スマートフォンやパソコンといったデジタル機器の進化により、今は、ネットワークに繋がりさえすれば、どこにいても、知りたい情報が手に入る時代となりました。特に、2010年代から急速に普及し、生活必需品の一部として定着しつつあるスマートフォンは、世代間で差はあるものの、多くの方にインターネット接続端末として利用されています。
しかし、このようなデジタル機器は、非常に便利なツールである反面、心身の健康に悪影響を及ぼすことも懸念されています。特に、認知症のような症状が現れる「デジタル認知症」は、日常生活や社会生活に大きな支障をきたしているにもかかわらず、自覚症状がないことが多いため、注意が必要です。
そこで今回は、「デジタル認知症(スマホ認知症)」が引き起こされる原因や対策・予防法などについてご紹介したいと思います。
デジタル認知症とは
スマートフォンやタブレット、パソコンといったデジタル機器への過度な依存は、脳疲労が起こり、意欲や記憶力の低下といった認知症のような症状が現れることがあります。このような状態を、「デジタル認知症」といいます。
■デジタル認知症の主な症状
▶記憶力の低下(仕事や生活に支障が出るほどの、ひどい「物忘れ」)
▶意欲の低下
▶理解力、判断力の低下
▶集中力・注意力の低下
▶言語障害(「構音障害」や「失語症」など)
「デジタル認知症」は、脳の疾患が原因で現れる認知症とは異なり、病気として分類されるものではありません。ただし、若年性認知症発症のリスクとなる可能性があることも分かってきており、脳に悪影響を及ぼす症状であることは確かです。
また、「デジタル認知症」は、子供から高齢の方まで、すべての世代で発症する可能性がありますが、特に若い世代が発症しやすい傾向にあります。これは、脳が成長する過程で、スマートフォンなどのデジタル機器に依存すると、脳の発育に異常をきたしてしまう可能性が高いことや、スマートフォンを所有している方が、若い世代に多いことなどが理由として考えられます。
総務省「令和元年通信利用動向調査」のモバイル端末の保有状況(個人)では、「スマートフォン」の保有者の割合が67.6%という結果になっています。
また、世帯でみても、固定電話やパソコンの保有が70%程度であるのに対し、スマートフォンは80%超えと、 パソコンなどを上回っていることから、スマートフォンは生活の必需品の一部として定着しているといっても良いのではないでしょうか。
そのため、「デジタル認知症」は、特にスマートフォン依存による物忘れなどに注目して「スマホ認知症」と呼ばれることもあります。
スマートフォンの保有率は、低年齢化傾向にあります。まさに、ネット社会に頼る〝今〟にふさわしい現代の病と言っても過言ではありません。
それにともない、スマートフォンの使用がやめられない、スマートフォンが使用できない状態が続くと落ち着かないなど、精神的に依存してしまう「スマホ依存症」が深刻化してきています。
デジタル認知症の原因
デジタル認知症あるいはスマホ認知症は、以下のようなことが原因として考えられています。
▶デジタル機器(スマートフォン、タブレット、パソコンなど)への過度の依存
▶デジタル機器からの膨大な情報を脳が処理しきれず、脳疲労を起こす
▶デジタル機器の長時間使用により、脳内物質のバランスが崩壊し、脳に深刻なダメージを与える
何か疑問に思ったことや知りたいことが出てきた時に、ネット環境が整っていれば、どこの場所にいても、すぐに欲しい情報を集めることができるというのは、デジタル機器の最大の長所です。しかし、その分、自分の頭で考えたり、記憶したりする習慣が極端に減ることから、認知機能が低下し、結果的に、「人の名前が出てこない」、「重要な約束事を忘れる」といった、認知症のような症状が現れることがあります。
また、スマートフォンやタブレットの使用中は、常に過度な量の情報(文字や映像など)が脳に流れ込んでくる状態になります。
インターネットでの情報検索・SNSなどの利用過多によって、スマートフォンなどからの膨大な情報を絶えずインプットし続けると、脳がオーバーヒートを起こし、情報の処理が追いつかなくなってきます。脳が情報を処理しきれなくなる状態は、「脳疲労」や「オーバーフロー脳」と呼ばれ、「デジタル認知症」を引き起こす原因をつくります。
さらに、デジタル機器の長時間の使用は、脳の神経伝達物質である「エンドルフィン」や「ドーパミン」が過剰分泌されるといわれています。それにより、脳神経細胞が死滅し、脳内にゴミが溜まるのも原因の一つです。
スマホ依存チェック
スマートフォンに依存する、いわゆる「スマホ依存症」は、
・スマートフォンの長時間の使用により、日常生活や社会生活、学校生活などにおいて、さまざまな問題が発生しているのにも関わらず、使用がやめられない
・常にスマートフォンをチェックしていないと不安である
・スマートフォンが使用できない状況が続くとイライラする、落ち着かない など
スマートフォンに夢中になるあまり、精神的に依存してしまい、やめたくてもやめられない状態のことをいいます。
スマートフォンの利用により引き起こされる「スマホ依存症」は、アルコールや薬物・ギャンブル等の一般的な依存症と同じに扱うかが議論されているところであり、明確な定義や診断基準はありません。しかし、さまざまな媒体が独自のチェックリストを作成していますので、自身の状態や家族の様子が気になる方は、一度参考にしてみると良いと思います。
ここでは、スマホ依存の特徴を一覧に致しました。
当てはまる項目が多いほど、スマホ依存症の可能性が高くなります。
▶食事の最中でもスマホを見てしまう。
▶トイレの時、必ずスマホを持っていく。
▶入浴時、脱衣所に必ずスマホを持っていく。
▶就寝時は、スマホを身近に置いている。
▶メールやSNSを必要以上に確認する。
▶誰かと一緒にいる時、スマホをいじることが多い。
▶歩行中もスマホが気になる。チェックする。
▶運転中、手の届く場所にスマホを置いている。
▶スマホを忘れると不安になる。
特に子供のスマホ依存症は大変深刻な問題で、脳の発達に悪影響を及ぼしてしまううえに、大人と比較すると自制心が効かない傾向にあるため、スマホ依存症のリスクは高いといわれています。
依存状態の脳は、記憶力や注意力といった認知機能に関わる部分や、感情の読み取りに関わる部分が影響しやすく、依存状態が長引いてしまうと、引きこもりになってしまうケースも考えられます。そのため、スマホ依存は、速やかな治療が必要です。
最近では、「スマホ依存症」を取り扱う病院も増えてきており、画像診断などで依存症の進行度を判定したり、 家族からの相談に応じたりします。依存症は、本人には自覚がなく、家族が気付くというケースが多くあります。少しでも気になる様子があれば、専門の外来がある病院に、一度相談してみても良いでしょう。
デジタル認知症(スマホ認知症)の直接の原因は、〝長時間にわたるデジタル機器の使用〟です。スマホ依存症が改善されれば、結果的に、デジタル認知症の予防へと繋がります。
デジタル認知症の対策&予防
次に、デジタル認知症の対策と予防についてご紹介させていただきます。
分からない言葉があれば紙の辞書を使って調べる、旅行先で道に迷ったら、お店の人に尋ねてみるなど、できる限りスマートフォンに頼らない生活を意識するようにしましょう。
デジタル機器を使用しない時間帯を作るようにしましょう。例えば、「電車やバスに乗っている間はスマートフォンを使用しない」、「お風呂場や寝室にはスマートフォンを持ち込まないようにする」など、実行しやすい簡単なルールで良いため、決めておきましょう。
スマートフォンの機能などを使って、毎日の使用時間を把握するようにしましょう。自分は1日の中で、どれだけの時間デジタル機器を使用しているかが可視化されるため、意識しやすくなります。
デジタル機器使用後は、必ず、一定時間休憩をとるようにしましょう。
警告通知などは仕方ありませんが、基本的に緊急性の低い通知はすべてオフ(SNSの通知など)に設定し、通知を最小限に抑えておくようにしましょう。
特に目的はなくても、なんとなくアプリを開いてしまうという方も多いと思います。スマートフォンの使用時間をできる限り抑えるためにも、必要のないアプリは隠す、あるいはアンインストールするようにしましょう。
丸1日、あるいは数週間、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器から離れる期間を作ることで、脳を休めさせます。ルールを破ったときの罰則を自分の中で決めておくのも良いでしょう。
スケジュール帳を購入し、スケジュール管理は手書きで行ったり、計算機アプリを使用せず、暗算や紙に書いて計算したりするなど、日頃からアナログを取り入れるように意識すると良いでしょう。
ブレインフードとは、脳の機能を改善させる効果が期待できる食品のことです。例えば、アジやイワシなどの青魚に多く含まれている「DHA(ドコサヘキサエン酸」には、脳の炎症を抑える作用があり、知的機能や記憶力の改善・維持に効果があるといわれています。また、「カカオ」には、脳の血流量を増やす作用があり、認知力を向上させる効果が期待できます。ただし、一般的なミルクチョコレートは高糖質・高脂質であるため、加工の少ないローカカオがおすすめです。
他にも、ブレインフードと呼ばれている食品はさまざまありますので、普段から意識して取り入れてみるようにしましょう。
睡眠中は、脳の老廃物の排出が促されます。睡眠不足や不眠は脳疲労の蓄積に繋がるため、寝る前のデジタル機器の使用は控え、質の良い睡眠がとれるように心がけましょう。
散歩やマラソンを行う、人と会話する、掃除や洗濯を行うなど、朝の時間帯に何か活動を行うよう意識するようにしましょう。脳の活性化に繋がります。
スマホ依存はうつ病のリスクもある
先ほどご紹介した「スマホ依存症」には、うつ病を引き起こしてしまう危険性があることも分かってきています。
・スマホを見る時の姿勢が原因
目線を下にし、前かがみの状態でスマートフォンを長時間使用することによる、首や肩の凝り、目の疲れは、食欲不振や不眠、めまい、頭痛などの症状を引き起こしやすくなる原因となります。このような状態が慢性的になると、うつ病に移行するリスクが高くなります。
・他人と自分を比較しやすくなった
SNS上で他人の投稿を目にすることで、相手と自分を比較してしまい、うらやむ気持ちが生じたり、悲壮感を覚えたりします。また、SNSの利用は精神衛生上良くないことは分かっていても、本人は繰り返し利用してしまい、悪循環に陥ってしまいます。
・人付き合いなどに問題が生じた結果、ネガティブな感情が出やすくなる
スマホ依存症により、スマートフォンの使用に歯止めがきかなくなり、仕事やプライベート、人付き合いにまで問題が生じることにより、焦燥感や孤独感、コンプレックスといったネガティブな感情が強く現れやすくなります。
・注意力の欠陥
スマートフォンは脳に対しての刺激が強く、スピーディーかつ簡単に使用者を満足させることができますが、注意力の持続時間が短縮する原因となり、さらにその刺激に慣れてしまうと、飽きっぽくなる傾向にあります。
まとめ
今回は、「デジタル認知症(スマホ認知症)」についてお話させていただきましたが、いかがでしたか。
デジタル機器の過度な使用が原因で生じる「スマホ認知症(スマホ認知症)」は、とにかく脳を休めることが症状の早期回復に繋がります。
スマートフォンなどのデジタル機器は、私たちの生活には欠かせない存在となってきていますが、心身に及ぼす影響などもしっかり理解しておく必要があります。その便利さに依存するのではなく、使うところと使わないところをはっきり区別させ、上手に活用していくようにしましょう。