり読み書きなどができることから、〝認知症なのでは?〟というイメージより、〝老化なのでは?〟という風に、本人も家族も勘違いしやすい傾向にあります。そのため、発見が遅れてしまうケースも多くあります。

家族は、脳卒中後の様子で、少しでもおかしいと思う部分があれば、本人の観察・記録を行い、早めに病院に連れていくことが大切です。特に、「多発性ラクナ梗塞」などの場合は、〝隠れ脳梗塞〟ともいわれているように、病変が小さく、自覚症状がほとんどないため、まだら認知症が脳梗塞の前兆として表れている場合もあります。気付かずに放置してしまうと、大きな梗塞を起こしてしまうことに繋がってしまうため、早めの受診が大切です。

病気の発見が遅れると、薬が増える

老化により、内臓機能や運動機能、認知機能が低下すると、怪我をしやすくなったり、自分で気づくことができた病気の兆候(例:血尿や血便、普段とは違う痛みなど)を、見逃してしまったりすることがあります。
また、高血圧や高血糖、脂質異常症など、生活習慣病になりかかっている状態で認知症になると、認知症の薬だけでなく、その他の病気の薬まで服用することになります。認知症が進行すれば、自分で薬を管理することも困難となり、家族など周囲の手助けも必要です。その為、日頃から健康に気を使った生活習慣を送ることは、まだら認知症を防ぐだけでなく、老後のQOL(生活の質)を高めるポイントとなります。生活習慣病になりかけている状態でも、健康な人であれば、食事の見直しや軽い運動を行うなど、生活習慣を見直し、自分で健康管理を行うことで、健康状態を改善することも可能となります。

先ほどもお伝えしたように、まだら認知症が脳梗塞の前兆として表れている場合もあるため、本人はもちろん、家族も、少しでもおかしいなと思うようなことがあれば、すぐに病院を受診し、早期発見に繋がるようにしましょう。

まとめ

今回は、「まだら認知症」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。

さまざまなタイプがある認知症の中で、患者数が最も多いとされている「アルツハイマー型認知症」では、時間が経つにつれ、脳の機能が全体的に低下していきますが、脳血管性認知症のように、脳の一部の機能のみが低下する場合には、〝まだら認知症〟という特徴的な症状が表れることをご説明させていただきました。
まだら認知症の場合、記憶障害が目立つようになっても、判断力や理解力があったりするなど、しっかりしている部分もあることから、老化による物忘れだと勘違いされ、見逃されるケースも多くあります。また、脳梗塞の種類によっては、発症する前に、認知症の症状が先に表れるケースもあります。

まだら認知症の治療は確立されていませんが、早期発見・早期治療を受けることで、進行を大きく遅らせたり、 脳のダメージを最小限に抑えたりすることに繋げることができます。
私たちが今日から出来ることは、健康を意識した生活を送ることです。まだら認知症の発症や再発を予防することも十分可能ですので、まずは、生活習慣の見直しや改善を行うことから始めてみてはいかがでしょうか。

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